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雲一つない青い空。暖かな日差しがアンファングターク王国に、降り注いでいた。
王城の裏手にあたる人気の無い裏門にいるのは、一頭の馬の側にいる男女とそれを見送るように立つ三人の人影だった。
簡素な装いに身を包んでいるウィリベールとエリザの姿は、魔法使いと元貴族令嬢には全然みえなかった。
「本当に馬鹿なことをしたものだ。もう魔法使いとは名乗れまい」
リベラがウィリベールへと小言をぶつける。
「師匠には育てて頂いたのに、恩を仇で返す形となってしまいましたね。けれどわたしは、後悔していません」
ウィリベールがエリザへと目を向けると、答えるようにエリザも笑みを向ける。
すかさずリベラが、ウィリベールの頭を平手で打った。
「痛っ!」
「反省が足りなかったようだからな……もうわたしが注意することもなくなるだろう」
リベラは悪びれることもなく、手をヒラヒラと振っていたが、その横顔はどこか寂しそうだった。
そのやり取りを横並びに黙って見ていた、紗夜とフィロスパードへとエリザが歩み寄った。
「サヤさん」
「エリザ……」
紗夜とエリザが向かい合う。思えばこうして対峙するのは初めてだ。初遭遇の時のエリザは取り乱していたし、その後も面と向かって話す機会はなかった。
「あなたを巻き込んでしまって、本当に申し訳なかったわ」
エリザが深々と頭を下げた。頭を下げたままエリザがはっきりと言葉を続けた。
「だけど、私もウィルと同じように後悔はしていないの。私達はどうしても一緒にいたかったから」
「…………」
紗夜は下げられたエリザの頭を見つめる。フッと手に温もりを感じた。フィロスパードが紗夜の手を包んだのだ。紗夜はフィロスパードの顔と包まれた手を見つめると、エリザへと視線を戻した。
「顔を上げて」
エリザがゆっくりと顔と上げる。
「ウィリベールには直接言ったけど、私はあなた達を一生許せないと思う」
「当然だわ、私達はそれだけのことをしたんだもの……」
エリザが自嘲気味な笑みを口元に乗せる。
「でも許せなくても、恨んではいないの」
紗夜の言葉にエリザと、隣に並んだウィリベールが困惑顔をする。
「……あなた達の気持ちが、少し分かったから」
「ああ、そうだな」
紗夜はフィロスパードへと、そっと身体を寄せた。合わせるように、フィロスパードは紗夜の肩へと手を置いて、紗夜を引き寄せた。
その動作で察した二人はそれ以上何も言わずに、馬上へと相乗りをした。それを、立つ三人は見上げる。
「それでは、わたし達は行きます。陛下やあなた達の温情に感謝します」
「ありがとうございます、そしてさようなら」
別れの言葉を告げると、ウィリベールとエリザを乗せた馬は、勢いよく裏門を飛び出した。
あっという間に二人の背中が遠ざかって行った。残された三人はそれぞれ複雑な想いを抱きながらも、黙って彼らの背中を見送った。
「さて、じゃあわたしは研究室に戻る。サヤ嬢も支度をした方がいいぞ、時期にソルラントが迎えに来る」
「あっ! そうでした! ごめんなさいフィロスパード様、先に部屋に戻りますね」
フィロスパードの返答も疎かに紗夜は、小走りで城へと戻る。
「おいっ、戻る場所は同じなのだから一緒に、って聞こえてないか……」
告白しあったあの日、泣き疲れて眠ってしまった紗夜は城に一晩、意図せず泊まったのだ。
「しかし、ミラジュスト侯爵家の方々には驚いた。魔法の影響が解けたのにサヤ嬢を迎え入れたいとは」
『身代わり魔法』の影響が解けた、あの日集められたミラジュスト侯爵家の関係者達。
エリザの処罰を受け入れた後、グランツ陛下との話し合いの場で紗夜の迎え入れを提案したのだ。判決を言い渡した後に、すぐその提案をされたグランツ陛下は難色を示した。
しかし、『紗夜の居場所を作ってあげたい』というミラジュスト家の想いを知り、当人である紗夜が承諾したらと条件をつけてその提案を受け入れたのだ。
結果、紗夜は提案を受け入れて晴れて名実ともにミラジュスト侯爵家の一員となった。
「殿下、そんなに不満そうな顔をしたらサヤ嬢が困るぞ。諦めて受け入れろ」
リベラは言いたいことを言って、その場を去った。
フィロスパードが紗夜を城に引き止めたかったのを、リベラは見抜いていたのだ。
リベラの背中を見送ったフィロスパードは、紗夜がいる部屋の方向を見つめる。
愛しい人の姿を思い浮かべて、自然と笑みを浮かべたフィロスパードは一歩を踏み出した。
ひとまずここまでを仮に1章として、ひと区切りです。ここまで読んでくれた方々に本当に感謝しています!2章以降については一部構成は出来てますが、まだまだ出だしですのでかなりのゆっくり更新となる予定です。日々精進の精神でマイペースに努めていきたいです。1章(仮)ありがとうございました!




