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第一章・なんで異世界《ここ》に先生が⁉・その三
景清が目を覚ますと、そこは水の中だった。
「んぶぅっ⁉」
慌てて口を塞ぐ景清だが、肺に残った空気は僅かである。
目を開けて体を回転させると、すぐに上下方向だけは確認できた。
水面から日光が差し込んでいる。
と、そこに巨大な影が現れた。
視界が真っ暗になって、再び方向感覚を失う景清。
口の中が塩辛い。
『海に落ちたか?』
海釣り施設の桟橋は高位置にあるので、落水の衝撃で気を失ったとしても不思議ではない。
『上下感覚を失ったら、暴れずに体の力を抜け……』
しかし肺が浮袋になってくれるほど空気を溜め込んでおらず、浮上に時間がかかりそうだ。
救命具をつけて来なかったのが悔やまれる。
『真水でないなら、いずれ浮かぶはずだ』
塩分濃度の高い海水は、人体より比重がある。
『いかん、気が遠くなりそうだ』
視界がぼやけて来た。
だがその時、遠くからやって来る人影が。
『人魚…………?』
長い髪を揺らしながら近づく影は、まさに幻獣のそれであった……。