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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある村にて

作者: コタツ

僕のおじいちゃんは物知りだ。世界の色んな所を旅してきたし、体験もしてきた。

極端な寒がりで年中マフラーやコート。夏の暑い日でも汗なんて見たことないし写真で見たおじいちゃんは砂漠でも普段と同じ格好。一時期僕の通う小学校で七不思議に数えられるくらいだった。七不思議なんて言っても他に不思議なんてない。さらに言えば今では学校で戦争の語り部をするくらいには認知され、七不思議であったことは過去の話となった。後でその話をしてみたら結構面白がっていた。おじいちゃんは先述のとおり、語り部をやっていて話が上手い。いわく、「人を引き付けるコツは笑顔と話術、親しくするコツは妥協と譲歩だ。」なんて笑いながら話してくれた。

そんなおじいちゃんは僕にいろんなことをきかせてくれた。つまらない話がなかった、とは言えないけど僕はおじいちゃんの話が大好きだ。おとぎ話や豆知識、いままで出会った面白い人や海外での体験、失敗談。そのなかには怖い話もあって小学校で噂されている話とはまた違って特に好きなジャンルだった。その中でも一つ、僕に強烈な衝撃を与え、これからもきっと忘れないであろう話があった。



とある夏の日、数人の友達が家に泊まりにきた日の話だ。皆でゲームをしたり、お菓子を食べたり、ばか騒ぎをして楽しかった。でも僕たちは直ぐに飽きてしまう。別にそんなことはわざわざ泊まらなくても出来るし、いつもやっていたからだ。すると奥からおじいちゃんの声がした。

「風呂あいたぞー、それとも銭湯かどっかに行くかー。」


ふと何かを思いついたような素振りを見せると栄太は面白そうに僕に声を掛けてきた。

「おい“僕”。ちょっと“僕”のじいちゃんに協力してもらってよー。涼しくなろうぜ。」


「おっ、たまにはいいね。面白いといいけど。」


怖がりの藍子ちゃんはとっさに反応する。

「ちょ、ちょっと!まさか怖い話とかそんな話をしてもらうわけじゃないわよね!」


椎名ちゃんもその声に同調する。

「あんまり怖いのは嫌かな…。眠れなくなるのやだし。」


どうでもよさそうな圭一は皆の反応を見ている。

「んー。まあ聞くだけ聞いたらいいんじゃね?」


「わかった。じゃあ声かけてくるよ。」



居間に向かうと風呂上がりだというのに厚着をしているおじいちゃんがいた。


「こんにちは、ちびっ子たち。」


栄太がそれに過敏に反応する。

「こんにちは!でももうちびっこじゃないから!」


「あっはっは。ま、もう少し色んなものを見て深めてこい。」


「おじいちゃん並みに色んなものを見てきた人なんて少ないと思うけど…。」


「年齢が違うってこった。それより風呂だ風呂。」


「あーじいさん。そのまえに栄太と”僕”から提案があるみたいで。」


「その…。迷惑でしたら断わってください…。」


「そうよ!無理しなくてもいいんですから!」


「無理してるのは藍子ちゃんの方でしょ…。まあ話ってのは。」


「なんだ怖い話か。」


「わかる?いや暑いからさ。」


「二人の反応を見たらなぁ。涼しくなる話を、ってか。うーん、じゃあグリーンランドでかき氷を食べながらオーロラ見た話とか…。」


「その話も気になるけど!そういうんじゃなくて!」


「結構面白いんだけどな。ジェイクが霜の上にシロップをこぼしちまってな。なんとそれを…興味なさそうだな。まあいい。望み通りの怖い話をしてやるよ。これは俺の海外の友達から聞いた話だ。」





その男も昔の俺のように世界中を旅していてな。そんなことをしているといつでも屋根がある場所で寝られるわけじゃない。だからといって慣れるはずもなく、命の危機でもない限り少しの恥や恐怖を捨ててでも泊まれる場所を探すもんだ。まあ今回はその選択が恐怖をもたらすんだがな。まあ、しょうがない。先の分かり切った選択肢なんて一本道と変わらないからな。そんなものは人生にはいらないさ。話が逸れたな。


