014:一方的な試合
魔術槍、それは槍と盾を使った競技だ。
相手の体に槍を当てると1点で、先に5点とった方が勝ちとなる。
この競技の最大の特徴、それは胴をすっぽりと覆えるような大きさの盾がある所だ。
盾は魔術器ではないため魔術を使うことは出来ない。だが対魔術の付呪が施されており、これを使うことで相手からの攻撃を防御することが出来る。
槍は木製の棒で出来ており、先端に着いている魔力の篭った鉱石——魔石と、棒の内部にある魔術式によって簡易的だが競技用の魔術を使用できる魔術器になっている。
これで魔術を使い、戦略と技術で戦うのだ。
ちなみに体に魔術を当ててもポイントにはならないが、当てることは許されている。
殺傷能力にある魔術は禁止されているので、重い怪我の心配もないのだそうだ。
早速フィリスに渡された装備をつけてみて、まず最初に軽さに驚く。
俺がいつも使っている銃型の魔術器の方が重いのだ。木製と金属製の違いはあれど、軽い物を使う経験は少なかった。
ちゃんと使えるだろうか。
「ヴェルト君…ごめんね」
フィリスが申し訳なさそうに俺を見る。
この戦いは彼女が原因ではない、俺が相手からの喧嘩を買っただけだ。
だけど、彼女は自分のせいでこの戦いが起こったと思っている。
「気にするな、俺も奴に腹が立っていたんだ」
それを訂正しようとしてそう言ったのだが、彼女の表情は曇ったままだ。
仕方ないだろう、俺はこの競技の事はさっき彼女から聞いたばっかりの初心者なのだから。
俺は相手の方を見る。
相手は俺には渡されていない競技用のプロテクターを装着し、俺を虐め抜くことを妄想しているであろう勝ち誇った笑みを浮かべていた。
槍も俺の物とは違う。多分あれは競技用の槍では無いだろう。
競技用の威力の抑えられた魔術ではない、殺傷能力のある魔術を撃ってくる可能性もある。油断せず注意しなければいけない。
なんせ勝てる相手に手加減のし過ぎで負けるなんて恥ずかしいものだからな。
「それに、俺は思ったより喧嘩が好きらしいしな」
軽い棒の槍を振り回す。
先に着いている魔石のおかげで先に重心が寄っている。突きや横振りがやりやすい。
武器としては十分だ。あとは耐久面だが、それも競技用としての物だし、本気で振っても耐えれるだろう。
「そろそろ始めよう」
壇上の真ん中に審判が登ってくる。
審判は魔術槍部の人間だ、下手したら奴に有利に働くように審判をするかもしれない。
まぁ、その時はその時で何か対策を考えることにしよう。
双方の準備が整っていることを確認し、審判が手を挙げる。
振り下ろした時が開始の合図だ。
俺は審判に目を向け、合図を待った。
「試合、開始!!」
審判の手が振り下ろされる。
まず先に動いたのは相手だった。
「はッ! 初心者の平民風情が、腹がガラ空きなんだよ! 雷電刺突ッ!!」
盾も槍も構えずに、棒立ちで立っている俺に対し、槍を使ったリーチを生かす雷撃の刺突を放つ。
雷電刺突、殺傷能力のある雷属性の魔術だ。やはり怪我をさせる気でこの勝負を挑んできていた。
注意しておいてよかった。
相手の言葉的に狙うは腹だろう。
ならばと、すぐさま盾を横に持ち、槍が胴に届かないギリギリまでに盾を相手の槍の下に潜り込ませる。
そして、盾に力を入れ、上に持ち上げるように弾き上げた。
「うぉッ!?」
相手の槍が弾き上げられ、姿勢を崩す。
初心者だと高を括っての攻撃だったのだろう、おかげで簡単に相手の姿勢を崩すことができた。
すかさず相手に接近し、槍を向ける。
相手もこの部活のキャプテンを担っているだけはある。姿勢を崩しつつも盾を胴に構え、俺の攻撃に備えている。
身のこなしは一般人とは言えないらしい。
だが、俺には通用しない。
槍で突き、相手の盾を押し出す。
体勢が元から崩れていた相手の体勢はさらに崩れ、後ろへと仰け反る。
その隙を利用し、槍を向けた。
狙うは下顎、一気に槍で突きを入れる。
「ガぁッ…!」
槍は相手の顎に吸われるように当たる。
顎を狙った理由は簡単だ、胴は盾によって守られていたし、何より顎への衝撃は脳へと届くようになっている。
相手は脳への衝撃により立ち上がれなくなるのだ。あまりにも強い衝撃だと死んだり全身麻痺等の後遺症が残ったりするので今回は手加減したが、それでも奴はしばらく立ち上がれないだろう。
「これでいいか?」
槍で相手をつつき、地面に転がす。
意識はあるだろうが、少し強く突き過ぎた。奴の意識は朦朧としていて、しばらく喋れそうにもない。
当たり所が悪かったのかもしれない。悪いことをした。
「…まさか、キャプテンがこんなあっさりと…!?」
「すげぇ! うちの部じゃ誰もキャプテンに勝てる奴なんて居なかったのに!」
周囲の魔術槍部の部員が騒ぎ始める。
点数ではなくまさかの気絶させての勝利だ。目立ってしまうのも無理はないかもしれない。
「ねぇ、平民とか貴族とか関係なしに、是非魔術槍部に入ってくれないか?」
壇上に上がってきた魔術槍部員にそう言われ、腕をがっちりと掴まれる。
「断る、槍術はあまり体に馴染まない。たまにやるくらいなら良いんだが、毎日これをやるのは気が滅入る」
「そうか…気が変わったら是非言ってくれ! いつでも歓迎するからさ」
そう言われはしたが入る気にはなれない。
先程お前らのキャプテンが俺達に言ってきた言葉を忘れたのかと言いたいくらいだったが、争いに発展しそうだったので心の内に留めておくことにした。
壇上から降り、2人の所に戻ってくる。
フェリスは安堵の息を洩らし、アンジェに限っては誇らしそうに笑っていた。
そんな様子の2人に「ただいま」と言ってやると、2人ともこちらを向いて「おかえり」と言った。
「ありがとう、ヴェルト君。おかげで気分がスッキリしたよ。圧勝だったね!」
「流石ヴェルト、槍も使えたんだね」
彼女達の期待に添えたようで良かった。
俺は近くの石柵に借りていた魔術槍用の競技道具を立てかける。
「槍は本職じゃないから齧る程度しか使えないが、思ったよりも使えたな。一般人を相手にするには十分だったろ?」
「あれで齧る程度って…それ聞いたら部員みんな泣いちゃうよ」
「ハハハ、今から言ってこようか」
「それは嫌味ったらしくて嫌だなぁ」
3人で中庭の方へ歩いていく。
見学とかは特にやっていないのだが、良いのだろうか。
気になったので聞くと、フェリスは笑顔で振り返って答えてくれた。
「だってあんな失礼なキャプテンがいる部活、死んじゃったとしても入らないよ」
「それもそうだな」
俺は共感して頷いた。
あんな奴の下で部活動をするのは流石に御免だ。
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