勇者を決める大会-予選(後編)
その後も対戦相手は魔法を連続で使い、シャルマはなかなか上手く接近できなかった。しびれを切らしたシャルマは、遂に魔法を使うことにした。
シャルマは相手の気さえ紛らわせれば良いと思い、風魔法を使う。
魔法を使う際には集中力が欠かせない。不意の攻撃で一瞬でも集中力を切らせれば勝機はある。相手はきっと剣士相手に油断しているに違いない。簡単な魔法でも十分だ。そう考え、簡単な風を起こすつもりでシャルマは魔法を使う。
しかしシャルマが魔法を使った瞬間、シャルマを中心として会場は嵐に包まれる。対戦相手は強風によって壁に叩きつけられ気を失う。観賞用の席にも風が舞い、砂嵐が観客の目を襲う。辺り一帯は阿鼻叫喚だ。
「勝負あり! シャルマ選手!! 魔法を止めろ!」
シャルマは審判に言われてハッと我に返り、慌てて魔法の解除をする。
「殺さなければ良いルールであるが周囲には注意するように」
審判にお小言を貰ってから、シャルマは会場を離れる。無事に一回戦は突破できたが、シャルマの顔は釈然としない表情である。
「風魔法ってこんなんだっけ……」
シャルマは疑問を口にする。
シャルマは今まで田舎でしか魔法を使ったことがなかった。王都に上京してきてからは人目も多く、魔法を練習できるような広場もなかったために、魔法のトレーニングはしていなかったのだ。
「あんたねぇ……。この辺の魔素濃度分かんないの?」
「魔素濃度?」
「まったく……。この辺の濃度はあの田舎と違って濃いのよ。あの辺の魔素はほとんど私が吸収したって言ったでしょ」
「てことは、あの辺のノリで魔法を使っちゃいけないってこと?」
「そう。全く、何でこんな基礎も知らないのかな……」
エイルはそう悪態をつく。その後、まぁ教えなかった私が悪いんだけどね、と小さく付け加える。
それを聞いたシャルマとエイルの鬼ごっこがまた有ったとか無いとか……。
一回戦は全組終了し、二回戦が始まった。
「おう、俺の対戦相手はあんちゃんか。そのなりで魔法使いだなんて策士が過ぎるで。でもな、初見殺しってのは一回しか通用せんのや。覚悟しときぃ」
二回戦の相手は筋骨隆々の男だった。
審判の合図で試合が始まる。と同時に相手が懐に飛び込んでくる。
「魔法使いには魔法を使わせないのが必至!」
そう言いながらシャルマに向かって拳を連続で繰り出す。右から、左から、そして急な蹴り上げ。次々とシャルマを襲う攻撃。
対するシャルマは右腕で受け、左腕で受け、横跳びで躱し。目にもとまらぬ速さで二人の攻防が繰り広げられる。
「お!? あんちゃんやりよるなぁ」
「どうも」
二人の拳の応酬は続いたが、不意を突いた、シャルマのカウンターで決着がついたのだった。