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エンタメの定石

作者: HasumiChouji

「やっぱり、あの小説、君的には、ピンと来ないの?」

「すいません、流行りなのは判ってるんですが……」

 俺は、少し前に、ラノベ部門の編集長になった三枝の質問に、そう答えた。

 どうやら、俺が思っていた以上に、フィクションは現実の影響を受けるものらしい。

 そして、「四〇代以上の人間が『若返り治療』を受ける事」が基本的人権の一部になってしまった現実のこの社会の影響が、ライトノベルにも及びつつ有るらしかった。

「じゃあ、君向きじゃないなら、あの小説の担当は、もっと若いヤツに任せるよ。でも、俺は面白いと思ったんだけどなぁ……」

「いや、俺の考えが古いだけかも知れませんが、やっぱり何か変ですよ……『魔王になった息子を、勇者になった父親が止めようとして、一旦、ボコボコにされたけど、人生経験を積んで強くなってから再戦して勝つ』って」

 そうだ。

 四〇歳〜百歳の人間は、外見からは年齢の区別が付かなくなってしまった。

 いや、それどころか、俺が生きてる内に、人生二百年時代が現実になり、二〇半ば〜百五〇歳の人間は、外見から年齢を推測出来ない時代が来るだろう。

 かくして、外見から年齢を推測するのが困難になったせいで、ある世代以降は「年上は目上」と云う「文化」が消え、その結果、当然と言えば、当然な事が常識と化した。

『何十歳も年上のヤツよりも、能力や知識や技術が有る若いヤツなど、いくらでも居る。人格や人間性については猶の事。いや、人生経験すら、年上の方が上だと云うのは、単なる思い込みに過ぎない』

 言われてみれば、当り前だが、かつては見て見ぬフリをされていた事だ。

「俺の若い頃だと……その……息子が父親を乗り越える話とか、弟が兄を乗り越える話とかが一般的だったんで……。『スターウォーズ』とか『北斗の拳』とか……」

「うん、君の考えは古いね」

 三枝は、俺にとっては残酷な事を、あっさりと言った。この辺りが世代の違いなのだろう。

「そう言われますけど、俺達の世代にはうけない気がするんですよ……」

「『息子が父親に勝つ』とか『弟が兄に勝つ』って『不利に思える方が有利な方に逆転勝利する』から面白かったんでしょ? でも、『息子より父親が上』『弟より兄が上』って先入観が消えちゃった時代だと、どうなると思う?」

「そんな時代になっちゃったんですかねぇ……」

「君さぁ、せっかく、百歳まで四〇の頃の体と脳を維持出来るのに、考えが古いと、ずっと、このままだよ。それ、君も嫌だろ」

「このままって、どう云う事ですか?」

「俺達の世代だと、もう、そんな感覚は無くなりつつ有るんだけど、君達の世代には、こんな状況を屈辱的だと思う人が多いんじゃないの?」

「何の事ですか?」

「だから、俺は六〇代で、君は八〇代だけど、上司は俺だ、って状況だよ」

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