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008:暗殺魔術師と錬金魔術師


「オラオラ!! どうした!? 氷結王子やったにしては反応が遅せぇぞ!!」


 ボンドの大剣が今度は3方向から俺を斬ろうと襲いかかる。

 右上段、左下段、中央上段。瞬時に見極めて体を逸らして回避する。

 反撃の為に銃を向けようにも攻撃が激しすぎて腕を上げれない。

 これだけ近づかれているのだ、銃ではボンドに対する打開策がはっきり言って無い。


「……ッ」


 仕方がなく銃の引き金を3回引き、いつもの身体強化魔術を発動し、後ろへと飛び退く。

 彼も俺を逃がさないと大股に踏み込み俺に向かって大剣を横へ大きく振る。

 それをしゃがみこんで寸での所で回避し、相手の足へと回し蹴りをする。


「うぉ———ッ!?」


 ボンドは回避が間に合わず転けて、地面に背中を打つ。

 その隙に引き金を3回引き、魔弾(バレット)を撃つ。

 相手の頭を狙ったのだが、それらは彼の大剣によって遮られた。


「へっ、その程度じゃあオレを倒せねぇよ」


 厄介だと思わざるを得ない。

 問題はあの大剣だ。一撃喰らえば戦闘が困難になるほどの圧倒的な攻撃力に、いざとなった時の盾としても使える。

 錬金魔術とはそういうものだ、常に近くに武器を召喚できる戦闘スタイルは俺のような不意をつくような戦術に対して相性が悪い。

 ただし、相手がプロ(・・・・・)であった時だけだ。


「オラァ!!」


 俺に躊躇(ちゅうちょ)もなく飛んでくる斬撃を(かわ)し、動きの勢いを利用し体を回し斜め上からの回し蹴りをボンドにお見舞いする。


「当たらねぇよ!」

 

