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 サァーッと心地の良い風が二人の間を通り抜けた。



「わぁーー!」



 馬車から降りフィロスパードにエスコートされながら着いた場所は、アンファングターク王国の王都が一望出来る丘の上だった。


 人里から離れたその場所は、一本の青葉が繁る木が目印となっていた。


 丘の上からは、四方を緑豊かな自然に囲まれ、それらに守られるように存在する城下街。国の豊かさを象徴するような美しい王城が見えた。



「王都が一望出来るこの場所に、サヤを連れてきたかったんだ」


「素敵な場所ですね! 連れて来てくれてありがとうございます、フィロスパード様!」



 フィロスパードが片側に抱えていた敷物を広げ、座る場所を用意する。



 ――王子様なのに用意も自分でするんだ……そういえばお付きの人も馬車を操っていた御者くらいだし、護衛の人とかいなくて大丈夫なのかな?



 紗夜は、フィロスパードの意外な一面を感じながらも周囲をキョロキョロと見回した。



「どうした?」



 紗夜のその様子を見たフィロスパードが、気になったのか紗夜に近づいて来た。



「フィロスパード様は、王子様ですよね? 護衛やお付きの方がいらっしゃらなくてもいいのですか?」



 ――立場上必要だよね?



「ああ、それなら影護衛が一人付いている。信頼のおける者だから機会があれば紹介しよう」



 紗夜はフィロスパードに言われても、全くその者がどこにいるのか分からなかった。



 ――おぉ、全然気が付かなかった! 影護衛ってすごい!



 紗夜が密かに感動していると、フィロスパードが紗夜の手を取り自身の口元へと近づける。



「周りを見るのも良いが、せっかくの二人っきりだ」



 紗夜は、その様を目で追う。



「俺も見てくれ」



 フィロスパードは、紗夜の手の甲に口付けるとそのままじっと紗夜を見つめた。



 ――ッ‼︎ ッ‼︎ ッ⁉︎ ッ⁉︎



 二回目だからってその行為になれる訳がない紗夜は、首筋から顔まで真っ赤になった。フィロスパードの輝く瞳に捕らわれた紗夜に逃げ道はない。



「ひゃい……」



 返事は、情けない声しか出なかった。


 それにフィロスパードは、嬉しそうにフッと笑い、そっと紗夜の腰に手を添えた。

 フィロスパードは、自身の行動で起こる紗夜の変化を好ましく思っていた。



 ――彼女のもっと色んな表情を見てみたい……。


「さあ、お嬢様こちらにどうぞ」



 フィロスパードの心の声など聞こえない紗夜は、どぎまぎしながらエスコートを受けて、敷物の上に腰を下ろした。



 ――うー、いちいち行動が絵になるんだよな!



 紗夜は、頬の熱を少しでも冷まそうと片手で顔を扇いだ。

 フィロスパードがバスケットを持ち上げる。



「少し早いがここで昼食にしよう。城から持ってきたんだ。」



 フィロスパードは、紗夜に見えるようにバスケットの蓋を開けた。



「わぁ、美味しそう!」



 バスケットの中には、色んな具材が挟まれたサンドウィッチが数種類と、透明なガラス瓶、同じくガラスのコップが割れないように入っていた。ガラス瓶の中には、綺麗なピンク色の液体が入っている。



「これは、飲み物ですか?」



 紗夜がガラス瓶を指差す。



「ああ、これはモモとイチゴの果実水だ。俺はこれが好きなんだが、サヤは甘いもの平気か?」



 フィロスパードがバスケットからガラス瓶を取り出す。好きと言った時にフィロスパードの瞳が一瞬、少年のように輝いた。



 ――本当に好きなんだなぁ。というかこの世界にもモモとイチゴあるんだ……。



 妖しい雰囲気の輝きばかり目にしていた紗夜には、フィロスパードの少年のようなワクワクとした瞳の輝きは、微笑ましく写った。



「甘いものは、大好きですよ。フィロスパード様のおすすめなら、更に期待出来ますね」


「なら、期待には答えないとな」



 フィロスパードが同じくバスケットから取り出したガラスのコップに果実水を注いで紗夜に渡した。



「さあ、召し上がれ」


「いただきます」



 紗夜が一口飲むと果実独特の優しい甘さが口いっぱいに広がった。ふわりとモモのような香りも合わさって紗夜を楽しませてくれた。



「美味しい! それに冷たい?」



 バスケットに入っていた果実水は、思っていたよりも冷えていた。



 ――保冷剤とかも無いのに……。



「果実水には、冷却魔法が掛けられてるからな。このバスケットにも保存魔法が掛かってるから、サンドウィッチも出来立てのままだぞ」


 フィロスパードは、サンドウィッチをバスケットから皿ごと出すと、手に取って食べて見せた。



 ――そうだった。ここは、魔法使いがいるような世界だった……。



「魔法は、便利ですねぇ。フィロスパード様も何か使えたりするんですか?」



 フィロスパードからサンドウィッチを勧められた紗夜は、一つ手に取る。



「俺は火の精霊の加護を受けているから、主に使えるのは、火に関する魔法だな」



【説明書】やこの国の歴史書によると、この国の人々は、精霊の加護を受けて生きている。人々は、三歳の数えを迎えるまでに自身を加護している精霊のことを知る。

 ある者は指先に火を灯し、ある者は空気中に水球を発生させるなどの事例が記されていた。



 ――知れば知るほど、異世界にいることを痛感させられるな……。



「まあ俺の相棒は、こいつだけどな」



 フィロスパードは、腰元に差している剣に手を添えた。



 王国騎士団副長であるフィロスパードは、剣の名手であり、この国でも随一の腕前であると、ソルラントが自慢げにしていたのを思い出す。



 ――ソルラント兄様でも、なかなか勝つのが難しいって言ってたなあ。



「俺は、この剣で国を民を守れることを誇りに思う」



 フィロスパードは、剣に向けていた眼差しを紗夜へと向けた。キラキラ輝く瞳は、真剣な色を映していた。



「そして俺は、紗夜も守りたい」



 二人の間を風が通り抜けた。





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