016:魔術器界の異端児
「……幼女?」
「幼女じゃないやい! これでも立派な18歳だよ!!」
彼女は俺の幼女という言葉を聞いて、頬を膨らませ椅子の上で手足をバタバタと振り回す。
怒り方も幼女らしくて、つい笑ってしまった。
「…話を戻すよ、私に何の用だね? もしかして喧嘩かい? 悪いけれど、私は煮ても焼いても弱いままだから、戦う意味もないよ」
「別に喧嘩をふっかけに来た訳では無いのだが…」
「そうなのかい、私はてーっきり君が特待生を狩り回ってるのかと思ってたよ。アッハッハ」
違う、あれは彼奴らからふっかけて来た喧嘩だ。と訂正する暇もなく彼女は椅子のキャスターを回して回転する。
やはり仕草が幼児っぽくて面白い。
「ム、じゃあ私への用はなんなんだい? 私に用がある人なんて居ないから、よく分からないんだなぁこれが……」
笑っていたと思ったら、急に俯き、親指を唇に当てて熟考しだす。
感情の起伏の激しさも幼女だ。彼女の全てが6歳くらいの幼児らしい。
見ていて飽きない。
「これについて聞きに来た」
俺は布に包まれていた鉈型の魔術器を彼女に渡す。
彼女はそれを重そうに受け取ると、急に目をキラキラと輝かせた。
「キミ、もしかしてこれの価値がわかるのかい!?」
さっきまで重そうに持っていたものを軽々と持ち上げ椅子から飛び降り、俺に詰め寄る。
思わず俺でもたじろぐ程の圧だ。
「これは私の師匠が作った最高傑作の1つを私と師匠で模倣した物で、銘を闇を穿う月刀と言うんだ。名付けは私がやって、師匠と共に作った私にとっても最高傑作でもある。鉈と蛇腹剣の融合というのは———」
「あぁもうわかったから一旦落ち着け。まず椅子に座って深呼吸だ」
早口で武器について語り出す彼女の肩を持って椅子に座らせ、深呼吸を促す。
2回程深呼吸をさせた後、彼女は落ち着き恥ずかしそうに頭を搔く。
「いやぁすまないね。好きなことになるとつい口が止まらなくなるんだ」
「別にいい。それで、お前の師匠って…」
「あぁ、ヴェルンハルト・アルヴェンツェ。私の祖父にして魔術器界の異端と呼ばれた、私の最高の師匠さ!」
ヴェルンハルト、その名前には聞き覚えがあった。
黎黒専用の変形武器を作成していた軍部魔術器工房に勤めていた、通称「異端」。
対価と浪漫の為に武器を作り、俺も彼の武器が好きだった。
今まで稼いだ金の半分は彼に投資していたくらいには。
彼は言っていた、「面白くない武器が、いい武器なわけがねぇ。面白いから強いんだ」と。
俺もその言葉に共感していた。
まさか彼に孫が居て、彼の遺志を継いでいたとは。
「まさか彼に孫が居たとはな」
「…もしかして、祖父を知っているのかい!?」
「あぁ、彼の武器を愛用していた。彼が死んで修理が出来なくなってからは使わなくなったが、今も数個程度は手元にある」
「……!! 見せてくれっ」
俺は彼女に言われたので、ポケットに手を入れ中から1つのポーチを取り出す。
鍵穴のない錠前のついたポーチだ。名前をマジックポーチと呼ぶ。市販のものではない特注品で、この国では俺と同行者であった純白しか持っていないだろう逸品だ。
俺は親指に人差し指の爪を押し付け、皮膚を切る。
切り傷から血が浮かび上がる。
「お、おぃ。大丈夫かい?」
「大丈夫だ、まぁ見てろ」
俺は錠前に血の出た親指を押し当てる。
すると鍵が開き、ポーチが開いた。
この錠前は俺の血にしか反応しないように魔術式を組んでいる為、このように血を押し当てないと開かないようになっている。
この錠前こそが、特注品の由来だ。
マジックポーチの中は黒い空間が無限に広がっている。
実際は10キロメートルの正方形の空間らしいのだが、細かいことはどうでもいいくらいには広い。手を伸ばせば中にある物から勝手に吸いよってくるため、収納道具としてはもってこいだ。
俺はそこから3個の武器を取り出した。
「ほら、これがお前の祖父が作ったものだ」
刃のついた杖や対になった合体する双剣、先の別れる槍など、多岐に渡る物だ。
彼女はそれらを手に取り、舐めまわすように見た。
「流石、師匠の武器……! すごい…!」
「喜んでくれて何よりだ」
それらの武器は、俺が黎黒だった時に愛用していた物だ。
時に敵には獣や魔物を使役する者もいる。銃型魔術器では対応できない敵は多い。
故にこのような殺傷能力と破壊力の高い武器が必要だったのだ。
まぁ故に使い方が荒く、故障の原因となってしまったのだが。
そんな故障して使えなくなった武器だが、彼女を喜ばせるには十分だったらしい。
「ねぇ、私がこれを修理してもいいかな?」
「できるのか?」
「あぁ、師匠に教わっているからね。構造とかはだいたいわかる」
願ったり叶ったりな願いだった。
勿論俺は首を縦に振った。
「よろしく頼む」
「あぁ、期待しておいてくれよ。ヴェルト君!」
初対面だったのに、俺達は固い握手を交わした。
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