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 大人二人が、余裕でゆったり眠れるような、クイーンサイズの天蓋ベッドで紗夜は、目を覚ましたまま固まっていた。



「………………」



 いつも見慣れているはずの自室の木目調の天井は、すっかり無くなってしまっている。

 代わりに紗夜の目に映ったのは、全く見覚えのない真っ白な天蓋だった。



 ――えっ? 何これ? 何これ? 私まだ寝てる?



 あまりの現実離れした光景を前に紗夜は、ベッドに横になったまま叫び出したかったが、現状が分からない状態で騒ぐのは、得策じゃない。

 紗夜は、落ち着く為にゆっくりと深呼吸を二、三度することで、叫び出しそうな気持ちをどうにか抑えた。



 ――落ち着け、紗夜。まずは、起きて現状を把握するのが先よ……。



 ベッドから起き上がり、恐々と床に足を着いた紗夜は、部屋を見渡した。

 クイーンサイズの天蓋ベッドが余裕で収まるその部屋は、随分と広い。

 その一室は、紗夜の家のリビングよりも広く感じる。



 ――これって、下手したら私の部屋、二部屋分くらいあるんじゃ……。



 窓際には、大きな格子窓があり、側には、白いレースのカーテンが、掛けられているのが見える。

 窓から降り注ぐ陽光に照らされている、部屋の壁紙は、淡いクリーム色で、所々に小花と葉が描かれている。

 その前には、壁紙と同系色の、猫足の収納チェストが置かれている。

 天蓋ベッドと対極に位置する、壁側には、同じ色合いの大きな本棚と、勉強机のような物も一緒に並んでいる。

 部屋の中央に位置する場所には、おしゃれな二人掛けのテーブルと椅子がセットで鎮座していた。



「……いや、いや、私、どこのお嬢様の部屋に迷い込んだの?」



 紗夜は、腕組みをしながら首を傾げる。よくよく見ると服装も寝る前と変わっている。

 シンプルな上下揃いのチェック柄のパジャマを着ていたはずが、フリル付きの淡い水色のネグリジェ姿になっていた。



 ――何これ。めっちゃ、スベスベで触り心地良い!



「って、違う! 私、いつ着替えた!」



 紗夜は、思わずネグリジェの裾を両手で持ち上げた。



「訳が分からない……」



 途方に暮れた声が自然と漏れた。

 ふと紗夜は、ベッドから降りる際に足を着けたところとは、反対側に目を向けた。ベッドサイドにもチェストがあるのに気付いたのだ。

 上部には、写真立てが飾られている。近づいて手に取って見ると、五人の家族写真のようだ。皆、上質そうなスーツやドレスを着ている。夫婦らしき男女とその周りに二十歳代くらいの青年、彼とあまり歳が変わらないような女性、末っ子であろう少女が写っている。一見すると服装以外は、特筆するようなことは、無いようだ。けれど、紗夜は、写真に写っている少女から目が離せなかった。



「…………は?」



 そこには、毎日鏡で見慣れている自分そっくりな人物が写っていた……。



 ――私? いや、色が違う。



 紗夜の髪は、赤茶混じりの黒髪だし、瞳も日本人らしい黒だ。対して写真の少女は、ピンク色の髪に若草色の瞳という花のような色合いだった。髪の長さも紗夜は、肩に少し掛かるくらいの長さだが、少女は、腰まで届く長髪だ。



 ――分からないことがどんどん増えていく……。



 それから、どれくらい時間が過ぎたのか分からない。五分か、十分か、それ以上なのか、紗夜は、部屋の中で呆然としていたが変化は、突然訪れた。



 ――トン、トン、トン、トン。



「うわぁっ! 」



 静寂の中で聞こえた、扉をノックする音は、一種の恐怖を紗夜に与えた。

 かろうじて、ベッドサイドに立ったままだった紗夜の小さな悲鳴は、扉の外の者には、聞こえなかったようだ。



 ――トン、トン、トン、トン。



 紗夜が右往左往していると、再度ノックの音が響いた。



 ――とにかく何か行動しないと、このまま時間だけが過ぎちゃう……。



 紗夜は、意を決して、もう一度深呼吸した。

 ゴクリと、自分の唾を飲み込む音が、やけに耳にこびりついた。



「…………はい…………」



 ――さあ、来い! 鬼が出るか蛇が出るか!



 紗夜は、緊張した面持ちで扉を見つめる。


 開いた扉の先にいたのは、一人のメイド服姿の若い女性だった。

 女性は、部屋にいる紗夜と目が合うと、微笑んだ。



「おはようございます、お嬢様。お加減はいかがでしょうか?」


「…………はい?」



 ――誰か! 説明をお願いします! 私、いつからお嬢様になったの?!



 紗夜の願いが通じたのか、または、突然の出来事の連続に、とうとう脳内の処理速度が限界を迎えたのか。

 紗夜は、人生で初めて気絶というものを体験することになった。

 気絶する間際、見えたのは、目を見開き、焦った顔の女性メイドの姿だけだった。



 ――その間際に、その場にいない、少女のような声で『ごめんなさい……』という言葉が落とされたのを、紗夜は、気が付かなかった……。



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