ハダルの山
「なぁ、シャルマの妖精って絶対性格悪いよな」
「あら、奇遇ですね。私もそう思ってました」
「君たちなぁ……。僕もそう思うけど」
蝙蝠を何とか撃退し、無事に山の麓にたどり着けた三人は、エイルに対しての文句で珍しく団結していた。文句を言われる側のエイルはいつも通りどこ吹く風と言った感じだが。
「ほら、あんた達もつべこべ言ってないでさっさと行くわよ。時間は有限なんだから」
「そうだね」
シャルマだけは納得した様子で付いて行く。他の二人は首をかしげているが。
基本的にブランド、ただの人間以外の種族(鳥人であるケイパグや人魚であるセイラム)は寿命が長い。そしてそれは妖精のエイルにも当てはまる。だから二人はいまいちエイルの言っていることを理解できなかった。時間が有限とは言え、高々山を登るのに費やす時間が一日や二日変わったところで人生に影響がないのだ。……人生と呼ぶかどうかは別として。
だからそう言うエイルが少し焦っていることにも気が付くことはなかった。……シャルマは気づいていたからすぐに納得したのかもしれないが。
シャルマ達が山を登ること数時間。途中でクレイララが音を上げる。
「もうむりぃ」
「はぁ、これだからババァは」
そんなクレイララに辛辣なのはコルだった。コルは空を飛ぶ種族でありながらも音を上げることなく他の人たちと同様に歩き続けている。
「そもそもがあんたが頂上まで運んでくれればいいんじゃない」
クレイララが名案を思い付いたかのように口にするが、コルは渋い顔をしながら首を横に振る。
「できることならそうしてやりたいんだが、あいにくこの山でそんな事したら命がいくつあっても足りなくなるんだ」
「と言うことはハダルは気性が荒い、ということ?」
シャルマが疑問を口にする。しかしコルははっきり答えようとせず、「会えば分かる」としか返さない。シャルマはモヤモヤしてきたのでさっさと出発して真相を確かめたかったが、疲れたと駄々をこねるクレイララを置いていくわけにもいかず、今日の進行はここまでとなった。
ちなみにコルもシャルマの料理を大層気に入り、喧嘩は三人で行われたとか。
翌朝、シャルマが一人だけ早起きをした。といっても他の人が寝坊した、と言う訳ではないので心配はいらない。手持ち無沙汰だったシャルマは、最近移動に徹していたせいでできていなかった朝の稽古をやることにした。
「ふっ、ふっ」
シャルマのリズミカルな呼吸と、振る剣が空気を切る音が良く響き渡る。
……そんな様子を遠くから見つめる瞳があることには、シャルマも気づかなかった。
しばらくして全員が起きたら、シャルマ達は登山を再開した。そして無事に山を登ることができて、集落らしきものが見えてきたのだった。