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ボクたちの言葉が忘れられるこの世界は間違っている   作者: Fafs F. Sashimi
Вюйумэн 2 : Д'лирзэс, ла малфарно
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#10 Асирлэнизи'э 《対談》


「というわけで、英語弁論大会で一位を取れたらシェオタル語を教えてください!」

「だめじゃ。」

「えぇーっ!?」


 まるでギャグのようなやり取りを前に俺は呆れ返るしかなかった。

 昼休み、授業を終えて教員室に逃げようとするクリャラフを捕まえて、やっとこさ話に漕ぎつけた。俺も合わせてクリャラフの居場所を掴むのにつきあわされた訳だ。だが、結局得られたのがこの回答だった。


「クラン君も突っ立ってないでなにか言ってよ!」


 今度のアホ毛は緩やかな速度で回転していた。非難がましく言ってくる三良坂をよそに、クリャラフは仏頂面でこちらを見てくる。それにしてもいきなり拒否を即断できることに何か奇妙なものを感じた。過去シェオタル語の話をするときに彼女が気分を悪くすることが何回かあった。だがそれは大戦争に関して触れたときだけで、それ以外で話を聞かせてくれないことはほとんど無かった。


「先生、どうして駄目なんだ?」

「わらわにはシェオタル語は教えられん。」


 深刻な表情で言葉を返すクリャラフに、三良坂はいつもの元気さは鳴りを潜め縮こまってしまっていた。上目遣いでこちらを見てくるが、何も答えられなかった。それでも頑張って何か反論しようとしている。


「言ったじゃろ、シェオタル語を教えることはおぬしらのためにはならない。第一、シェオタル語なんか勉強してとうするんじゃ?」

「ボクはシェオタルの人たちと極東の人たちがお互いの文化を知れるようにまずシェオタル語を勉強して……」

「そのシェオタルの文化とやらは今どこにあるんじゃ?紙に綴られたものだけじゃろ?」


 クリャラフは鼻で笑いながら言った。戦前に生まれた彼女にとってはその発言は彼女の過去を否定するもののはずだ。彼女自身がシェオタルの限界を理解しているかのようだった。言っている途中で口を挟まれた三良坂はそのまま押し黙って俯いてしまう。


「シェオタルは極東に占領されたときに死んだのじゃ。おぬしたちはしっかりとその現実を受け入れたほうがいい。」


 俺たちに背を向けて、クリャラフはその場を去っていった。黒髪に混ざる銀色の一房の髪は、俺のやっていたような最後の抵抗ではなかった。その背中には、諦めの決意を強く感じた。背後にかかる銀色の髪を輝かせながら、彼女が振り返ることはなかった。


 三良坂は、俯いたままだった。無言で、完全に意気消沈という感じになってしまっいている。肩から垂れた腕の先で強く手が握られていた。アホ毛が悔しさに小刻みに震えている。流石に可哀想と思って何か声を掛けようとした途端に彼女は顔を上げた。歯を食いしばって悔しさが滲み出ている。


「……あの頑固者!!」

「おい……叫ぶなって。」


 彼女の怒声は廊下の先まで響いていた。振り返ると周りの生徒たちがちらちらとこちらを見てくる。恥ずかしくて顔が熱くなった。

 彼女はそんな周りの様子も気にせず、懐からミューズリーバーを取り出して包装を乱暴に引きちぎってバーの先を俺の方に向けた。指差す代わりのようだった。


「こうなったら、何が何でもあの先生をボクたちの運動に組み入れるよ!ボクたちのシェオタル現実逃避団に!」


 クソダサいし、かっこ悪すぎる。自分のネーミングセンスを疑わなかったのだろうか?

 俺はまたため息をついた。彼女はミューズリーバーにかぶりついていた。


「……それで結局どうするつもりだ?弁論大会一位での約束を結べなかった以上他の方法が必要だ。」

「うぅ……具体的なことは分からないけど、シェオタルの文化が少しでも生きているところを見せれば良いのかも……けどそんな都合の良い所って無いよね……」


 三良坂は思い出そうと腕を組んで唸っていた。しかし、俺には一つアイデアがあった。今クリャラフを連れて行くに相応しい場所が明白に頭の中に浮かんできた。


「なあ、三良坂?」

「……何?」

「今週末は暇か?旅行に出かける気はないか?」


 いきなり奇妙なことを言ったなと思ったのだろう。三良坂は片眉を上げて、怪訝そうにこちらを見ている。ミューズリーバーの包装紙を慣れた手つきで一本結びにして、自分の制服の胸ポケットに戻した。


「いきなりどうしたの?家に行くのも嫌ってたくせにいきなり、キミ気持ち悪いぞ。」

「……そうかもな。」


 適当に返答して、スマホを取り出してバーチャル地球儀アプリを起動する。ルートを探し、自分たちでも行けそうであることを確認した。怪訝そうな顔のままの三良坂は瞑目しながら先の予定について思い出してる様子であった。


「まあよく考えれば、予定も何もボクはいつでも暇なんだけどね。」

「それなら良かった。クリャラフ先生も連れて行こう。」


 そこまでいって俺はいつもと自分が違うことに気づいた。久しぶりにこれだけ活動的になれた気がする。これは彼女のおかげだと感謝しなければなるまい。


「楽しい旅行になると良いがな。」


 彼女の不思議そうな顔は、現時点では俺の考えを何一つ理解していないかのようだった。だが、それでいい。


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