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一時の平和

 時間は少しさかのぼり、場所は変わって箱庭、王国の中に移る。

 勇者が魔王と相打ちになったとされてたから、およそ一ヶ月が経過した。王都はもうすっかり元の活気を取り戻し、いつもの日常に戻っていた。

 城においては、シャルマの部屋の片づけが大臣主導で行われた。大部分の人からは追悼の意を込めてしばらく残しておくべき、という声が上がったがそれはないものとされた。片づけをする大臣はどこか苛立っている様子だった。


 城の中が騒がしくなったのもそれくらいで、それ以降は普通の空気が漂っていた。それは当然ラト姫もで……。


「姫様もむりして明るくふるまっておられるのだ、我々も頑張らなくては」


 従者たちはそう勘違いをしていた。勇者に懇意だった姫が、そのつらさを超えて頑張っておられる、と。そのため従者たちを筆頭に、できるだけ普通の雰囲気を作ろうと画策されていたのだ。

 しかしラト姫は無理して明るくふるまっているのではない。そう、彼女はシャルマが生きていることを知っているのだ。いつ帰って来るかわからないとは言え、勇者が死んだと思っている人たちよりも幾分心が軽いのは確かだ。だから彼女の心はいたって普通であった。




 しかしその平穏は破られたのだ。



 魔王山の麓で五匹の妖精が生まれた。生まれた、というよりも復活した、という表現が正しいだろう。シャルマが妖精の魔素の循環を切ることなく魔人を退治したため、妖精が時間をかけて復活したのだ。

 復活した妖精たちは、真っ直ぐに王都へ向かう。今回の勇者が十分に強かったこと、魔人にするには申し分ない魔力操作ができていたことを伝えるために。もしくはもうそれが終わっていることを期待して。


 しかし妖精たちが王都に着いた時にかけられた言葉は、予想だにしない内容だった。


「ばかものどもめ、いくら久しぶりに強い人間が来たからと言って殺す必要はなかっただろう」

 と。


 城の地下深く、怪しげな地下室に大臣の怒声が響き渡る。折角のシャルマという逸材を殺されたことに大臣は気が立っていたのだ。


 それに対して妖精たちが言い返す。私達は一瞬でやられた。魔人にするのはそちらの仕事だったろう、と。


 そこで矛盾が生まれてしまう。妖精は一撃でやられたというのに、勇者が死んだことになっている、

 シャルマは死んでなどいないということが遂に発覚してしまう。




「おい、このクソ娘っ、何嘘吹き散らかしてるんだっ」


 シャルマが死んでなどいない、ということに気が付いた大臣が、直属の部下を連れてラト姫の下へ罵声と共に向かう。もう体裁を繕う気はさらさらないようだった。


「はて、何のことでしょう」


 あくまでしらを切ろうとするラト姫だったが、有無を言わさず連行されてしまう。当然従者たちが反対しようとしたが、大臣直属の隊がそれすら許さない。


 そのまま連行されたラト姫は身包みをはがされて、地下室で両手を拘束され磔にされてしまう。


「さぁ、あの勇者がどこへ行ったか吐いてもらおうか」


 大臣に尋問されるラト姫だったが、頑なに口を開こうとしない。


(まさか破片を砕く時間すらなかったなんて……。思っていたより大臣は過激でしたね)


 ラト姫はぼんやりそんなことを考えていた。エイルから受け取った破片を砕けなかったのだ。


「バカな娘だ、おい、いるんだろう、出てこい」


 大臣がそういうと、青年、シャルマが決勝で戦ったあの青年が出てくる。


「まったく、人使いが荒いんだから」


 そう文句を言いながらも、ラト姫に向かってゆっくり歩を進める。


「さぁ、吐いてもらおうか、勇者君はどこへ行ったんだい?」

「絶対にしゃべりま……うっ」


 ラト姫がそう反抗しようとしたとき、青年が魔法を使う。ラト姫の頭がガンガン痛む。青年はラト姫の考えを魔法で読み取ったのだ。


「ふむふむ、大臣、困りましたね。勇者君は箱庭の外に出ているようです」

「くそっ、では予定より早いがこのまま外への侵攻を開始する!」

「えー、ボクは反対だなぁ」

「うるさいっ、黙ってわしの言うことにしたがえばよいっ」

「……はーい」


 青年は納得いかないといった様子で返事をする。


 イライラした様子の大臣は、ラト姫から取り上げたものを眺め、一際輝く鎧のかけらを見つける。


「くそっ、あのガキめっ、折角作った鎧をこんなにしやがってっ」


 そう口走りながらその破片を床に叩きつける。その破片はさらに砕け、辺り一帯に魔素が薄く広がっていく。


 その様子を見てラト姫は驚いた顔をする。そして青年も、魔素が広がったことを感知して驚いた顔をする。


「……危なかったね、その破片には魔法がかけられていた。もしかしたら居場所を伝えるタイプの魔法だったかもしれない。破壊しておいてよかったよ」

「ふん、そんなこと百も承知だわ」


 全然そんな意図はなかったとはいえ、体裁を確保するために大臣はそう言い切る。破片にかけられた真の魔法の意図を知っていたのは、この場ではラト姫だけだった。

 さぁ回収編が始まりました。最後までお付き合いいただけると幸いです。

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