勇者を決める大会‐決勝
シャルマはその後も順調に勝ち上がる。
魔法使い相手にも、剣士相手にも、格闘家相手にも彼は遅れを取らなかった。
そしてついに来るは決勝の時。
「ボクと同じように魔法も剣も使える人間が現れたなんて嬉しいよ。正々堂々頑張ろうじゃないか」
試合開始の前口上で対戦相手が口を開く。シャルマの決勝戦の相手は、大人しそうな青年だった。しかし彼はシャルマと同じように剣や魔法、様々な能力に優れていた。大会中にシャルマは彼の戦いぶりを見ていた。実力はシャルマとほぼ互角といったところだろうか。
そんな中、シャルマには一つ気になる点があった。
「あの人……、魔力操作の様子が全然わからない。」
彼の試合を見ていたシャルマは呟いた。
「ふーん、練習が足りなかったんじゃない? でもなんとかなるでしょ」
エイルはどこ吹く風で特に興味を示していなかったが。シャルマが魔力操作が分からないということはエイルの教えが甘かったということになるのだが、それを悔いる様子もない。シャルマが魔力操作が分かるようになった時はさぞかし驚いていたのに。
そんなことはさておき。
「試合始め! 」
審判の声で試合が始まった。
シャルマは試合が始まると同時に魔法を使う。相手の足元を狙い冷凍させる。相手は自分の足が凍り付いたのを見ると少し嬉しそうに、怪しい笑みをこぼす。
「いいねぇ、このレベルの威力調整ができるなんて。ほんっとに素晴らしい!」
そう言うと同時に足元に炎を出し氷を解かす。
「では、今度はこちらから!」
悪寒がしたシャルマはその場から飛びのく。すると先ほどまでいた場所に氷の柱が出来上がる。そのまま同じ場所にいたら閉じ込められてしまっていただろう。
その後の攻防は魔法をメインとして行われた。シャルマは空気弾を発射しつつ間合いを詰めようとする。しかし相手も空気弾を使い、相殺してくる。その上シャルマを狙ったものまである。シャルマも負けじと相殺を始める。会場には空気弾の嵐が生まれる。空気弾同士が衝突しそこら中ではじけ飛んでいる。段々砂埃で視界が悪くなってくる。
(これじゃ埒が明かない)
そう考えたシャルマは足元に大量の水を発生させる。
「さすがだねぇ。これならもう土埃は立たない! でも水音で居場所は分かるよ! そこだっ」
対戦相手は視界の悪い中、シャルマが歩いた水音を頼りに氷の柱を作る。
それを境に、辺りから水上を歩く音は聞こえなくなる。
「勝負あり、かな」
シャルマの対戦相手は勝ちを確信した様子で言う。
しかし次の瞬間。
「なっ」
彼は突然背後から体当たりを受け、水たまりに倒れこむ。
「勝負あり、ですね」
シャルマが剣を突き立てながら言う。
「はは、参ったよ。まさか壁を走って来るなんて」
対戦相手は両手を上げながら負けを認める。
「貴方こそ。なかなかの魔法の実力でした。対戦ありがとうございました」
決勝戦はシャルマの勝利に終わった。会場は歓声に包まれた。