勇者の仕事
コルが鳥になり、クレイララとシャルマの二人を乗せて空を舞う。センタはと言うと、魔人の足元で斧を振りつづけ、魔人の魔素を断ち切り続けている。
そしてエイルはと言うと、
「はー、キッツ」
そんな文句を吐きながら辺り一帯の魔素濃度をグングン上昇させる。普段と違うことと言えば、魔人に魔素を吸収されないようにエイルも全力で魔法を使い、魔素に特性を持たせていることだろう。辺り一帯に充満している魔素はエイルの操作下にある。その操作に苦戦しているようだが。
「シャルマッ、さっさと終わらせてちょうだいっ」
「言われなくてもッ、コルッ」
「おうよッ」
シャルマがそういうと、コルはスピードを上げて魔人に突っ込む。魔人は段々と理性を失い始めているようで、辺り一帯を蹂躙していた。
このままでは王都が滅ぶのも時間の問題だ。
シャルマは魔人の中心めがけて、全力で魔法を放つ。海の魔物ですら風魔法ははじかれたのだ、この魔人まで来るとどれほど力を籠めればいいか分かったものではない。
「チッ」
シャルマより大きな稲妻を放つが、それでも足止め程度にしかならず、魔人はすぐに攻撃態勢を整える。
「これじゃ埒が明かないっ」
「そうね……、私の魔素も持たないわ」
魔法で攻めていては切りがないとわかったのか、シャルマ達は魔人の頭上を陣取る。
「おい、シャルマ本気か?」
コルが心配そうに尋ねる。
「本気だけど。まぁ何とかなるよ」
真下を見つめながらシャルマはそういう。
「ふふっ、頑張ってね」
「あぁ」
クレイララにそう言われると同時に、シャルマは空中に身を投げ出す。
シャルマの顔を風がなでる。
「ふっ」
魔人が放つ魔法に全力で魔法を当てて相殺するシャルマ。そういえば決勝の時も相殺合戦をしたっけと、場違いなことも思い出す。
(そう、僕はあの試合で勇者になったのだ。一時は死んだことにして、国外逃亡じみたこともしたけれど、勇者の仕事は世界を救うこと。コイツが魔王で、僕が勇者だ。ならばやるべきことは一つ。)
シャルマは精神集中し魔人の、魔王の体内の魔素を感じ取る。そして剣に魔法を込め、大きく鋭く、そして光輝く剣で、そのまま空中から大地まで、魔王の体を縦に真っ二つに割く。
辺りに轟音が響く。シャルマが叩きつけた地面も真っ二つに割れる。そこは見えないほどに深い。……が、それは魔王にもそれだけのダメージが入ったということで。体中の魔素の循環を切られた魔王は、そのまま魔素へと還ってゆく。
王国の平和は守られた。
魔王の体が無くなった時、辺りは歓声に包まれた。
「勝った……」
「そうね……」
疲れ切った様子でシャルマとエイルがつぶやく。
「エイル?」
疲れ切った様子のエイルを心配に思うシャルマ。
「体内の魔素を使いすぎたみたい。もう実体を維持するのもつらいわ」
「エイルッ」
もはや空中に浮かび続けることすらできないエイル。シャルマはエイルを手で支える。
「シャルマ、悪かったわね。アンタたちとの約束、一個だけ守れなかったわ」
「エイル……、それは守ってくれなくてよかったんだよ」
「フフッ、そうだけどね」
エイルは力なくそう呟く。
「さて、そろそろ時間ね、さようならシャルマ、あんたとの時間は楽しかったわよ」
エイルは最後まで……悪戯が成功したような、楽しそうな笑みを浮かべていた。
「エイル……」
そう呟いたシャルマの声は遠くへ消えてゆく。