王国の外
「なるほど、だから勇者様がお料理を」
「コイツの料理は逸品なんだから」
シャルマとラト姫が料理をしている間に、エイルとラト姫の仲は大層良くなっていた。どちらも食にうるさい、という点で意気投合したのだ。
「妖精さんの契約している内容は分かりましたが、では勇者様は何故妖精さんと契約を?」
エイルからなぜシャルマと契約をしているのかという理由を聞いたラト姫は、今度はシャルマに尋ねる。
「……」
先日の大臣の件があったため、契約の理由を軽々口にすると危ないのでは? と考え、口にできないシャルマ。
「あ、言えないようでしたら大丈夫です」
口を開かないシャルマに対し、シュンとした様子でラト姫は諦めたように言った。
「いえ、別に言いたくないわけでは。……ラト姫、今の大臣はいつからいるか分かりますか?」
シャルマは大臣から感じた殺気に対し不信感を抱いているのであまり王宮の人間を簡単に信頼しないほうが良いのでは、と考えていた。一瞬だけ殺気を放てるなんてただものではないだろう。
「えぇっと……。私が物心ついた頃にはもう長かったようなのでいつからかは分かりかねますわ。聞いてきましょうか」
「そこまでは大丈夫です」
大臣本人に聞かれてしまうと色々勘ぐっているのがばれてしまう。それはよくないのでシャルマは聞くのをやめてもらい、別の質問を投げかけることにした。
「……ラト姫はこの王国の外側に世界があると思われますか?」
「あら、不思議な質問ですね。……そういえば考えたことがありませんね。どうなんでしょう」
ラト姫にその質問を投げかけても特に殺気を発することはなかった。
(これは白か?)
シャルマがまた考えを巡らせているとラト姫は、
「あったら……、楽しそうですね。きっと見たこともない食べ物があるのでしょう」
と少し恥ずかしそうに言った。食いしんぼなのはバレちゃってますしねと小さく付け足して。
それを聞いたシャルマは不意に肩の力が抜ける。なぜわざわざこんな少女まで警戒しようとしていたのかと。シャルマは契約した理由を口にする。
「失礼しました。……私は世界の果てを見に行くために妖精と契約を」
「だからあんな質問を……。もし外に行けたのならぜひおいしいものを持って帰ってきてくださいね。約束ですよ」
「ふっ、分かりましたよ」
真っ先に気にするのがそれか、とシャルマは可笑しく思ってしまう。
「あ、笑いましたね」
「気のせいですよ」
シャルマとラト姫は、1つ約束を結んだのだった。
数週間後、シャルマのために拵えられた、魔法の剣と鎧が出来上がった。
それを謁見の間でシャルマは剣と鎧を受け取る。
受け渡しの義は、民を集めて盛大に行われたわけではないが、それでも王族が集まった場所で行われた。
「して勇者よ、望みは決まったかな」
剣と鎧を受け取る時に王はシャルマに問う。
「私は……、王国の外に出てm」
ラト姫のように、皆が反対する訳ではないと思いシャルマは世界の果てのことを口にしようとする。しかし、シャルマがそう言いかけたときに大臣が大きな声を上げる。
「それはならぬ!」
その場にいたすべての人間が驚いたように大臣を見つめる。
「勇者様が王宮を離れられると、魔王を倒された後だとしても、またいつ魔族が現れるかわかりませぬ。勇者様には国に残ってもらわないと」
大臣の熱のこもった演説に辺りは沈黙する。ラト姫も驚いた顔をしている。一部の人間からはたしかに、と言った賛同の声が上がっている。
シャルマは褒賞として王国の外には出れなかった。結局その後、シャルマの意思を無視した王宮にて高位の役職に就けるという、一般人からしてみれば名誉な褒賞を受け取ることとなった。
しかしシャルマは釈然としない気持ちで受け渡しの義を終え、謁見の間を後にした。