 回し蹴りは大剣によって遮られる。だがそれでいい。

 狙いは大剣(・・)だったのだから。


「…は?」


 彼の持つ大剣に大きなヒビが入り、中腹からへし折れてた。

 金属の破片が飛び散り、折れた鉄塊が地面に落ちる。

 彼はしばらく目を疑った。

 金属製の分厚い大剣を、たとえ身体強化魔術を使っていたとしても蹴り1発だけで折れるわけがない、と。

 表情を見るだけで彼の考えが手に取るようにわかる感覚に、俺は軽く鼻で笑ってやる。


「蹴り以外にもあっただろう? 攻撃が」


「……まさかッ!?」


「そう、魔弾(バレット)だ」


 最初に当てた魔弾(バレット)は全て先程蹴りを放った場所と同じ位置に着弾していた。

 あれには人を殺す程の威力はないが、1発だけでも鉄塊に細かなヒビを入れる程度の威力はある。

 それを3発同じ箇所に打ち込めば、あとは何か一撃当たるだけで壊せる程に脆くなっている不良品の完成だ。


「ンな芸当、マジかよ…」


「あぁマジだ。これで懲りたか?」


 しばらく唖然としていた彼だが、我に返ったとばかりに顔を振り、八重歯の目立つ口で笑った。


「面白ぇ…!!」


 彼が地面に転がる壊れた大剣に触れる。

 すると破片が音を立てて転がり、彼の元へと集まっていく。


「双王の剣よ、我が(かいな)に宿れェッ!!」


 破片が空を舞い、彼の両腕へ剣の形に並び、形を変えて組み上がっていく。

 あっという間に腕には2本の剣が握られていた。

 片方は両刃の、先程使っていた大剣を細くしたようなデザインの長直剣。

 もう片方は普通の剣よりは短い、だがナイフと言うほどには短くのない、刃文(はもん)の美しい芸術的な刀だ。


「出し惜しみはしねぇ、50パーセントでやってやるよ…!」


「出し惜しみはないと言いつつ、あと50パーセントも出し惜しみがあるのはどう説明するんだ?」


「こまけぇことはいいんだよ!!」


 2対の剣が空気を切り裂き俺へ迫り、まるで舞うように連撃をする。

 先程とは全く違う。力任せに切り刻む連撃ではない、その振りには今まで鍛えてきたのであろう技術力があった。

 剣の使い方や振り方、相手の対応の仕方によって次の斬撃を変える機転。大剣を振っていた時よりも動きが洗練(せんれん)されている。


 銃の引き金を引き、防御魔術の魔力壁(マジックシールド)を展開して相手の攻撃をいなしていく。

 だが数が多く全てをいなしきれない。いなしきれなかった斬撃は全て体を捻ることで回避し、次の攻撃に合わせて魔力壁(マジックシールド)を向ける。


 が、そこに彼の姿はない。


「後ろか」


 すぐに後ろに振り返りながら足を捻り、右足を軸足に後方へ蹴る。

 鈍い金属がぶつかり合う音が鳴る。双剣によって防御され、金属製の靴底と剣がぶつかり火花が散り、鍔迫り合いとなる。


「チィ、見切られてたか…!」


「俺もよく使う技だからな」


 相手に気付かれずに後ろへ回り込む技は簡単だ。視線誘導の応用で、相手が攻撃を防御するために攻撃に集中した瞬間に攻撃をはなった逆方向から後ろへ回り込むだけだ。

 特に魔力壁(マジックシールド)のような視界を遮るような魔術を使っている際や、連撃の間に挟まれると対処が難しいのだが、この手の小手先(こてさき)は俺の得意分野だ。


 それにまだ練度(れんど)が甘い、見切れないはずがないだろう。


「そういう小手先はこうやるんだ」


 鍔迫り合いの拮抗していた力を少し緩めてやる。すると彼は急に力を抜かれたことに驚き姿勢を崩した。

 だが彼の実力は伊達ではない。すぐに姿勢を正して俺へと二本の剣を振る。

 が、既にそこに俺は居ない。


「…! どこ行きやがった!?」


「上だ」


「なッ……!?」


 ボンドは俺の声に反応してすぐに上を見た。

 そこにも俺は居ない、ただ俺のケープローブが浮いているだけだ。

 それでも彼の思考を乱すには十分だ、彼の思考は一瞬戸惑(とまど)いと焦燥感(しょうそうかん)で何も考えられなくなる。

 刹那、脇腹へと飛んでくる拳を避けらず、防御すらできないくらいには彼の思考は停止していた。


「あガァ…!」


 彼は拳を回避することもなく喰らい、痰混じりの唾を吐きながら横へ転がり倒れ込む。

 身体強化(フィジカルブースト)と腕力を強化する腕力強化(アームブースト)が重ねがけされている拳だ。生身の人間が正面から受けたら体に対して相当なダメージになる。


 先程の攻撃、種は簡単だ。

 彼の振った剣に対して体を滑り込ませ、自らの体を相手の視線から外しながら、視線外からローブを上へと投げる。

 投げる際は軽く丸めて投げ、できるだけ上へと飛ぶようにしておいた。

 そしてただ一言「上だ」と彼の横から言って攻撃しただけだ。


 言葉で説明するならば簡単だ。

 だが違うタイミングで振られる剣に身を隠すのには相当なテクニックがいる、誰もやらないし普通はできないのだ。

 それ故に実力はあっても実践が少ない彼には有り得ない事が起こったように感じるだろう。


「…てめぇ、今何しやがった…!?」


「何もしていない……いや、馬鹿には分からない事だ」