とある農村を訪れたときだ。その村は寂れていたが排他的な空気はなく、むしろ珍しい旅人を歓迎する雰囲気だった。ちょうど何かの祭りが行われていたのか機嫌のよかった住人たちから話をせがまれたりご飯をもらったりとなかなか良い雰囲気。しかし、どうも都合が合わなかったのか、誰も泊めてはくれなかった。しょうがない。村から少し離れた位置を借りて野宿でもさせてもらおう。そう思い歩き出す。すると遠くにポツンと一つの小屋が見えた。小高い丘の上にある怪しい雰囲気だったが明かりが点いていることがわかる。どうやら誰か住んでいるようだ。ダメ元で話を聞いてもらおう。そう考えた男はその小屋を目指して歩き出した。


向かう道には墓地が連なりいかにもな雰囲気。蒸し暑く感じた村の熱気とは異なる少しひんやりとした空気はその男にとっては恐怖より先にありがたみを感じるものだった。


辿り着いたころには汗はすっかり引いており目の前には思ったよりきれいな小屋があった。


「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」


男の呼びかけに応じてギィと音を立てながら現れたのは腰の曲がった老父。

顔はしわくちゃで髪は白くボサボサ。眉は髪と同じように整っておらず、鼻はひん曲がっていた。唇はガサガサにひび割れておりなによりも特徴的な目に至ってはまるで命を失った人のように光が失われていた。


「おやおや、こんなところに住むこんな老いぼれに何の用です?旅の人。」


見た目とは異なり、優しそうな声色と表情。警戒を少し解いた男は老父に事情を話し一晩泊めてもらえないか尋ねてみた。

「すみません。泊まれる場所を探してるんですけど見つからなくて。どこでもいいので一晩寝られる場所を貸してもらってもいいですか?」


「私は長く一人暮らしをしていたので誰かが泊まれるような場所も準備もありません。納屋でよろしければお貸し出来ますがどうでしょうか?」


正直良い答えが返ってくるとは思っていなかった男はその言葉に喜んだ。

「いえ!十分ありがたいです。どうもすみません。」


さっそく納屋を見せてもらうことにした。中は整理されていたからか外見よりも広く感じた。しかし、妙な圧迫感を覚えた。その原因は隅にある大きな棺桶だとすぐにわかる。

「助かります。ところであの棺桶は…。」


「入ってるわけないじゃないですか。私は葬儀屋をしているので。いわば仕事道具です。」


「あ、ああ!そうだったんですか。道理で墓が近くにあるんですね。」


「まあそんなところです。それでは夜も更けてきたので今日のところは。」


「はい。お世話になります。おやすみなさい。」


バンッ!


と勢いがついていたのか大きな音を立てて閉められる。



納屋の中は月明かりが入り込んでいるが明かりもないため手元しか見えない。そのはずなのにそこに棺桶があることはわかる。

「…」


仕事道具に使っているということは…だ。あの棺桶にも誰かが入る予定らしい。まるで導かれるように自分から近づいて行った。やけに威圧感のある意匠だった。みすぼらしいが確かに力強いその棺桶には重そうな蓋がのっており中は見えない。蓋に手を伸ばしてみると中から物のこすれる音がする。まるで何か硬いものを齧るような音である。


一つ呼吸をして開けるか考える。様々な考えがよぎるがその後の行動を決めた最大の理由は男の好奇心だった。多くのおぞましい想像をしながらもゆっくりと開けてみると


……

………何も入っていない。それではさっきの音はなんだったのか。


蓋を閉めようとしたとき中から何かが飛び出してくる!

