第一章・なんで異世界《ここ》に先生が⁉・その六
景清が抄網媛に借りた白い巫女服を着ている間に聞いた話によると、空中に浮かぶ巨大な艦は【翡翠】という名前らしい。
艦種は関安宅。
日本語で戦艦に相当する安宅船と、巡洋艦に相当する関船の中間で、旧対日本帝国海軍で言うところの装甲巡洋艦、あるいは装甲帯巡洋艦に当たるようだ。
左右には、航空巡洋艦として見ても小さすぎる飛行甲板がある。
そして右舷側の飛行甲板に景清たちの乗る伝馬船が着艦すると、格納庫から陸野女子高校釣り研究部のメンバーが次々と現れた。
そして一言。
「……誰?」
「知らない人だっ! きっと新入りだよっ!」
女性化した、しかも若返っている景清を一目で見分けられる人間など、存在する訳がない。
「……………………んっ」
しかし景清の袖を掴む人物がいた。
小雨である。
「ん~っ……」
袖を引っ張ったり揺らしたりした挙句、とうとう腕にしがみついてしまった。
「わかるのか⁉」
「んっ」
こくりと頷く小雨。
外見はもちろん、おそらく体臭も変わっている景清だが、その程度で気づかぬ小雨ではなかったらしい。
「この人、君たちの先生だってさ」
抄網媛に答えを明かされても、小雨以外の部員たちは首を傾げるばかりである。
「茜部景清だ」
「……ええ~~~~っ⁉」
驚きの声を上げる榎原。
他の二人は空いた口が塞がらず言葉も出ない。
「小雨、そろそろ離れなさい」
「……んっ、んん~~っ!」
いやいやをする小雨。
抄網媛はその様子を眺めて「尊いなあ」と一言呟いてから。
「そのままでいいから士官室に行こう。実はあんまり時間ないんだ」
と言って歩き出した。
「何をさせる気かは知らないが、魔王を倒せと言うならお断りだ」
せめて王城の周囲でスライム退治の時間くらいは欲しいものである。
「魔王がどんなのかは知らないけど、うちの筋肉馬鹿より強いとは思えないね」
どうやら勇者は間に合っているらしい。
「そのへんの説明から始めないといけないね。まあとにかく入ってよ」