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013:部活動見学


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 一方その頃。



「部活動見学?」


「そう、この学院には部活動ってものがあるんだし、せっかくだから一緒に見に行こうかなって」


 フィリスがそう言ってくる。どうやら部活動とやらの見学に、一緒に行こうと誘ってくれているらしい。

 だが俺は首を捻った。

 部活動という言葉に聞き覚えがなかったからだ。


 幼少期よりまともな教育を受けてこなかった故に、部活動がどのような物なのか理解していない。

 もはや物であるのか、概念であるのかすら検討がついていないのだ。


「……部活動って、何だ?」


「…まさか知らないの? 部活動」


 この質問には流石のフィリスも顔が引き攣る。

 引かれている。どうやらこの部活動とやらは一般常識らしい、どうにか誤魔化さなければと考えるがどう誤魔化せばいいものだろうか。


「あー……平民産まれだからな、今まで学校にも行ったことがなかったから知らなかった。田舎で畑仕事をしていたからな……」


 俺は出任せの嘘で場を保とうとする。

 勿論畑仕事なんてやったこともないのだが。


「へー、そうだったんだ。なら仕方ないね」


 フェリスはそんな嘘を本当の事だと信じてくれたようだ。

 良かった良かった、と安堵に胸を撫で下ろすが、すぐに気づく。

 彼女の目線や仕草、どうやら気を使って俺に合わせてくれているらしい。


 部活動とやらを知らないという事は気を使われる事なのだろう。気を悪くしてしまったのなら謝りたいが、彼女の苦労を水の泡にしたくない。


「…とりあえず、その部活動とやらを見学しに行こうじゃないか。サイラスは誘わないのか?」


「うん、サイラス君はもう既に魔術剣技部に入ったって言ってたから」


「そうか、ならアンジェも誘っていいか? 彼奴もまだ決めてないと言っていた気がするからな」


「もう、好きにすれば?」


 そう言うと、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 また何か言ってしまったのだろうか。なぜ彼女を怒らせてしまったのか、さっぱり分からない。

