表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

23

 リベラは何でもないことのように杖を振っている。



「…………」



 紗夜は口をポカーンと開けるしかなかった。



「サヤ、大丈夫か?」



 フィロスパードが紗夜の肩に軽く手を置く。



「大丈夫じゃないです……」



 ――待って! 待って! 陛下が見てる⁉︎ ずっと見られてたの⁉︎



「フィロスパード様! 私変なこと口走ったりしてないですよね⁉︎」



 紗夜はグリンッと音がしそうな勢いで、フィロスパードへと顔を向けた。



「変なことなんて何も言ってないから大丈夫だ、落ち着いてくれ」



 フィロスパードが宥めるように紗夜の背を撫でた。それでも、紗夜の内心の荒れは治らなかった。



 ――落ち着くってどうするんだった⁉︎ だって、全部筒抜けだったってことでしょ⁉︎



 そこにリベラが火に油を注ぐように、追加の言葉をかけた。



「ちなみに、ミラジュスト家の方々がいる別室にも、同様の水晶玉を置いている」


「え?」



 ――それって……あの人達に私の内心を知られたってこと?



「サヤ嬢の許可もなく、勝手なことをして悪かった。でもこれは判決を決める上でも、必要なことなんだ……」



 紗夜はぐっと口元に力を入れた。

 元の世界の裁判でも、色々調査した上で判決を下す。

 この国には、この国のやり方があるのだろう。



「分かりました……」



 いつのまにか背を撫でていたフィロスパードの手は、肩に添えられていた。



「すまない……改めてサヤ嬢の意見を聞かせてくれるか?」



 リベラが落ち着いた口調で問う。



 ――何を言えばいいの……。



 姿は見えないが、この国の最高権力者である国王が今回の件の判決に、紗夜の意見を参考にするという。

 先程まで話していた内容は、紛れもなく紗夜の本心だ。真剣に言葉にしたつもりだ。

 けれど、見られている事実を知った以上言葉の重みは変わってくる。紗夜の言葉一つ一つが彼らの人生を左右すると思うと……。



 ――怖いっ!



 その場の者達が紗夜が口を開くのを待つ一方で、紗夜は怯えるように口を硬く閉ざした。



「…………」


「サヤ」



 そんな紗夜に、フィロスパードが優しく名前を呼ぶ。呼ばれた紗夜は、フィロスパードへと顔を向けた。その顔は眉尻が下がり、瞳は不安を表すようにユラユラと揺れていた。



「難しく考えなくていい、先程のようにサヤの正直な気持ちを教えてくれ」



 フィロスパードが両手で紗夜の頬を包み込み、目を合わせる。紗夜の視界には、フィロスパードのキラキラと輝く瞳だけが映っていた。



「怯えなくていい、サヤを否定したりなんかしないから」



 フィロスパードの言葉が紗夜の中に溶け込む。



 ――この人はどうして……私の欲しい言葉をくれるんだろう。



「フィロスパード様……」


「大丈夫」



 フィロスパードが安心させるように、優しく紗夜の頬を撫でた。紗夜はフィロスパードと見つめ合うと、コクリと首を縦に振った。その様子を確認したフィロスパードが、頬から手を離す。

 温もりが離れていくことに寂しさを感じたが、その気持ちにいったん蓋をする。


 紗夜は居ずまいを正し、リベラとウィリベールに向き合った。リベラは静かに紗夜の言葉を待ち、ウィリベールは目を瞑り瞳を閉ざしていた。



「……難しいことは分からないです。私はこの国の法律に詳しい訳でもないので」



 紗夜は頭の中を整理しながら、言葉を発する。



「でも、私の意見を参考にしていただけると言うのならば……」



 紗夜は心を落ち着かせるように、一呼吸置いた。



「ウィリベールとエリザが一緒にいられるようにしてほしいです」



 紗夜の言葉を聞いたその場にいた者達は、皆驚きに目を見開いた。

 自分の言葉を言い切った紗夜は、真っ直ぐと前を見据えた。



「……それは、なぜ?」



 その中でリベラが冷静に問いかけた。

 今までの話の流れから、紗夜が二人の支援をするようなことを言うとは思わなかったのだ。



「……大切な人と離れることはとても悲しく、苦しいことです」



 紗夜は自身の手に重ねられている、フィロスパードの手を自らも握った。フィロスパードはそれに答えるように握り返した。



「私は臆病だから、二人の命を背負うことなんて出来ません」



 仮に二人に極刑の判決が下されたとしたら、紗夜は一生その事実を引きずるだろう。



「私は、この事件の当事者です。たぶん一生二人のことは許せないと思います……」



 それだけ紗夜の失ったモノは大きい。家族、友人、元の世界、サヤにとってかけがえのない存在だ。



「でも、このことが無かったら……私はフィロスパード様に出会えなかった」


「サヤ……」



 フィロスパードが思わず、といったように紗夜の名前を呼ぶ。



「フィロスパード様と出会わなかったら、こんな気持ちを知ることもなかったかもしれない」


 この世界に来たばかりの頃は、ウィリベールとエリザの気持ちなんて全然分からなかった。

 けれど、フィロスパードと出会い恋をして気付いたことがある。

 それは実際の、愛し合う二人に出会ったことで確信した。



「この人と、ずっと一緒にいたい」



 それは紛れも無い紗夜の心からの本心だった。



「確かに彼らのやり方は間違っていました。

 けれど、フィロスパード様と出会わせてくれた事実には感謝してるんです……」



 恋は盲目とはよく言ったもので、自分の中にこんなに、溢れるような感情があるとは思ってもみなかった。



「これが、私の本心です。参考になったか分かりませんが、どうかよろしくお願いします」



 双方無言の時間が続く。


 すると、おもむろにリベラが耳元を飾るピアスに触れる。



「はい、リベラです。はい、はい、ではこれからそちらに向かいます」



 傍目から見たら、独り言を言っているようにしか見えない。

 リベラはピアスから手を離すと、その場で立ち上がった。



「父上からか」


「はい、殿下。陛下から謁見の間に戻るようにと」



 それが意味していることとは……。



「彼らの判決が下されます」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