魔人とは
「なぜ箱庭の中にしかいないブランドを知っているか、理由は簡単だ。ブランドが脅威だからだ」
センタがつらつらと言葉を並べる。が、一同理解できないといった顔をしている。ただのブランドは脅威ではない、と先ほどもセンタが言っていたからだ。
「先ほどただのブランド、と言ったな。そして貴様はまだ魔人ではないとも言った。貴様らはこの意味も分からないのか」
センタが言葉を続ける。が、そもそもコルとクレイララの二人に関しては魔人の存在すら知らないようであった。そして唯一魔人と相対したことがあるシャルマが口を開く。
「魔人は……、もとはブランドだったということですか」
「そうだ。そしてブランドが魔人になるときに妖精が関与していることもわかっている。だからあの妖精を追いやったのだ」
「待ってください、だとすると魔人を倒すということは……」
「別に気に病む必要はない。そもそもが妖精に魂を売ったブランドどもだ。殺したとて気にする必要はない。そして妖精どもは普通には殺せん。魔素の循環を絶ってやる必要がある」
「なるほど……」
「だからブランドのことはどの種族も知っている。……そこのボンクラどもは理由も知らなっかったようだがな」
センタの話を聞いて納得した様子のシャルマに対し、少し俯く残りの二人。
「貴様はまだ魔人にはなっていないようだが、ここで妖精を始末しておいた方が後々の安全につながるな。そこをどけ、俺が狩りに行く」
そして思い立ったようにエイルを狩りに行くと言い始めたセンタ。
「……あいつはそんなことはしない」
珍しく怒気を孕んだ、低い声でシャルマが言い返す。なぜ怒っているのか、シャルマ自身もよくわかっていない様子だった。
「ふん、ブランドの分際で大きな口を叩くものよ。この俺を止められるとでも思っているのか?」
「あいつがその気なら僕はもうとっくに魔人にされている。他の魔人を倒すのにも強力してくれたんだ。だからあいつを疑うなんてことはしない」
力強くシャルマが言い切った。
「ふん、貴様の事情なんぞどうでもよい、そこをどけ、邪魔だ」
「そんなに行きたいのなら僕をどけていけばいいじゃないか」
「……生意気な奴だな。その程度の剣の腕でよくそこまで粋がれるものだな」
二人の間に険悪な雰囲気が広がってくる。クレイララとコルに関してはもう近くの岩陰の裏に隠れている。
そしてシャルマが道を譲る気がないことを察したのか、センタは両手に大斧を持ってゆっくりと歩を進める。
センタの斧がシャルマに届く距離になるや否や、勢いよく斧を振り切るセンタ。
しかし斧は空を切る。次の瞬間、シャルマはセンタの背後に回っている。
「ほう、その程度の魔素でそこまでできるのか、だが、それでも所詮はブランドよ」
余裕綽々といった様子で話し続けるセンタに、シャルマは思いっきり剣を叩きつける。
「俺を止めたいなら殺す気でかかってこい」
ハダルという種が、どれくらいの耐久力があるのかを知らなかったシャルマは、さすがに殺すのはまずいだろうと思い、剣で切るのではなく、脇で叩きつけるように攻撃していた。しかしそれが仇となったか。ピクリとも動じないセンタは、背後で一瞬制止してしまったシャルマの腹に肘鉄を入れる。
それをかばうことなく受けてしまったシャルマは近くの岩場に叩きつけられる。
それでもシャルマの目はしっかりとセンタをとらえて離さなかった。