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020:帰路と旅路へ


 あの後アンジェの所に戻り、根掘り葉掘りと事情や何をやってたのかと聞かれた。

 勿論彼女(リッカ)にも事情というものもある。適当に嘘で濁しておいた。

 彼女達に自殺を諦めている少女を励ましたなんて言えるわけもないしな。


 下校時間を知らせる鐘が鳴り、生徒に帰宅の時間を伝える。

 この時間まで残っている生徒のほとんどは部活動を行っている生徒だ。

 俺達が居た魔術道具部も部屋を閉じる準備を開始する。


 俺は慌ただしく片付けをしている部員の間を縫うように進んで教卓に辿り着く。

 そして一応持ってきておいた入部届けに自分の名前を書き、教卓の上に分かりやすく置いておいた。


 本当は部活動に興味なんてないし、第一特待生は部活動をしていなくても成績さえ残せば自動で卒業できる。

 なのにどうして魔術道具部を選択したのかと言うと、リッカに自分の武器を修理してもらう為だ。


 同じ部活動内ならば、違う学科の人間でも会話がしやすい。特に貴族間でも噂になるような彼女と話すには同じ部活というのが都合がいいのだ。

 俺にとって武器は切り札だ。故に俺の武器はできるだけ外に見せたくない。

 手の内を晒すことは苦手だし、自分を不利にする。


 それに、あの武器は黎黒にしか手に入らない物だ。

 それを持っているだけで、黎黒の事を知っている人間にはすぐに俺の正体がバレる。

 幸いリッカは黎黒の事を知らなかったので都合が良かったし、彼女は口が硬そうだ。

 故に彼女に武器を任せることにした、まぁ彼女が黎黒の事を知っていたとしても修理を優先しただろうが。


 片付けが終了し、皆が帰宅していく。

 なので俺も、フェリスとアンジェについて行き、生徒用の出入口までたわいのない話で盛り上がりながら行った。

 ちなみにリッカは学院の土地の中にある寮暮しなので、途中で別れた。


「それじゃあ、今日はそろそろ解散ってことで! お疲れ様ー!!」


 校門につき、フィリスが高らかに宣言する。

 今終わったというのに、元気なことだ。

 その元気を分けて欲しい。


「お疲れ様ー」


 彼女達は手を振りながらそれぞれ帰路につく、俺は手を振り返しつつ、彼女達が見えなくなるのを待った。

 全員帰る方向が違うので、校門で別れているのだ。


 いつもは俺もすぐに帰るのだが、今日はどうやら状況が違うようだ。


「そろそろ出てきたらどうだ?」


 俺は他に生徒が居ないことを確認してから後ろを振り向き、校門に立てかけてある木の板に目を向けた。

 いつもそんなものは無い、朝も無かったので怪しいとは思っていた。


 多分、あれは幻惑魔術の擬態(シミュレート)だ。

 そして、俺が気づけるギリギリまで雑く魔術が施されている。

 そんな芸当を俺にするような人間、俺は1人しか知らない。


「ハフリー、何か用があるのならば早く言ってくれ」


 木の板の輪郭線がどんどん歪み、色が変わって人型になっていく。

 その姿は見覚えのある黒コートにソフトハットを被った胡散臭い男に戻った。


「まぁ用事って程じゃないんだけどねぇ」


「嘘つけ、1ヶ月ほど俺の近くに現れなかった癖に、今日になって急に来たんだ。何か俺に関係する何かがあったんだろ?」


「そういうこと、君に頼みたいことがあって来たんだ」


 彼は俺の横を通り抜け、道路の方に指を鳴らす。

 音に反応して一瞬で空気が弾ける。

 そこにはいつの間にか彼の車があった。

 元からあったものを幻惑魔術で隠していたんだろう。俺でも車の存在には気づけなかった。


「君には今からアルヴェンツェ領に向かってもらう。僕と一緒にね♪」


「アルヴェンツェ領?」


 確かリッカの実家———アルヴェンツェ伯爵が領有する土地だ。

