妖精の食事
「ところで妖精が食事をするなんて珍しいですね」
「え、妖精って普通は食事しないんですか」
クレイララふと言葉を漏らし、その内容に驚くシャルマ。シャルマが初めてみた妖精はエイルであり、出会ってからずっと食事を共にしてきた。シャルマはすっかり妖精が食事をするのが当たり前だと思っていたのだ。
「そういえば言ってなかったわね。妖精なんて魔素を摂取してれば生きてけるのよね」
エイルの説明を受けてシャルマはがっかりする。
「え、じゃあ僕の契約は……」
わざわざここ何年間も契約を履行するために食事を作り続けてきたシャルマ。もともと食事がいらない妖精に食事を提供し続けていたのはもしかして迷惑だったのでは? と考えて落ち込んでしまう。
「……まぁ契約は契約だし。それにおいしいからいいのよ。生きてる楽しみができたわ」
そんな二人のやり取りを「仲が良いことで」と言いながらやさしい目で見守るクレイララ。
「ところでこの辺の魔素濃度がもとに戻ってるようだけど。化け物を倒した時の魔素はどうしたんだい」
食事が終わったシャルマがエイルに聞く。王都でエイルにバカにされたシャルマは躍起になって魔素濃度が分かるように特訓を積んでいたらしい。
最初にこのあたりに来た時の魔素濃度はシャルマの実家あたりのように薄かった。しかしエイルが魔素濃度素上げるといった後には王都や魔王城のように魔素濃度が高くなっていたのだ。化け物の持っていた魔素の量は巨体だっただけあり、なかなかの量だった。しかし今は最初に来た時のようにかなり魔素の薄い空間になっている。
「どうしたって聞くからにはもう分かってるんでしょう?」
答えるのがめんどくさいといった様子でだるそうに聞き返す。
「見当はついてるけどね。魔物? をやっつけたのは初めてだし。一応確認しておこうと思って」
「まぁお察しの通りよ。魔素を出せるのなら吸収もできますよ。とね」
「……君は一体どれくらいの魔素を持ってるんだい」
「そうね……。アンタが一生全力で魔法を自由に使えるくらいはあるわね」
「……化け物だな」
「ほめても魔素しか出さないわよ」
「いやいらないから」
二人の魔素に関する話を黙って聞いていたクレイララがおずおずと手を上げて発言する。
「あのすみません」
「ん、どうかした?」
クレイララの発言にエイルが反応する。
「あなたが持っている魔素をいただいて、私も陸地に連れて行ってもらえないでしょうか? セイラムの唄があればきっとお役に立てると思うのですが」
「僕は賛成だね。君は?」
シャルマは自分は賛成という意思を示してからエイルに問う。
「あんたが良いなら別にいいわよ。口出しするつもりもないし」
「じゃあよろしいのですね」
と嬉しそうに両手を合わせるクレイララ。そんなクレイララにシャルマが質問する。
「そういえば魔物と戦っていた時に聞こえた歌ですが。あれは魔法か何かですか?」
シャルマは戦闘中に急に体が軽くなった原因を聞いた。あれが聞こえてきたセイラムの歌のおかげだということは分かっていたが、歌の正体がわからなかったのだ。
「魔法、とは違いますね。セイラムの能力と言えばいいんでしょうか。別に魔素がなくてもいろんな効果は出せますよ。筋力を上げたり集中力を上げたりなら」
「そういうもんなんですか」
「あんたが知らないだけで他にも種族はたくさんいるわよ。こんなんで一々驚いてたら身が持たないわ」
「そしたら私の身も持たないですね。私もセイラム以外の種族はよく知りませんし」
クレイララが笑いながら言った。