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探偵・志木仙水  作者: キチ右衛門
鮮血の病棟
9/10

探偵の逆鱗

____能面襲撃から2時間ほど前


志木は宵越からの連絡を待っていたその時、既に時刻は20時を回っていた。


実は、横から聞こえるリンゴを削る音が気になって仮眠をとれなくてイライラしていたのだ。

私は結構音に敏感でね、一つ気になる音が出てきてしまったら、もう他に集中できなくなってしまう。


こんな夜に見舞いに来るんじゃないよと思いつつ、ベッドを区切っているカーテンを少しだけめくり、様子を伺った。


ん?あぁ、少し見覚えのある青年がリンゴを剝いている、隣の患者が小さな女の子と分かったところでようやく私は気づいた。


昨日、献血のボランティアをしていた青年だった。

その妹が私と同じ病室だったらしい、気づかなかった。


妹はどうやら寝ているようなので、青年に話しかけてみる事にした。


やぁ、と声をかけてみると、少し体をビクッと震わせこちらの方へ顔を向けた。


「貴方は……あっ、昨日の探偵さんですか?、同じ病室だったんですね。」


「私も今の今まで気づかなかったんだよ、妹さんの為にりんご剝いてやってるのかい?」


青年は頷き、りんご一切れの乗った皿を差し出し、「一つどうぞ。」と言ってきたので、私も遠慮なく頂いた。


うん、中々、否、凄く美味しい、シャキッと音が鳴るりんごにハズレは無いと思う、私の経験上ね。


このまま“献血ボランティアの青年”と呼ぶ訳にはいかないので、「名前って、聞いてもいいかい?」とりんごが乗っかっていた皿を返すついでに聞いてみた。


(なな)()(なな)()(けい)()です。」


「七枝君ね、ありがとう、りんご美味しかったよ。」


七枝は、どういたしまして、と返事を返した。

志木はその時、七枝の“妙な点”を見つけたのだ。


左手に着けられた、“親指と人差し指だけが露出した”手袋と、皿を手渡す時に見られた、“親指と人差し指”でつまむように物を持つ癖?のようなものが見られたのだ。


どうしても気になったので七枝本人にその手袋について聞いてみた。


「あぁ、これですか、…………あのだいぶ前に大きな傷を負ってまして、その傷を隠すようにしてるんですよ。」


「なるほど、今は大丈夫なんですか?」


七枝はゆっくり頷いた。



_______能面襲撃から5分程前


私の病室から喫煙所までは少し遠いので、少し早いが向かう事にした。

”何か嫌な予感がするため”小型のカメラを仕掛けておこう。

七枝君は看病疲れで寝ているし、起こさないように静かにやろう。


私がカメラを仕掛け終わり病室を出ていこうとした時、腕を掴まれた。

少し驚いたが、同室の小室さんだと気づきクスッと笑い、「なんですか?」と聞いた。


「志木先生がこんな夜中にどこに行くか気になっちまってな。」


この同室の小室という男は、志木と同じ病室であり入院時期も被っていたことから、自然と仲良くなっている30代の会社員だ。


「ちょっと野暮用ですよ、多分すぐ戻ってきます、あ、ちゃんと私が出て行ったら”鍵を閉めて”おいてくださいね、何かと物騒ですから。」


「あんたが帰ってきたら入れないじゃないか、ん?、あ、俺が開ければいいのか。」


「私が帰ってきたら”ノックを4回、1拍子おいて、もう3回叩く”ので、それが聞こえたら開けてください。」


小室はOK!と言い、私が病室から出て行ったときには、キチンと鍵を閉める音が聞こえた。


_____能面襲撃から2分後


私のもとに法寺さんから連絡がきた、宵越が喫煙所で”能面”に襲撃されたことを、能面が“妙な手袋”をつけていた事。

これはたまたまなのか?、そんな考えが私の頭によぎった。

宵越を狙った犯行なのか?いや、それは違う気がする、しかし、フラッと現れて殺すような犯行でもないと思うのだ。


まさか、と声が漏れてしまった。


まだ痛む足の痛みを無視して、急いで自身の病室へと戻った。


小室さんに頼んで鍵を閉めてもらったはずのドアが開いている。

私が病室の直線30メートルの距離付近にいた時、病室から黒い影が反対方向へと向かって出でて、消えていった。


息を切らしながら病室に着いた時には、七枝君の姿はなく、床に滴る血がスリッパにかかる嫌な感覚が襲ってきた。


黒く焦げついたナイフが小室さんに喉元に刺さっていた。

小室さんの口からは大量の血とガボッ、ガボッと血で気管がつまり、泡立っている音が聞こえた。


しかし、まだ小室さんには息がある、急いでナースコールで現状を伝え、小室さんの患部を確認した。

どうやら、喉とは言っても顎方向に向かって突き刺さっており、気管を直接傷つけているようには見えなかった。


とは言っても、命に関わる傷ということには変わりない。

私は段々焦り始めていたが、予想以上のスピードで医者が到着し、緊急手術室へ搬送されていった。



____翌日の朝



小室さんの手術は約7時間に渡る大手術の末、小室さんは亡くなった。

気管に細々とした切り傷があったそうだが死因は、切れ味の悪いナイフで動脈を抉る刺し続けた結果の失血死だった。

傷口は非常に損傷しており延命処置も無駄に終わったらしい。


私は落胆した、ここ数ヶ月共に過ごした仲だったので尚更だ。しかし、呼吸を整えた後、医者にある質問をした。


「小室さんの左手の中指に何か異常はありませんでしたか?」


「結構”深い切り傷”がありまして、皮膚ごと切り取られてますね。」


小室さんは、大事な証拠を守り切ってくれた。

喉に刺されたナイフを手から離さなかったのだ。


少しでも能面をその場に留める為に、一つでも証拠残す為に。


私は冷ややかな怒りを心に沈めながら病室へと戻った。

既に現場検証が行われており、私は病室を移されるそうだ。


仕掛けておいたカメラを回収だけしてその場を去った。


病室の中庭のベンチに腰を下ろし、カメラの映像を確認する。

私が部屋を出た2分後、七枝君が部屋から退出しようとしたところ、小室さんが「何処いくの?」と聞くと「少しトイレに。」と返事を返していた。


小室さんは七枝君にノックの事を伝え、七枝君は部屋を退出して行った。

その1分後、ノックが4回、1拍子空いたあと、3回叩かれた。


小室さんはきっと私か、七枝君が帰ってきたと思ったのだろう。

病室へと入ってきたのは、能面を被った殺人鬼だった。


病室に入った途端小室さんに向けて、ナイフを突き刺し、何度も刺して、刺し続けた。

ナイフを抜こうとしていたが、小室がナイフを手放そうせず無理矢理引き抜こうとしたが、そこで私の足音が聞こえたのだろう。


能面の殺人鬼は部屋から逃げていった…………。


私はカメラの映像切り、七枝君を探した。


七枝君は、移された妹の病室にいた。


「七枝君、一つだけ聞きたいことがある。」


「志木さん、僕じゃないんです、僕は殺してないです。」


「だから、質問しているのは、私だ、答えてくれよ。」


……………


七枝君からは、聞きたい事は聞けた。



犯人はあいつだ。














次回、ついに事件が解決します。

きっと。

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