雲の上の大樹
クレイララが蝙蝠を惑わし三人は無事に逃げ切ることができた。
「森ごと焼き払ってよければあんなの一瞬なんだけどな」
「そんな事したらダメでしょっ」
何やら物騒なことをいうシャルマを止めるクレイララ。この巨大な森で火事でも発生したらとんでもないことが起きるだろう。
シャルマ達はそんなことを話しながらさらに森の奥へ進んでいく。といってもむやみやたらに奥に進んでいるのではなく、森の外から見えた一際大きな樹が生えていた中心方向を目指して進んでいる。
シャルマ達は奥に進む間に、さらに何回か魔獣の群れに襲われた。蝙蝠の群れを筆頭に蛾や蜘蛛と言った多様な魔獣が現れた。そしてその魔獣が現れるのは決まってシャルマが魔法を使って落ちてくる枝をはじいた後だった。
最初は音に反応してきているのかと考えていたシャルマだったが、途中で考え方が間違っていたことに気が付く。
「魔獣は魔法に引かれてくるのか……?」
「あら、今更気づいたの」
「知ってるなら言ってくれよっ」
平然と言ってのけるエイルに憤慨するシャルマ。しかしエイルはいつも通りに悪い顔をして「ネタバレは良くない。後は自分で考えて」とだけ言って少し先へ行ってしまい、シャルマは後を慌てて追う。
どれくらいの時間がたっただろうか。急に森が開け、日の光が差し込んでくる。
シャルマ達の眼前に広がるは大樹。遠くから見ていた時にも高いことは分かっていた。幹は太く、高さは……雲を超えているので下からでは正確な高さを把握することは無理だろう。
シャルマ達が大樹を見上げていると、空中から何かが下りてくる。その影は段々早くなり、唐突にシャルマに襲い掛かる。
「なっ」
「きゃっ」
シャルマは咄嗟に飛退き事なきを得たが、クレイララが捕まってしまう。クレイララを捕まえたのは人のように見えるが、背中に羽が生えており、足の先は鳥のように広がっていて、大きな爪が生えている。
「クレイララっ」
シャルマは彼女の名前を叫びながら、魔法を使う。急な風でバランスを崩したのか、クレイララを連れ去ろうとしていた人物の顔が驚きに染まる。そしてクレイララは足から離れ、落下を始める。
シャルマは落ちる先へ駆け、クレイララをキャッチする。
「あ、ありがとう」
……いわゆるお姫様抱っこの形になってしまい、クレイララは少し頬を染める。が、シャルマはこれっぽちも気にせず、「降ろすよ」とだけ言って彼女を地面に降ろす。そして再び空中を狙って魔法の準備を始める。しかし、
「すまんすまん、こんなところにブランドが来るなんて思ってもなかったからつい狩っちまった。わるかった」
と空中から聞こえた声に驚いて魔法の用意をやめたのだった。