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 紗夜がフィロスパードにお願いし、なんとかエリザの話を聞くことを許してもらう。

 フィロスパードは内心納得出来なかったが、気になる部分があるのも確かだった。

 なので、しぶしぶだが紗夜の願いを承知した。

 しかし警戒を解くことはなく、紗夜の隣でいつでも動けるように身構える。


 敷物の上に紗夜とフィロスパードが並んで座り、その向かいにエリザが座る。



「それで、先も言ったがまず名乗れ」



 フィロスパードが、瞳に警戒の色を宿したまま声を掛けると、エリザの肩がビクリッと揺れた。



「エリザ……エリザ・ミラジュストと申します……」


「ミラジュスト? ミラジュスト侯爵家の娘は、オパーレ嬢とサヤの二人のはずだが」



 フィロスパードの瞳に鋭さが増す。エリザの一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)を見逃すまいとしている。



「そ、それはっ! …………」



 エリザはその瞳の強さに怯え、ただただ身体を震わせる。



 ――この子がエリザ……本物のこの世界の侯爵令嬢……。



 紗夜は、もしエリザに会ったら言いたいことがいっぱいあった。けれどそれは……。



 ――今じゃない。それに、こんなガタガタ震えてる状態で言っても、ちゃんと答えてくれるか分からないし……。



「フィロスパード様……」



 紗夜の呼びかけに、フィロスパードのエリザに向けられていた眼差しが紗夜に向く。



「どうした?」



 優しい声音と瞳は、エリザへと向けられていたのとは雲泥の差だ。



「私に話をさせて下さい」



 ――彼女には聞かなきゃいけない。例えこの人に、本当の私を知られることになったとしても……。



「だが……」


「お願いします。フィロスパード様」



 紗夜は、真っ直ぐな眼差しでフィロスパードを射抜いた。



「……分かった。だが俺はサヤの側にいるぞ」


「はい、ありがとうございます。フィロスパード様」



 紗夜は、エリザへと顔を向ける。エリザは、私達のやり取りを呆然と見つめている。



「フィロスパード様って……第二王子様の……」



「はじめまして」



 紗夜は、エリザの心情など知ったことではないので話しを進める。



 ――これでも、私怒ってるんだから。



霞沢(かすみざわ)紗夜(さや)です。お話をしましょう、エリザ」



 紗夜が名乗るとエリザは、顔色を変えた。フィロスパードは、口を出さなかった。



「あ、その……」



 しどろもどろに青ざめるエリザ。



 ――まどろっこしい。



「ウィリベールに何があったの?」



 ハッと、青ざめながらも何を優先すべきか思い出したのだろう。



「貴方にこんなこと頼むなんて、虫が良すぎるし、自業自得だと言われれば否定出来ないわ……でも頼める人が他にいないの!」



 エリザは、瞳に涙を溜める。紗夜はじっと話に耳を傾けた。



「ウィル、ウィリベールは、私達にかけた……身代わり魔法によって死にかけてる……」



 エリザの涙が彼女の頬をつたう。



「身代わり魔法だと」



 フィロスパードが眉間に皺を寄せた。



「フィロスパード様、ご存知なんですか?」



 紗夜がウィリベールから夢で言われたのは、エリザと紗夜が同一の魂で、身代わりとしてこの世界に連れてきたということだった。

 身代わり魔法というのが、どういう魔法であるのかは知らなかった。



「身代わり魔法は禁忌の魔法だ。膨大な魔力を必要とし、場合によっては術者だけでなく対象となった者まで、命の危険に晒される極めて危険な魔法だ」



 フィロスパードが険しい顔でエリザを睨んだ。



「そのウィリベールという者は、それに手を出し差し詰め瀕死といったところか?」


「はい…………」



 エリザの顔は、青を通り越して白くなっていた。



「フン、自業自得だな。己の欲の為に他者を巻き込み、挙げ句それによって死にかけてる。救いようがない」



 エリザは、フィロスパードの正論に反論も出来ず俯く。膝に置いていた手は、ドレスを掴みブルブルと震えていた。



 ――フィロスパード様の言葉は正しい……それに魔法の内容を聞くと、私知らない間に命の危機だったみたいだし!



 禁忌とされている魔法を使い、その結果ウィリベールは今なお苦しんでいる。エリザの様子からして一刻の猶予もないのだろう。


 紗夜は、ウィリベールのせいでいきなり知らない世界で過ごすことになった。暴力などのひどい目には合っていないが、戸惑ったし、いきなり自分の世界から引き離されたのだ。



 ――怒りを覚える。正直ウィリベールにもエリザにも良い印象はない……だけど……。



 紗夜の目は、自然とフィロスパードへと向いた。



 ――この出来事がなかったら、フィロスパード様と会うことは未来永劫なかった。



 フィロスパードは、紗夜の視線に気づくと紗夜の瞳をじっと見つめた。眉が下がり情けない表情をした紗夜が、フィロスパードの瞳に映る。



「……フゥー、リスト!」



 フィロスパードは、溜め息をつくと凛とした声で誰かを呼んだ。



「ハッ、ここに」


「ファッ!」


「キャッ!」



 すると、先ほどまで影も形もなかった場所に片膝をつき、黒い装束を着た青年が現れた。



 ――えっ! どこから出てきたの⁉︎



 青年は驚く紗夜やエリザには目もくれずに、フィロスパードの一歩後ろに控えていた。



「リスト、話は聞いていたな、城まで使いを頼みたい。国家魔法士総統リベラ・シフリールに、禁忌魔法の影響を受けた者の対処方法があるか聞いてきてくれ」



「ッ!」


「ッ!」



 それは、紛れもなくウィリベールの助けとなる指示だった。



「行くのは構いませんが、私が戻るまで勝手に件の人の元へ行ったりしないで下さいね」



 リストは、無表情のまま目だけでフィロスパードに訴えた。



「……分かっている」


「…………」


「……ああっ! お前が戻るまでここにいるからさっさと行って来い!」


「……その言葉忘れないで下さいよ」



 フィロスパードに急かされたリストは、一瞬で姿を消した。



「忍者だ……」



 ――フィロスパード様が言ってた影護衛の人だよね! なんかすごい忍者っぽかった!



「ニンジャ? あいつの名は、リストだが?」



 フィロスパードが不思議そうに首を傾げる。



「あ、いえいえ! 気にしないで下さい!」



 ――思わず声に出てた……。



「あ、あのウィルを助けてくれるんですか?……」



 話が脱線しそうになったところで、エリザがおずおずとフィロスパードに縋るような目を向ける。



「勘違いするな。お前達の為じゃない……サヤの為だ」


「……私?」



 ――苦しんでいるのは、ウィリベールなのに?



「身代わり魔法は、『術者』と『本人』と『身代わり』の三人で成り立つ魔法だ。術者に影響が出ているんだ、他に影響が出ないとも限らない」



 フィロスパードは、紗夜の頬に手を添える。



「何もせず、後にサヤに影響が出てしまったら、俺は行動しなかった自分が許せない」



 紗夜は、目を見開く。



 ――どうして? 私が『身代わり』だと気付いたはずなのに……。



 刻一刻と時間が過ぎて行く……。





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