勇者の隠居
王都を魔王から守り切ったシャルマは、今度こそ盛大に祝われた。死んだと思われた勇者が生きていたこと、もうだめだと思った状況から王都が救われたこと。シャルマを祝うには十分すぎるほどの理由があった。
箱庭の外から来た三人、クレイララとコルとセンタは、大勢の人間、ブランドの前に姿を現すと混乱させてしまうだろう、ということで最後にシャルマに軽く挨拶だけして去っていく。
「シャルマ、あなたとの旅は楽しかったよ。私は……エイルがいなくなったからもう海に戻らなきゃいけないけど。また機会があったら会いに来てね」
「ふっ、そうだな、俺としてはまた木の上でまたバカみたいなやり取りができればいいと思ってるよ」
「貴様に一つ、非礼を詫びておこう。……貴様の妖精悪く言ってすまなかった」
三者三様、別れの言葉を述べて去っていく。……コルにつかまれたクレイララが悲鳴を上げて連れていかれたので、最後は少し締まらなかったが。なんだかんだ、彼にとって見慣れた光景だった。それでも何か足りない気がしたが。
「さて、勇者シャルマよ、望みの褒美はあるかね」
今度は大臣もいなくなったため、自由に望みを口にできるシャルマ。しかしもうエイルはいない。わざわざ王国の外に行きたい気分もずいぶん薄れてしまった。
シャルマは王国の外に行きたい、という望みではなく、田舎で慎ましく暮らしたいという望みを述べ、それはそのまま受理された。彼は王都から離れた田舎で、ゆっくり隠居することができた。……その望みを言った時に、チラチラとラト姫に見つめられたので、できれば彼女と一緒にと付け加えたものが受理されたのだが。
「ありがとうございますっ」
「いえ、こちらこそ、突然すみません、ラト姫」
シャルマがそういうと、ラト姫は少し頬を膨らませる。
「私はもう姫じゃないので敬語はやめてださいませ」
「じゃ、僕ももう勇者じゃないから敬語をやめてくれませんかね」
二人は顔を見合わせて笑いながら、歩みを続ける。
「そういえば、約束のお土産」
ふと思い出したようにシャルマは鞄から、森で貰った果物を出す。
「……律儀でs、律儀だね」
「……おいしかったから、約束だったし」
シャルマはラトに果物を渡しながら言う。
「私は……、妖精さんとの約束は守れなかった」
「……そうだね」
二人の間に沈黙が流れる。
二人はそのまま歩み続ける。
彼らが田舎に越してから一ヶ月ほどたったころだろうか。ラトも最初は戸惑っていた田舎の暮らしにも順応し始めた。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
シャルマは勇者の任が終わっても、朝稽古を続けている。すっかり習慣になってしまったのかいつものように剣を振る。……魔法の稽古ができないことを少し物足りなく思っているようでもある。
そろそろ稽古を終わりにしようかと思い、剣をしまい森の中を走り始めた頃、不意に誰かの気配を感じる。
「誰だ?」
シャルマは警戒心を露にする。
「あら、私の気配が分かるの?」
少し高めの、聞きなれた女性の声が聞こえる。
しかしシャルマが周りに気を配ってもどこにも実体を感じられない。
「どこ見てるのよ、上よ上」
シャルマがそう言われて上を見上げると、そこには小さな妖精がいた。
「エイル……?」
そこには悪戯が成功したことを喜ぶ、悪い笑みを浮かべたエイルがいた。
はい、と言うことでこれにて完結になります。ここまでお付き合いありがとうございました。
私の初めての完結策、いかがだったでしょうか。よかったら感想、評価やブクマなどなど貰えると嬉しいです。
活動報告に設定とか載せとくので興味ある人はそちらもぜひ目を通してもらえれば。創作してる方にも何か参考になればよいかなと。
当初の予定は30話、三万文字程度の短編予定でしたが、まぁ結局四万文字になって、それでもしっかり31話で終わらせることができました。ちょうど一ヶ月。
あくまで習作、ということで自分に起承転結を作る能力、伏線を回収する能力があるのか確かめたいという魂胆で始めたこの作品ですが、思った以上にキレイにまとめられて感激しています。登場人物の描写を手抜きしたのが今になって悔やまれます。惜しいことをした。感情とか情景描写が甘いのはまだ書いてる量が足りないのでこれからもっと頑張ります。
この雰囲気を楽しんでもらえたなら何よりです。私のファンタジーの本命は『ニューゲームはハードモード』ですのでよかったらそちらも読んでいただければ嬉しいです。こういう回収はしっかり入れるつもりです。実はラブコメも書いてるんですよ、そちらもどうぞ。
これの続きを書くなら、シャルマ達にしっかり世界の果てを目指してもらって、砂漠とか洞窟とか、そういったドタバタ冒険譚を今度はラト姫……ラトもつれてもっとドタバタしてもらうのもありかな、なんて。
ではまたどこかで会えることを期待して。ありがとうございました。