第七話 祝い
――また、ベタな展開ですね。ヒナタさんが書くと結構新鮮です。
半年ほど前、姉が亡くなったときから見始めることになった小説投稿サイトで。告は、その時に知り合ったヒナタヒロというユーザーの書いた小説を読んで、いつものようにメッセージで感想を送る。
姉が亡くなったあの日、確かに姉はいなくなったけど。だけど告は、まだあの部屋に姉が住んでいるような気がしていたし、葬儀が終わったあと、姉のパソコンを使ってヒナタさんにメッセージを送るたびに、確かに自分は姉の代わりにメッセージを入力していると、告はそう感じていた。
――あの日、ヒナタさんを家に招き入れて、姉の部屋で姉の話をした、その時までは。
あの時から、それまで確かに感じていた姉の気配が消えて。今では、こうしてヒナタさんとメッセージをやり取りするときに、ほんの少しだけ感じるだけになって。
――もしも、もしもの話だけど。
この先ずっと、姉の声を聞く人がいたとして。その人が、今みたいにメッセージを交換するときだけじゃなくて、ずっとその声を聞き続けているのだとしたら。
そしてその人が、姉のことをとても大切に思っていて、ずっと忘れずにいてくれる人だとしたら。何より、その人が姉の大好きな言葉を紡ぐ人だったら。きっとその人の言葉は、姉にとっては永遠の祝福で。姉もきっとその人のことを祝福してくれるのかなと、そんなことを告は考える。
きっとあの人には、姉の声が聞こえているのだろう。ほんの少し物語を考えるだけで、ほんの数文字、キーボードを入力するだけで、たったそれだけで、姉の声が聞こえるのだろう。
だけど、姉に望まれる言葉を紡ぎ続けるその人にとって、その祝福は本当に祝福なのだろうか。いかにも姉が好みそうな、あの人が苦手だったはずの物語を見て、そんなことを思う。
――この祝福は、きっと、ずっと続いていく。