セイラムの唄
シャルマは海上に氷を作りながらその上を走る。
「水棲生物なら雷でいけるか……。いやだめだ、他の人達も巻き込んじゃう。……とりあえず困ったときの風っ」
様子見を兼ねてかまいたちを放つシャルマ。かまいたちはまっすぐ化け物に向かって行き……、鱗にはじかれた。
「なんだあの鱗。硬すぎるだろっ」
シャルマは悪態をつきながら移動を続ける。シャルマが放つかまいたちは、通常ならば岩をも簡単に割くことができるが、化け物の鱗には傷一つつかなかった。
化け物はシャルマの攻撃でシャルマの存在に気が付いたのか、シャルマの方向に向かって移動を始める。
「あんたってホントあほよね。普通の魔法じゃはじかれるに決まってるじゃないの。魔物なんて魔素の塊なんだから。フルパワーで行けって言ったでしょう。全く」
緊急事態であるにも関わらず普段と変わらないノリで説明するエイル。
「そういう重要な情報は先に言ってほしいねっ」
シャルマが走るより早く泳いでくる化け物。強い魔法を使おうにもこの足場の悪い状態で十分に集中できるはずもなくシャルマはじりじり詰められていた。
何か手段はないか。考えを巡らせるシャルマ。
次の瞬間、辺り一帯にキレイな歌声が響き渡る。
「これは……」
「セイラムの唄声ね。きっとクレイララが手伝ってくれてるんじゃないかしら」
いったい何を手伝っているのだろうか。シャルマが考えようとしたときには、もう体に異変が起きていた。
「おっと」
急にシャルマの体が軽くなり、一瞬バランスを崩してしまう。が海に落ちるようなことはなかった。少々危なかったが。
「なるほど、そういうことか」
何かを理解したように呟く。
体の軽くなったシャルマは速度を上げ化け物を引き離す。十分引き離せたところでシャルマは大規模の魔法を放つ。
シャルマが魔法を放つと海上に大きな水柱が立ち上がる。その水柱は化け物を大きく吹き飛ばし、陸上に叩きつけた。流石は大型の生物といったところか、シャルマのその一撃で死にいたることはなかった。かと言って無傷という訳でもなかったが。
しかし化け物は陸上に突然打ち上げられたことに困惑しており、すぐには動き出すことができなかった。化け物はついさっきまで泳いでいた所為か、陸上でも同様にじたばたしている。そのスキをついて戦う用意をしていたセイラムの住民たちが一斉に攻撃を仕掛け始める。シャルマが陸地に戻る頃には討伐が完了していた。
「ありがとうございました。シャルマさん。里の者達を代表してお礼申し上げます」
そうシャルマにお礼を言ってきたのはクレイララだ。
「別にいいのよ。コイツは人間の勇者なんだから。じゃあご飯の続きを」
「そのことなんですが」
意気揚々と食事に戻ろうとするエイル。しかしクレイララに制止をかけられる。
「はぁー! どういうことよ! シャルマ! もっかい海に行ってきなさい!」
シャルマ達が調理していた魚は化け物との乱闘に巻き込まれてぐちゃぐちゃになってしまったという。食事にありつけなかったエイルはセイラムを滅ぼしかねない勢いであたりに魔素をばらまき、シャルマに魔法を使わせようとしたとか。
ちなみにこの後化け物を倒したお礼ということで大量の魚を受け取りエイルは手のひらを返したようにご機嫌だったという。