 これがハフリーが言っていた、女心というものなのだろう。

 男には分からない。だから女心と言うんだとハフリーは言っていた。

 確かに、女心は理解できない。


 俺は頭を抱えそうだった。



 あの後すぐに隣のクラスに居るアンジェに声をかけてから、3人でグラウンドへと出た。

 グランドは運動部が活動している場所だ。

 どれも競技性のある魔術競技だ。名前は聞いたことはあるが、俺はどれも初見のため新鮮な気分でそれらを横目に見る。


「で、今日はどこの見学に来たの?」


「さぁな。俺にもサッパリだ」


「大雑把なのね。てっきり何かやりたい事があったのかと思ってたわ」


 アンジェは暇そうに腕を頭の後ろに回す。

 俺達はフィリスの後ろをついてきていただけだった。

 彼女について行って多少空気を読めばどうにかなると思っている他力本願な俺達に構わず、フィリスはグラウンドを抜けて中庭に近い場所まで進む。


 グラウンドと中庭は屋根のある道で繋がっている。

 その道を横に曲がると、高い柵で囲まれた場所に出る。


 魔術競技場に似ている、石のタイルが敷かれたフロアだ。

 そこで何やら見覚えのない棒を使った競技が行われている。


「着いたよ、ここが魔術槍部だよ!」


 フィリスが高らかに両手を広げ宣言する。

 魔術槍。聞いたことのない競技だが、アンジェやフィリスの様子を見ている限り思ったよりメジャーなスポーツらしい。

 どうやらあの棒は槍の代わりで、あれを使って体に一撃当てれば勝ちという思ったよりシンプルなルールなようだ。

 今ちょっと見ただけなので詳しいルールはよく分からない。


「見学の方かな?」


 奥から金髪の男性が歩いてくる。背丈が大きくガタイのいい、俺達よりも年上であろう男性だ。

 彼はこの部活動のキャプテンらしい。


「はい、私達3人で来ました!」


「そうかいそうかい、歓迎するよ」


 キャプテンの彼は優しそうな笑みで案内しようとするが、俺へ視線を向けた時、一瞬その笑みが崩れる。


「……君、間違ってたら申し訳ないけれど、平民の特待生って君のことかい?」


「あぁ、そうだが。何か用か?」


 俺が平民だと知ると、彼の笑顔が完全に崩壊する。


「そうかい、なら君は帰ってくれないか? 貴族でもない平民を案内する気も、入部させる気もないからね」


「一応聞いておくが、理由は?」


「…身分というのを知らないのかい? これだから平民は。どうやら貴族に対する礼儀も知らないようで本当に苦労するよ」


 キャプテンは俺を馬鹿にするように笑った。

 実際俺を笑い物にしたいのだろう、身分が下だからと。

 声に出す気も失せるほどにくだらない。そういえば前もこんな奴が居たなと前の記憶を掘り起こしていると、別の怒号が俺の耳に入る。


「何が平民だから案内しないよ! ここでは身分差別は禁止だって校則にも書いてたじゃない。もしかして読んでないの!?」


 怒っているのはフィリスだった。

 奴に対し犬のように吠える彼女を見て前のことを思い出した。

 そうか、前も屁理屈をこねる貴族に対して、彼女は怒っていたっけな。

 まぁ今はそんなことを思い出している場合ではないのだが。


「校則って、君も馬鹿なのかい? 平民は貴族よりも下だ。それは校則以前の問題なんだよ」


 奴はフィリスの肩を叩く。


「君も人付き合いは気をつけた方がいい。下劣な平民と居ると君も下劣さが伝染(うつ)るからね」


「……っ!」


 フィリスは顔を真っ赤にして言葉にならない程の怒りを露わにする。

 彼女にとっては侮辱のような言葉だったのだろう。それでも、彼女は手を震えるほどに握り、必死に堪えていた。


 俺を馬鹿にするのは構わない、だが俺のせいでフィリスにあんな想いをさせてしまったという事に罪悪感を覚える。

 そして、平民と貴族の溝の深さを実感した。


 一方アンジェはと言うと、その様子を見て目を細くして黙っていた。

 いつもは見せない彼女が不機嫌な時の表情だ。明らかに怒ってはいるが、状況を冷静に見ている。

 思ったより彼女も大人で良かったと安堵する。

 なんせこの状況は俺が引くだけでいいのだから。


 と思ったが、アンジェは急に近くにある石の柵に手を添えた。


「双王の剣よ、我が腕に———」


「おっとアンジェやめろ。相手は一般人だぞ」


 俺はすぐに彼女の手をとって石の柵から手を離させる。

 この状況で錬金術を発動する意味なんて1つしかないだろう。

 明らかに彼女も怒っている。ただ怒りが強すぎて表に出ていないだけだった。


「一般人? ハハ、ジョークにしては面白いじゃないか。平民風情が貴族を一般人呼ばわりするなんてねぇ?」


 奴は俺の発言を聴き逃していなかった。

 一般人と呼ばれたことに腹を立てて、また俺に突っかかって来ている。

 奴は思考がワンパターンな人間らしい。


「ジョークに聞こえたのならばすまない、本気で言っていた。お前は一般人だとな」


「…へぇ?」


 ビキビキと、奴の額に血管が浮かび上がる。

 しかも怒りやすい、煽ったつもりはない筈なのだが奴は表情を更に歪めた。

 奴は持っていた競技用の槍を俺へ投げる。

 俺はそれを右手で掴んだ。


「いいだろう、平民に教育してやるさ。壇上に上がれ。僕が直々に平民に分からせてやる」


「教えられるものならば教えてみろ」


 俺は奴の後ろについて行き、競技場の壇上へと上がった。




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