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ボクたちの言葉が忘れられるこの世界は間違っている   作者: Fafs F. Sashimi
Вюйумэн 2 : Д'лирзэс, ла малфарно
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#14 Нэсирукиэ 《幻想》


「郷土文化部第一回文化祭企画会議!!!!」


 黒板には大きく頭が悪そうな文字列で『文化祭』の文字が書かれている。短めのツインテールを赤いリボンで結う少女――三良坂理沙は黒板を平手で叩いて部のメンバー(と言っても一人しか居ないが)に傾注を促した。


「くぅ……結構痛かったよ今の……」


 勢い余って強く叩きすぎたのか、手をさすりながら痛がっている。彼女の姿を見てモノクロの色彩とフリルで飾られたビスクドールのような少女が笑っていた。


「ふふふ、そんなことしなくてもこの教室は十分狭いというのに、面白いやつじゃのう。」


 今日の放課後はクリャラフは学校に居たようだった。三良坂が職員室から引っ張り出してきたらしい。そのタイムロスのおかげで今日は時間があまりない。

 痛がる三良坂をよそに、クリャラフはいつの間にか部室に用意されていたダーツ台に矢を投げて遊んでいた。自由奔放にも程がある。というか、こんなもの学校の備品じゃないだろ。ダーツ部なんて運動部にはなかったはずだ。


「早く企画会議を進めないか。」

「そ、そうだね。今日は文化祭にどんな出し物をやるのかを決めるよ。」

「昨日のあれみたいに、シェオタルの地名の解説パネルでも展示したら良いんじゃいのか。」


 クリャラフが「ふむ」と言いながら、右手の甲に顎を乗せた。フリーになった左手でダーツの矢を投げる。矢はダーツボードを逸れて、木の壁にに食い込んだ。


「それではインパクトに欠ける気がするのう。」

「インパクトって……例えば何だよ。」

「三良坂を磔にして、おぬしがナイフ投げでもすれば良いじゃろう。」

「こ こ は 何 の 部 活 か 、 分 か っ て ん の か お 前 ?」


 クリャラフはアンニュイな表情で肩をすくめた。これでも一応部活の体で学校側に申請していた張本人である。まあ、自由過ぎるこの先生に何を言っても無駄であるのは分かっていた。

 一方の三良坂はナイフ投げと聞いても首を傾げて良く意味がわかっていない様子だ。彼女を見ていると人はある点ではバカであったほうが救われるのかもしれないと思えてくる。


「まあ、さっきのは冗談じゃ。でも、展示だけなんて刺激が薄すぎて物好きしか来ないぞ?」

「……それはあまり良くないなあ。」


 三良坂は答えて、シャツのポケットからミューズリーバーを取り出して一口食べた。


「それにしても、インパクトがある文化展示ってのも謎だぞ。」

「やはり三良坂を釣り餌にして、男を釣るしかないかの?」

「お前、教員課程やり直したほうが良いぞ。」


 頭の痛くなるやり取りの後に、チャイムが鳴ってしまった。クリャラフは時間が終わるとそそくさと教員室の方へと帰っていってしまった。自由人を止めることは誰一人にも出来なかった。


 三良坂と話し合って、今日は早々と切り上げて明日また考え直そうということになった。三良坂と一緒に駅まで歩く間に案が出ないか、途中まで一緒に考えようとも思っていた。そんななか校門から出ると、前に手を繋いで歩いている男女生徒が見えた。


「なあ、知ってる?ラテン語で本はliberって言うんだけど、これは自由っていう意味の単語と語源が同じなんだぜ?古代ローマ人は本を読んで、知識を得て、自らを解放することで自由になるって考えたからなんだぜ!」


 男子生徒のほうが意気揚々と話しているのを聞いて、女子生徒は馬鹿みたいに拍手しながら、「すごいすごい」と語彙力のない褒め方をしていた。しばらくすると、彼ら二人は自分たちと別の道へと去っていってしまった。

 三良坂はそれを見送りながら、頭に疑問符が浮かんでいるかのような顔をしていた。


「クランくん、あの語源の話って本当なの?」

「なんで俺に訊くんだよ。」

「知ってそうだと思ってさ。」


 実際真偽がどうかは知っているが、あまり話したくはなかった。


「本当か嘘かなんてどうでもいいだろ。知るか知らないかの権利はあの二人にあるんだし、本当のことが知りたかったら自分で調べればいい。」

「で、結局どうなの?」


 三良坂は本当に知りたそうな顔で俺を見つめた。俺は一つため息をつく。


「……多分間違いだと思う。」


 そもそも「自由である」の意味の単語はlīberで、「本」を表す単語はliberでそれぞれ発音は違う。前者は人々、大衆などを表す印欧語根から派生したのに対して、後者は剥ぐ、切り落とすなどを表す印欧語根から派生した単語で語源も異なる。

 姉の研究ノートにはそういった知識も載っていた。彼女はシェオタル語だけでなく、この世界の色々な言葉にも興味を持っていた。彼女のノートからはシェオタル語だけではなく色々なことを学んできた。


「だけど、そういった民間語源(ファンタジー)は人が言葉や伝承に興味を持つ始まりだろ?興味を持つ芽を叩き潰す必要なんてない。」


 三良坂は感心した顔でその言葉を聞いていた。その瞬間、何かをひらめいたかのように彼女は手をぽんと叩いた。


「そうだ、伝承を文化祭で取り扱えば良いんだ。」

「いきなりだな、それも地味な展示物になるんじゃないか?」


 伝承も書いて貼り付ければ、地名語源と同じ地味な展示物だ。

 だが、三良坂は何か考えているかのような表情でこちらを見ていた。


「んー、そうかもしれない。けど、とりあえずどんな伝承を取り扱えるか調べてみないとなあ。」


 俺にはまた何かに振り回されるのではないかという予感がしてならなかった。


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