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015:魔術道具部


 それから俺達は宛もなく学院内を彷徨うことになった。

 元々フェリスが言っていた魔術槍部の見学をする予定だったのだから、その予定が空いてしまい暇になったのだ。


 元より、俺とアンジェに見てみたい部活動はないので、フェリスの提案でとりあえず歩いて気になる部があったら見に行くことにした。


「にしたって、広すぎる…私歩くの飽きちゃったよー」


 歩くことに疲れたフェリスが愚痴を零す。

 確かに、この学院は広い。

 普通科、魔術科、魔術化学科それぞれの校舎が1棟ずつ存在し、更にはそれよりも広いグラウンドに中庭、競技場や体育館もある。

 部活動の種類は50を超えており、どの部活に入ろうにも数が多すぎて悩んでしまう。


「…埒が明かない、次あたりに見かけた部活動を見学しよう」


「賛成、わたしも歩き過ぎて疲れちゃった。出来れば吸われる場所で見学したい」


「じゃあそうしよう」


 今は魔術化学科の校舎に居るので、折角なのでここの校舎内で探してみることにした。

 正直、ここに居る3人は魔術化学に関してはド素人であるし興味もない。

 だが、せめて今日は何か見学してから帰りたいという意地があった。


「…あった、これでいいか?」


 校舎の端にある、実験室の扉を指さす。

 そこには張り紙が貼ってあって、「魔術道具部、入部者募集中」とだけ書いてあった。

 剥き出しの木の戸に張り紙だけが貼ってあり少し不気味で威圧的だが、俺は扉に手をかけた。


「入ってみよう」


「ちょ、ちょっと待って。絶対ヤバい雰囲気じゃない。ほら、他の扉と違ってここだけ塗装剥がれてたりするし!!」


「まぁ塗装が剥がれてるだけだろ。それにそろそろ歩くのも飽きたって言ってたじゃないか。いい機会だろ」


「いやいやいや、私知ってるもんそういうのはヤバいって!!」


 騒ぐフェリスを完全に無視して扉を開けて中に入る。

 そこは木造の——いや違う、従来の部屋に木の板を釘で貼り付けたような部屋だった。

 床には机が6つほど並べられていて、机の上では様々な実験のようなことが行われていた。


「すみません、見学に来たんですけど」


 俺は慣れない敬語と共に小さく腰を曲げお辞儀をする。

 先程のように平民反対みたいな人にちょっかいをかけられたら面倒だから、最初から(へりくだ)っておく。


「お、見学者か。いらっしゃい」


 目に革の帯の上質なゴーグルを付けた、紫のフラスコを炎で熱している上級生が出迎えてくれる。

 魔術で炎を出し熱しているのだが、その明らかに危険な状況で近づいてきたので思わず1歩後ろへと下がる。


「あ、ごめんね。この実験は中断できなくて、今やっておきたいからこの姿勢で失礼するよ」


 それに対して彼は軽く謝り、少し後ろに下がった。

 魔術化学、魔術と化学の融合だと聞いているが、見ている限りだと確かに魔術と化学を使って実験をしている。

 そういうものなのかと関心していると、後ろから忍び足で扉からフェリス達が入ってきた。


「どう、ヤバい所じゃない?」


「大丈夫だ、普通の場所だよ」


「なら良かったぁ」


 2人を中に入れて、しばらく待機していると、先程出迎えてくれた上級生が来た。

 フラスコを今度は氷水に浸けている。氷水の入った桶を持ちながらだったので少し驚いた。


「ごめんね、みんな研究にうち込んでて、暇なのが僕しかいないんだ。だから見学者の対応とかよくわからなくてねぇ」


 氷水を持っていることに気づき、彼はすぐに近くの机にそれを置いた。

 無意識にそれを持っていたのだろうか、かなり天然だ。


「てなワケで気にせず自由に見学してって欲しい。実験の邪魔にならない程度なら僕達も質問に答えるからさ」


 そう言って彼はすぐに桶を持ち直し、彼の実験が並ぶ長机へと戻って行った。

 完全に放置されてしまった。


「…とりあえず、見て回ろっか」