「てめぇ……!!」


 彼は乱れた息を整えるために肩を揺らしながら呼吸し、倒れながらも剣に手を伸ばした。


「ハァ……ハァ……」


 剣を取るのにも一苦労しながらも、彼は立ち上がり1本の武器を中段に構える。

 明らかに先程ダメージを受けた横腹を庇うような構え方、あれでは常に弱点がガラ空きだ。

 1発程度受けただけであの様子だ、もしかして打たれ弱いのだろうか。

 ならば悪いことをしたな。


「痛いんだろう。そろそろ終わりにしないか?」


「黙れ…!」


 彼は武器を地面に引きずりながら俺へ接近し、振り上げようと腰を捻り左足を踏み込むが、小さな悲鳴をあげ急に動きが鈍くなり、武器を手放し脇腹を抑えた。


(つう)……っ」


「大丈夫か?」


 苦悶(くもん)の表情を浮かべる彼に手を伸ばすが、彼は俺の手を叩いて拒絶(きょぜつ)した。

 人には頼りたくないのだろうか、だがこの痛がり方、確実にただの怪我ではない。

 骨に異常があるかもしれない、俺は拒絶を無視して彼の肩に手を回した。


「医務室に行くぞ、歩けるか?」


「お、オレはまだ戦える…ッ」


「そんな表情で言われても説得力はないぞ」


 肩に回した手も振りほどかれてしまったので、今度は無理やり腰と背中を持って抱き抱えた。俗にいうお姫様抱っこというやつだ。

 思ったよりも軽い、あれだけの武器を振り回していたとは思えない華奢(きゃしゃ)な体だ。

 身体強化(フィジカルブースト)を使っていたのだろうか。


「ちょ…! 何やってんだっ…離せって」


 暴れる彼を押さえつけようとしたが、その前に脇腹の痛みに堪えきれず彼から暴れることをやめた。

 やはり、骨に異常がありそうだ。


「離してもいいが、自分で歩けるのか?」


「うぅ……好きにしやがれ…」


 暴れなくなり、俺に身を預けたのを確認して、俺は彼を医務室まで運んだ。

 どうやらもう休憩時間は終わりかけで、廊下では誰ともすれ違わなかった。


 医務室の扉を開ける。

 そこはベッドが6台並び、そのどれもがカーテンで仕切れるようになっている。

 壁際にあるタンスやチェストには様々な医療道具が所狭しと並べられ、全体的に白を基調とした清潔感のある部屋だった。

 内装や雰囲気が軍病院に似ていた。あそこは清掃が適当だったからもっと汚かったが。


養護教諭(ようごきょうゆ)は…ここには居ないか。ボンド、とりあえず寝転んで安静にしておけ」


 俺は彼を1番手前のベッドに寝かせることにした。

 ベッドは俺が今まで寝たことのあるベッドのどれよりも柔らかかった。この学院には貴族も沢山在籍(ざいせき)しているので、貴族用に高いものを買っているのだろう。


 教室を再び見渡すと、養護教諭の予定表が棚の前の執務机に置かれているのを見つけた。

 どうやら今は出張で居ないらしい、治療は自分でやるしかないだろう。


「負傷状態を確認したい、服は脱げるか?」


「ふ、服を!?」


 彼は俺の言葉で何故か赤面して、わたわたと手を動かす。

 彼は貴族の男だ、きっと人に肌を(さら)すことがなかったから筋肉が少ないなどのコンプレックスが恥ずかしいのだろう。

 自分からは脱いでくれそうにない。仕方がなく痛がりながらも暴れる彼の手を片手で押さえつけ、もう片手で彼のワイシャツのボタンに手をかけ、1つずつ外していく。


「ちょ、服の上からは無理なのかよ?」


「無理だ、治療魔術が得意ならできるが俺は治療魔術が苦手だ。傷口を見ないとどの魔術を使えばいいのかわからない」


「別にいいって! 痛みがなくなればあとは気合いでどうにかするからよ!」


「過度な治癒魔術は体への負担が大きいから駄目だ」


 その後も云々(うんぬん)と言い訳のように言葉を並べるボンドを無視してシャツを脱がせる。

 そこに男らしい筋肉はなく、曲線的な体つきだった。男らしいと言うよりは、むしろ女性的なフォルムだと言える。


 胸部には包帯をきつく巻き付けていた。胸に傷でもあるのだろう、これを見られたくなかったから服の上からの治癒魔術を求めていたわけだ。


「すまない、負傷箇所がよく見えないから包帯を外すぞ」


「…へ?」


 ()頓狂(とんきょう)な声を出すボンドだが、すぐにまた顔を赤くして声を荒らげだした。

 昔の傷は誰にも見られたくないものだ、その気持ちはわかるが、今の傷を放置すれば今後に関わる。できるだけ早く治しておきたい。


 棚の中からとっておいた(はさみ)を使って包帯を彼を傷つけないように慎重に切る。

 包帯は少し切り目を入れただけで流れるように(ほど)けた。

 そこにあったのは、隠したくなるような傷跡はなかった、それは———


「…お前、女だったのか」


 赤面した顔を手で隠しながら、ボンドは小さく頷いた。

 そう、そこにあったのは男性にはないはずの双丘のように膨らんだ胸だった。

 それを包帯で隠すように手で押さえつけるボンドの目には手で隠れてはいるが涙が溜まっていて、唇を噛み締めていた。


 彼は、彼女(・・)だった。



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