表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

19

「どんな事情があろうと、禁忌の魔法を使用した事実は変わらない。……処罰は免れないだろう」



 ウィリベールとエリザは静かに目を閉じた。



「だからと言って、瀕死の者を今すぐどうこうする気はない。状態を確認し、対処する為にリベラが城で待っている。詳しい話はそれからだ」



 フィロスパードの言葉にウィリベールは、静かに(こうべ)をたれた。



「殿下のご意向のままに」



 紗夜には、その光景を見ていることしか出来なかった。



「では、早速転移する」



 フィロスパードが懐から、転移魔法式が組み込まれた魔石を取り出す。その間紗夜は、何か物足りなさを感じていた。



 ――何か忘れてるような?



「皆、俺の周りに集まれ。はぐれて別の場所に飛ばされては敵わないからな」



 ウィリベールがベッドから、エリザと魔法の杖を支えにして立ち上がる。



 ――別の場所……!



「サヤ」


「ああっ!」



 フィロスパードが紗夜に近付いたのと、紗夜が声を上げたのは同時だった。



「一角獣! 一角獣ですよ、フィロスパード様! 私達御者の方に、何も言わずここまで来ちゃいました!」


「あ……」



 フィロスパードも思い出したのだろう。間の抜けた声が洩れた。



 ――ああっ! 確かに予想外の展開に動転していたとはいえ、どうしよう!

 あわよくば、帰りにでも撫でさせてもらおうって、思っていたのに!



 紗夜の脳裏には、忘れられて寂しそうに鳴く一角獣と、黄昏ている御者の姿が映った。



「今から、馬車まで戻るのは………」


「ああ、それなら心配いりません」



 リストがフィロスパードへと顔を向ける。



「総統殿の所から、フィロスパード殿下の所に戻る途中で、御者には先に戻るように伝えておきました。あの状況じゃ、のんびりデートも続けられないと思いまして」



 リストは、やはり無表情のまま何でもないことのように答えた。



 紗夜の脳裏の一角獣と御者が、生き生きと駆け抜けて行った。



「良かったあ」


「お前なあ、そういうことは先に言え」


「聞かれなかったので」



 紗夜がホッとしていると、フィロスパードとリストの気心知れたやり取りが聞こえる。

 悪びれることなく答えるリストに対して、フィロスパードが脱力したように文句を言う。それは決して、不快に感じるようなやり取りではなかった。



 ――仲良いんだなあ。フィロスパード様、信頼してるって言ってたもんな。



 紗夜はリストへと向き直る。



「リストさん」



 紗夜の声に、フィロスパードへと向いていた顔を、紗夜へと向けるリスト。



「…………」



 じっと見られるだけで返答はなかった。



「お気遣い下さって、ありがとうございます」



 紗夜は、リストへとお辞儀した。



 ――リストさんが気付いてくれなかったら、一角獣や御者の方に悪いことするとこだったわ。



 紗夜が頭を下げた瞬間、僅かにリストの目が見開く。それも、紗夜が頭を上げた時には元に戻っていた。



「……別にあんたの為じゃないし」



 リストは、フイっと紗夜から目を背けた。表情こそ変わっていないが、先ほどの変化をフィロスパードは見逃していなかった。



「良かったな」



 フィロスパードがリストの背中を軽く叩きながら、小さく声を掛けた。



「それじゃあ、ひとまずの心配ごとは無くなったし、今度こそ城に転移するぞ」



 フィロスパードの言葉にエリザとウィリベールは、お互い離れないように支え合う。



「サヤ、手を」



 後ろにリストを従えたフィロスパードも、紗夜へと手を差し出した。



「はい、フィロスパード様」



 紗夜も離れないように、しっかりとフィロスパードの手を握った。



「行くぞ」



 皆の様子を確認したフィロスパードは、魔石へと魔力を注いだ。すると、魔石が一際光り輝き五人を包み込んだ。光が止んだ部屋には、誰の姿も無かった。



 光に驚き目を閉じていた紗夜は、一瞬の浮遊感を感じると、より一層フィロスパードの手を強く握った。



「大丈夫」



 耳元でフィロスパードの低く落ち着いた声が聞こえた。



 ――ヒェー! 色っぽい! フィロスパード様、私にはちょっと刺激が強いです!



 紗夜が自分の頬が赤くならないように意識していると、足が地面に着く感覚がした。



「遅かったな」



 紗夜の知らない声が聞こえる。



「サヤ、もう目を開けても大丈夫だ」



 フィロスパードの声に導かれ、紗夜はゆっくりと目を開けた。



「へ?」



 目を開けた先に広がった光景は、全く知らない場所だった。


 一つの教室分くらいある室内には、両脇の壁に本や何かの薬草らしきものが、入ったビンが並べられた棚がある。

 机には、分厚い本が何冊も乱雑に置かれて積み重なっていた。更に、水場らしき場所には大鍋があり、近くの台には何かの葉を刻んだ痕跡が残っている。



 ――魔法使いの部屋だ!



 そこは紗夜が想像していた、物語の中のような部屋が広がっていた。



「リベラ」


「待ちくたびれたわ、何の為に魔石を渡したと思ってる」



 フィロスパードに名を呼ばれたのは、ウィリベールと似たような色の金髪を、高い位置で結った女性だった。

 真っ白なローブの背中には、アンファングターク王家の紋章が刻まれている。彼女こそ、アンファングターク王国(おうこく)国家魔法士(こっかまほうし)総統(そうとう)リベラ・シフリールその人だ。



「これでも、急いだ方だ」


「ふーん、で、そいつが例の者か」



 リベラの視線がウィリベールに固定される。

 ウィリベールは、先ほどから顔を上げず、エリザに支えられながらずっと床を見つめていた。

 リベラが背丈を越える杖を手に持ちながら、早歩きでウィリベールに近付く。



「こんのおっ!」



 リベラが拳を握りしめる。



「馬鹿弟子がぁぁぁぁっ!」


「ガフッ」



 拳は容赦なく、ウィリベールの頭に振り下ろされた。

 ウィリベールはそれに耐えきれず、床に沈んだ。ウィリベールを支えていたエリザも釣られて、床に膝をつくこととなった。



「ウィルッ!」


「へ? え? へ?」



 ――え? 弟子って言った⁉︎ 今、弟子って言ったよね⁉︎



 エリザの悲痛な叫びも、紗夜の混乱も無視して、リベラが床に沈んだウィリベールの前に仁王立ちする。しかし、ウィリベールが起き上がる気配はない。



「……フィロスパード殿下」


「言うな」



 その光景を黙って見ていた二人の男がいた。何か思うところがあるのだろう、リストが発言しようとすると、フィロスパードがそれを止めた。

 しかし、フィロスパードも思うところは同じだったのだろう、それを感じ取ったリストは止められた言葉を発した。



「あれ、トドメさされたんじゃないですか」


「…………」



 否定してくれる者は誰もいなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