 フェリスの提案に俺とアンジェは黙って頷いた。



 魔術道具部は、どうやら魔術を使った化学道具の作成を目的とした部活らしい。

 いまさっき来てくれていた上級生が作っているものは、内部に魔術式を仕込み、魔力を込めることによってタイマーが作動する時限爆弾らしい。

 危険な物を作っているなとは思ったが、危険な事をやらないと先へは進めないのだろう。

 技術革新は大変そうだ。


 全員の実験を一通り見て回るが、やはり初心者の俺にはよく理解できない。

 フェリスも同じらしく、実験や課題報告等の書類を見て首を傾げている。

 一方アンジェに限ってはもっと酷そうだ。もはや実験の意味すら理解していない節がある。


 俺は実験から目を逸らし、壁に貼ってある課題報告書類を見る。

 どれも緻密な計算の施されたものだ。計算と実験を繰り返し行うことで、改善点を見つけようと努力している。


 なるほど、実験とはそうやって進めるものなのか。

 納得した、俺はてっきり最初っから答えがわかっているもので、それの確認の為に実験をしているのだと勘違いしていたのだ。


 今度は棚に置いてある布に包まれた物を手に取る。

 布を解き、中を見るとそれはどうやら魔術器のようだ。


 まず最初に驚くはその形の歪さ。

 (なた)のような形に複数の亀裂が入ったような外見だ。鉈の背の部分には大量の棘があり、外見に優美さなどは一切感じられない。

 魔術式が表面に刻まれており、これが魔術器であることは一目瞭然だ。


 持ち手にはスイッチのような物がついており、気になったので押してみる。

 すると鉈が亀裂の所から分解され、蛇腹剣(じゃばらけん)のように鎖で繋がった剣の(むち)のような状態になった。

 鎖は魔石で出来ており、魔術器としての機能はちゃんと備わっている。


 鉈としての近接攻撃能力と、鞭としての遠距離への牽制能力を兼ね備えた武器、俺は思わず感嘆の溜息を吐いた。

 俺が黎黒であった時、よく使っていた多機能武器とよく似ていたからだ。あの時の武器は製作者が死んでしまって修理が出来なくなってしまった為に使うことも無くなったが。


 気になって、早速実験の休憩中の人に聞いてみることにした。


「あぁ、それはリッカの作った物だよ。特待生の」


 特待生…あぁ、確かに魔術化学を専攻している特待生を聞いたことがある。

 早速リッカと呼ばれる人の場所へ案内してもらうことにした。


 案内と言っても実験室の隅にある木の板の壁で囲まれた個室に引きこもって、ずっと何かを作り続けているのだとか。

 早速扉を開けて、中を覗き込む。


 そこには魔動ノコギリで金属を切断している人がいた。

 全身を白衣に包み込んだ人だ。

 俺は扉をさらに開け、中に入った。


「お前がリッカか?」


 声をかけようと近づくが、扉の中は騒音の嵐だ。

 壁の板には防音魔術が敷かれていて、中の音を外に漏らさないようにできているらしい。

 故に部屋の中で音は反射し続け、鼓膜が破れそうな程の騒音のせいで俺の声は届きそうにない。


 仕方がなく耳を塞ぎながら、リッカの作業が終わるのを待った。

 待つと言っても、持ったよりすぐに金属を切断する作業は終わったのだが。


「やぁ、初めまして。ヴェルト君」


 椅子に座っていたリッカは立ち上がり、俺の方を向いた。

 俺はその姿に少なからず驚いた。

 深緑色の髪を後ろで三つ編みにした、ターコイズブルーの瞳が特徴的な少女。

 着ている白衣を地面に擦るほどに小さな背丈、多分俺よりも30センチメートルは低いだろう。

 俺の身長が162センチメートルなので、彼女は130センチメートルほどしかない。

 そして顔の幼さ。まるで10歳の少女を見ているようだ。


「私はリッカ、リッカ・ノエル・アルヴェンツェ。この魔術化学部の異端児だよ」


 彼女は微笑みを1つ零し、白衣の裾を掴み貴族風の礼をした。




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