 今日フェリスから聞いたのですぐにわかった。


「何故かは、今は聞かないでおこう」


「そうしてくれ、できるだけ外部には漏らしたくないんだ。あ、勿論君には断る権利もある。どうだい? 一緒に来てくれないかい?」


 彼は俺が断る権利があると言いつつも助手席扉を開けてこちらを見る。

 明らかに断ることを想定していない態度に思わずため息が出た。


「…明日も登校日だが、しょうがない。行こう」


「話をよく聞いてくれるいい子で良かった、さっすが我が息子」


「誰が息子だ誰が」


 彼に進められるがままに車に乗る。

 前乗った時よりも車内には変な置物や趣味の悪いぬいぐるみが置かれていた。

 奇抜かつ異次元的な装飾は勿論彼の趣味でおこなっているのだろう。これを芸術と形容するにはまだ少し魅力が足りない。


「さて、時は金なり。ゆっくり行っても明日の昼にはつくだろうけど、朝までにはつきたいから急ぐよ」


「できるだけ事故らない運転で頼むぞ」


「任せておきなって、これでも練習したんだからさ」


 ハフリーは一気にエンジンを踏む。

 ボッという音と共に車体が小刻みに揺れる。

 だがおかしい、前回乗った時よりも明らかに振動が大きい。

 まるで車体が悲鳴を上げているようだ。


「しっかり掴まっておくんだよ! 舌噛むからねぇ!!」


「ちょっお前、エンジン変えただろ…! それも市販じゃ売ってないようなやつに……!!」


「あぁ! 軍が研究している超馬力エンジンさ!! 前回の5倍は早く走れるよぉ!!」


「運転免許とって数ヶ月の人間が使っていいやつじゃないだろそれ!?」


 速度メーターが限界に達したのを確認し、ギアを変更する。

 タイヤが空転しながら、それでも凄まじい速度で道路を駆ける。

 俺が身体強化(フィジカルブースト)脚力強化(レッグブースト)を使った時よりも少し早い、窓の外の景色がすぐに入れ替わっていく。


「ひゃっはアァ———!! やっぱり速さは正義だねぇッ!!」


「オイオイオイッ! こんな速度で走ったら流石に事故るぞ!! 大丈夫なんだろうな!?」


「まぁ大丈夫だって! 多分ッ!!」


「その多分って言葉が不安なんだよ!!」


 自分の位置すらまともに分からなくなるような速度で走っているのにも関わらず、ハフリーの顔は正気とは思えないほどに笑っている。

 あれは何も考えずにただ楽しんでいる時の顔だ、不安すぎる。


 だが、こんな速度だが操作は大丈夫そうだ。

 ハンドルがとられることもないし、むしろ安定して真っ直ぐ走っている。

 レンガで舗装されているからではない、多分この車自体に何かしらの魔術を使って制御している。

 先程まで観察する余裕もなかったが、冷静に考えると案外安心できる。

 彼の得意な変性魔術によって速度を維持しつつ座標を固定して移動を補助しているのだ。


 どうせ彼の事だ、その魔術を幻惑魔術で隠して、俺をおちょくっているのだろう。

 だから彼も楽しめているのだ。


「……あぁそうか、考える暇がなかったが今気づいた。魔術制御で事故らないようにはしてくれているんだろう?」


 俺は答え合わせを求める。

 が、彼の表情は少しだけ焦りを見せた。

 彼は小声で呟く。


「そっかぁ、その手があったかぁ……」


「え、今なんて言ったんだ?」


「いや、君は知らなくていいことだよ」


 変に濁されてしまったが、俺が知っていたとしても使えない技術だ。

 彼が答えを言わないということはこれが正解なのだろう。

 なら心配することは無い。ただ速度に身を任せ、快適に椅子に背を預け目を瞑っておけばいいだけの楽な旅だ。


 俺は疲れた体を背もたれに預け、深い眠りに落ちた。



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