王国の外へ
シャルマは四天王との激闘を潜り抜け、魔王と相対する。
結果は……、言うまでもないだろう。魔王はシャルマの一撃によって滅んでしまった。
そしてその後また、四天王と同じように激戦を演出し、それが終わったときにシャルマはラト姫にこう言った。
「僕を魔王と相打ちだったことにして、この世界からいなくなったことにしていただけませんか」
と。
「それは構いませんが、なぜそんなことを?」
ラト姫の疑問も最もだ。わざわざこの王国で最強の勇者がそんな真似をする必要なんかないだろう。
「この国には秘密がある……、と僕は思います。ラト姫も見たでしょう、あの大臣の言動を」
「はい、確かにこの目で」
「その真意を確かめるべく、王国の外を見る必要があると思いました。ですから、ここで相打ちで死んだことにして、このまま王国の外へ行くことができないかなと」
ラト姫は少し悩んでから口を開く。
「……一つだけ条件があります」
「なんでしょう」
「お土産、待ってますね」
ラト姫は笑顔でそう言ってのけた。
「はぁ、やっぱりあなたにはかないませんね」
シャルマは苦笑いをしながら言った。
「ふふ、そういうことで。では行ってらっしゃいませ」
ラト姫に見送られたシャルマはそこを発とうとするが、エイル制止をかける。
「待って、鎧と剣は置いていきなさい。大臣から貰ったものでしょう。何かあったら困るわ。ついでに壊しちゃいましょう」
「まぁそういうことなら」
シャルマは鎧と剣に向かって魔法を数発放つ。するとそれらは原型をとどめないくらいぐちゃぐちゃになった。
「で、これはもうただの間素のこもったただの金属に、と」
エイルはそういいながら破片を拾う。
「からの、えいっ。ほい、あんた達、これ持っときなさい」
エイルは拾った破片に何かの魔法をかける。
「妖精さん……。これは?」
「万が一に備えての連絡手段よ。何かあったらこの破片を割りなさい。したらシャルマが持ってる破片も砕けるから」
「分かりました。しかし、私が妖精さんの施しを受けてよろしいのでしょうか。契約もしておりませんし」
「……そうね、だったら駆け付けたときにお菓子の一つや二つ作って貰おうかしら」
「ふふ、喜んで」
破片の受け渡しが終わり、三人は軽く話す。
そして今度こそ二人はそこを発ってゆく。
ラト姫はというと、しばらくした後にシャルマの両親によって魔王城から救出され、無事に王国に届けられた。そしてラト姫が勇者と帰ってこなかったこと、ラト姫の口から勇者と魔王は相打ちになってしまったと説明されたこと、王都からも見えた激戦の様子から、勇者は魔王と相打ちになってしまったということになった。
王都では世界平和を喜ぶ声と、勇者を悼む声でしばらく包まれたという。
そして頃王国の一角で。
「クソ、魔王どもめ。久しぶりの人間がそんなにうれしかったのか。何も殺すまでやる必要はなかっただろう」
「まぁ、奴らも直に復活しますし。その時にでもしっかり注意しておけばいい。それにしても残念だなぁ。折角ボクに勝てる逸材だったのに」
「これでまた計画が先送りになってしまう。あんな人間が現れるのはいつになるのやら」
「まぁまぁ、気長に待ちましょう。どうせ我々が生きている間にまだまだチャンスはあります」
「ふっ、そうだな」
こんな会話も行われていたが、知っているのはこの二人だけだっただろう……。
というわけで前半終了です。後半戦もお付き合いください。
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