最強勇者死す
「フハハハハ、勇者よ、よくぞここまでたどり着いた。しかしいくら最強の勇者とはいえ、ここまでの激闘でさぞ消耗しているであろう。ここからでも四天王の強烈な攻撃が見えておったわ。覚悟しろ勇者! 」
魔王はそういうと、勇者と呼ばれた少年に向かって火の玉を飛ばす。しかしその少年はその火の玉を何なくかわす。
「さすが勇者、この程度では何てことないか。ならこれならどうだ」
再び魔王が攻撃を開始するが、それも少年は何なくかわし、そして魔王の背後に一瞬で回り込み、魔王に一撃を入れる。
「まさか、この私が敗れるとは……」
たったそれだけで、魔王は怪しい色の煙を出しながら消滅していく。
「勇者様!」
魔王が消滅したことにより、魔王の魔力によってつくられた檻に閉じ込められていた姫が自由になる。彼女は勇者の下へ駆け寄っていく。
「姫様、少し離れていて下さい。私にはまだやることがあるので」
「はて? 魔王はもう勇者様が退治されましてよ? 私も四天王との激闘ここから見えておりました。きっとお疲れでしょうし、後でよいのでは? 」
お姫様がそう勇者に問うと、勇者の懐から手の平程度の大きさしかない、小さな少女が現れる。いや、少女というのは正しくないかもしれない。なぜならその少女に見える小さな生き物の背中には、七色に輝く小さな羽が生えているからだ。
「あら、お姫様、この勇者は一回も激闘なんて繰り広げていませんよ?」
「勇者様の妖精さんですね。一度も繰り広げていない、ですか。ではここから見えたものは? あれはきっと王国の城からでも確認できましてよ」
「いいから離れて見ててって」
勇者の懐から表れた小さな少女らしきものは妖精と呼ばれる生き物だった。お姫様は妖精の言うことに疑問を抱きつつも指示に従い、離れた場所から心配そうに勇者を見つめている。
「では行きます」
お姫様が離れたのを確認した勇者はそう言うと、ありとあらゆる種類の魔法を使い始めた。
炎柱を作り上げた次の瞬間には、その場に氷柱を生成し、また次の瞬間にはそこに雷を落とす。
「これは一体なにを?」
「あいつはね、魔王との激闘を演出してるの。四天王との戦いもおんなじよ、自演だったのよ」
「あらまぁ、だから一度も激闘をしてないと。でもなんでそんなことを? 」
実に自演は一時間にわたったであろうか。勇者は肩で息をする程疲労困憊している。そして姫様に向かってこう言った。
「僕を魔王と相打ちだったことにして、この世界からいなくなったことにしていただけませんか」
と。