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 紗夜は、クレアが選んだドレスを着て、鏡台の前に座っていた。

 クレアが櫛で紗夜の髪を丁寧に溶かし、髪飾りを付ける。金の金具に赤い宝石が付いた髪飾りは、まるで誰かを連想しているようだった。



「完成です、サヤ様! お綺麗ですよ!」



 後ろから更に鏡を構えたクレアが、鏡越しに紗夜と目を合わせた。


 クレアが持つ鏡によって、紗夜にも髪飾りがよく見えた。



「……この色合いは、あからさま過ぎない?」



 ――赤に金色って、まさにフィロスパード様の色じゃない……。



「何をおっしゃいます! これくらいの気合は入れませんと! 何と言っても今日は、サヤ様のデートなのですよ!」



 ――そうなのだ。今日は、フィロスパードと紗夜が二人で出掛ける日なのだ。





 ***


 あの晩餐会の日。

 フィロスパードは後日ミラジュスト家へ正式に申し込むと言い、王城へと帰っていった。


 屋敷へと帰宅する為の馬車に乗っている紗夜とソルラント。



「…………」


「…………」



 ――沈黙が気まずい……。



 紗夜は、俯いたままひたすら自分の手を見つめていた。そうすると今度は、その手を握っていたフィロスパードのことを思い出し頬が熱くなる。



 ――二人で出掛けるって、あの王子様何を考えてるんだろう。会う度に手を握ってきて、いちいち思わせぶりだし……。



 紗夜が悶々と悩んでいると、ソルラントがその空気を破った。



「……サヤ」


「はい!」


「フィロスパードと会うのは、二回目なんだよな?」


「はい、街と今夜の晩餐会で会っただけです」



 紗夜とフィロスパードが会ったのは、街の事件の時と今夜の晩餐会だけだ。それ以外は基本的に紗夜は、外出を禁じられていたから会える訳が無いのだ。



「そうか、二回、二回かあ……」



 先ほどからソルラントも紗夜と同じように俯いている為、彼がどんな表情をしているか紗夜には見えなかった。



「ソルラント兄様?」



 ソルラントがゆっくりと顔を上げた。



「何で、あいつ。あんなにサヤに執着してんの?」


「私が聞きたいです」



 ――本当にね!



 たった二回の邂逅でフィロスパードの中で何があったのか。



「本当に何も心当たりないか? 何かやったとか、言ったとか……」


「そんなこと言われましても……しいて言えば瞳のことでしょうか」



 ――いや、でもあれくらいで……王子様だったら言われ慣れてるでしょう。



 するとソルラントの雰囲気が変わった。目を見開き息を呑んでいる。



「……あいつの瞳のことで、何か言ったのか?」



 不穏な空気が気になったが、紗夜は正直に答えた。



「月のようにキラキラ輝いていて、綺麗だと言いましたけど……」



 紗夜が答えると、空気が変わった。

 ソルラントは、ポカンと口を開けている。



 ――良い男は、口を開けてても様になるのか……。



「……月?」


「はい、月です。綺麗ですよね、初めて会った時なんて思わず見惚れちゃいました」



 ――本当に輝いているんだもん。この世界じゃ珍しくないのかな?



 紗夜がフィロスパードの瞳を思い出していると、ソルラントが脱力したような声を出し、片手を額にあてると天を仰いだ。



「あー、そうか、そういうことか。そりゃあ、執着もするか……」



 紗夜の言葉に納得出来るものがあったのか、ソルラントがしきりにうなづいていた。




 ***


 ――あれから何度尋ねてもソルラントは、明確な答えをくれなかった。



 しまいには、「フィロスパード自身の問題だから、俺から勝手に言うことは出来ない」とソルラントは、締めくくった。



 ――そんな言い方されたら聞ける訳ないじゃない……。



「ソルラント兄様のばーか……」



 紗夜は、ボソリとつぶやいた。



「何か仰いましたか、サヤ様?」



 クレアが不思議そうに首を傾げる。



「ううん、何でもない。ちょっと緊張してただけよ」



 ――本当に、デートなんて生まれて初めてだよ。しかも相手が王子様だなんて! 大丈夫かな⁉︎ 私の一生分の運、ここで使ってたりしない⁉︎



 デートへのドキドキが違うドキドキに変わりそうになった時、外から音が聞こえた。



 窓から外の様子を見ると馬車が屋敷の門を潜ったのが見えた。

 一角の角を持つ、二頭の馬が引く馬車には、王家の紋章が刻まれている。



 ――一角獣! えっ! すごい! 初めて見た!



「あっ! フィロスパード王子がいらっしゃったんですね。サヤ様お出迎えしませんと!」



 窓から一緒に外を確認したクレアが、紗夜を玄関先へと促す。



「はっ! そうね、お待たせする訳には行かないものね!」



 紗夜とクレアが玄関ホールへ行くと、フィロスパードはソルラントと一緒にいた。



「なんで、ここにいるんだソルラント」


「ここは、俺の家だ」



 確かにソルラントが自宅にいること自体は、おかしいことではないが……。



「そうじゃない、仕事はどうした?」



 フィロスパードは、紗夜とデートをする為に休みを取っているが、ソルラントは王城にて執務予定のはずだ。



「見送りだ!」


「仕事に行け」 



 ――コントかな?



 紗夜がタイミングを伺っていると、フィロスパードが紗夜に気付いた。



「サヤ」



 名前を呼ばれただけなのに、紗夜の胸が高鳴った。



「ご機嫌よう、フィロスパード様」



 紗夜は、習ったカーテシーで挨拶をした。


 フィロスパードが近づいてきて、隣に並ぶと紗夜の手を取った。

 もうフィロスパードの中で紗夜の手を取ることは、当然のこととなっていた。



「そのドレス、サヤによく似合ってる。それに……」



 フィロスパードが紗夜の髪飾りに気づいた。手を取っているのとは、反対の手を伸ばし、髪飾りに触れるか触れないかの位置で手を止めた。



「この髪飾り、俺は期待しても良いのか?」



 至近距離でフィロスパードの優しげな笑みを貰った紗夜は、一気に頬を赤く染めた。

 言葉を返そうとしても口からは、空気が漏れるだけだった。

 フィロスパードは、その様子を見てクスリッと笑っていた。



「なあ、クレア。俺達は、何を見せられてるんだろうか……」


「恐れながら申し上げますと、デート前の男女なんてこんなもんでございます」



 ソルラントは、微妙な表情を浮かべ、対照的にクレアは、楽しそうにニコニコと笑っていた。


 フィロスパードがソルラント達に顔を向ける。



「それじゃあ、彼女を借りて行くぞ」


「おー、くれぐれも無理だけは、させないでくれ」


「いってらっしゃいませ」



 フィロスパードにエスコートされながら紗夜は、玄関ホールを出た。紗夜は、慌てて二人に振り返った。



「行ってきます!」





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