想定外
騒ぎ声が聞こえだしたのは、法寺さんとの会話に区切りがつきかけていたころだった。
「なにか、嫌な予感がしますね.....。」
法寺は騒ぎ声がする方に顔を向け
「2人目なんて出した日には、警察の信用は消え去るぞ。」
と焦り気味の声を出しながら隣に置いておいた上着を着ながら、急いで現場に向かっていった。
しかし、志木は松葉杖をつきながらであるため
「すぐに追います。」
と法寺に伝えると、急ぎつつも法寺はうなづいた。
そうして、時間をかけながらも、声のもとへと志木がたどり着いたとき、既に大人数の野次馬が集まっていた。
そこに埋もれつつも、何とか抜け出し、現場へ辿り着いた。
凄惨、その一言に尽きる現場だった。
昨日の奇妙な死体、不可解な傷口、そんなものは今回の現場にはなかった。
足の指をすべて切り落とされ、喉を一文字に切り裂いた跡、その傷によって噴き出したとみられる鮮血。
まだ死後から時間は経っておらず、血が蛍光灯の光が赤黒く反射していた。
ベットに倒れこんでいて、腕がぶらんとベットの下に垂れている。
志木が現場に着いたのを確認した法寺が
「被害者は”波木法政”という、21歳の大学生だ、盲腸で入院していたらしい、前回の被害者との共通点は今のところ見つかっていない。」
と伝えると、志木は首を傾げて
「一貫性がないな、別の人間が起こしたのか?それか混乱を招くためか?......ん?」
私、志木仙水は不思議とぶらんと垂れた腕に注目がいった。
確証は持てない、だから近くで見るか、そう考え、法寺に腕の写真を撮ってもらうように頼んだ。
二の腕から下へと順々に送られてきた写真を眺める。
違和感を覚えたのは、手の写真を見た時だった。
人差し指の指紋が消えているのだ。
いや、正確に言うと、”削ぎ落されている”のだ。
それを確認すると同時に、法寺に
「氷川さんの遺体はどこですか?」
「検視だが、なにかあるのか?」
「早急に手の写真を撮ってきてください!、早く!」
私の予想があっているのなら、まだこの事件は終わらないぞ......。