「チュー」


可愛らしい声をあげたその生き物は咥えていた何かを落としながらどこかへ消えて行った。

「…はは。驚かせないでくれよ。」


独り言をこぼしながら何とはなしに落としたものを拾い上げる。



…思っていたより硬かったそれは紫色に変色した人の爪だった。


落としそうになりながらも雑にそれを投げ入れると力いっぱい蓋を閉める。

出来るだけ離れて寝られるようにするため棺桶とは反対の位置で、かき集めた布の上に靴を脱いで寝転がる。


どういうことだ?あの棺桶はもう使われていたのか?もしそうだとして普通そんなものがある場所に人を通すか?というか使われたとしてその中にあった死体はどこにあるんだ?その男は考えを巡らせながらも疲れからかいつの間にか眠りについていた。


…え?普通そんなことがあったら一目散に逃げださないか、って?そうだな、その通りだ。まあその男は馬鹿だったんだよ。もしかしたら何かの意思が働いていたかもしれないがね。



首に妙なかゆみを感じた男は目覚める。辺りは先ほどより更に暗くなっており月明かりなんて一切見えなかった。それもそのはずだ。


…男は棺桶の中に入っていたのだから。

驚いて体をよじっても動けない。だが人間危機的な状況に陥ると思いがけない力を発揮できるらしい。声を出しながら勢いよく蓋を押し出すとあっけなく蓋は空いた。

男に何かを考える力はなく恐怖だけが体を支配していた。一刻も早くここから逃げ出したい。重い体を起こし扉まで駆け寄る。扉を開けたときふと棺桶の方を振り返る。振り返ってしまった。振り返させられた。


あいも変わらず暗闇の中でもそれははっきりと見えた。半開きの蓋から飛び出している細いもの。それは肉が崩れ落ちた人の腕だった。


悲鳴とともに駆け出した男は荷物も持たないまま全力で走り出した。遠くに見える村は青白い炎がともっていた…。





無事に逃げ出すことが出来たその男は後でその村について調べてみた。あの葬儀屋の男のことも棺桶から飛び出したおぞましいもののこともわからないが一つわかったことがあった。どうやらあの村には年に一回、死者の魂が返ってくるといわれる日があり、それを祝う祭りがあるそうだ。もしかしたらその場にいることが不自然だったのは死者ではなくよそ者の男だったのかもしれない。自分の考えを整理した男は何とはなしに首に手を当てた。


その首には爪でひっかかれたようなミミズ腫れがあった。






「その傷は未だに消えることはなく、何か不思議な体験をしたときは血が滲みだすらしい…。ホイッ、これで話は終わりだ。まあこの話の教訓としては危険なものには近づかない、ってところだなどうだ?適度に冷えたか?」


黙り込んだ僕たちの中で最初に声を上げたのはやはり栄太だった。


「いやー。怖かったー。なあ”僕”。」


「そうだね。」


「べ、別に怖くなんてないわ!」


「あいちゃん…。鳥肌立ってる。」


徐々にワイワイしだした僕たちをまた静かにしたのは圭一の発言だった。

「おい、じいさん。ちょっとマフラーとってみてくれよ。」


「は?」


なるほど。圭一は疑っているようだ。この話はおじいちゃんの友達の話ではなくおじいちゃん自身の話だと。

「ちょっとやめてよね!しいちゃん怖がるでしょ!」


そう声を荒げる藍子ちゃんは小刻みに震えている。

「後悔しないか?」


返したおじいちゃんの声は普段より低い。誰かの唾を飲む音がした。

「やっぱり待っ…」


おじいちゃんは静止の声を聞かずにマフラーを外してしまう。

そこにあったのは…



深いしわの刻まれた少し細い首だった。もちろん傷なんて見当たらない。

「おいおい。折角雰囲気出来上がってたのに台無しじゃないか。」


おじいちゃんの声にみんなの安堵のため息が漏れた。



「そういえば“僕”は俺の話だとは思わなかったのかい?」

皆で銭湯に向かうとき集団から少し遅れた位置で僕に話しかけてきた。おそらくこの会話は誰にも聞かれてないだろう。


「だってその旅人さんは暑く感じたんでしょ?じゃあおじいちゃんなわけないじゃん。」


「よく聞いてたなぁ”僕”は。その通り。男は暑くて正常な判断が出来てなかったのかもなー。」


「でもまるで体験したかのような語りだったね。」


おじいちゃんは僕の声が聞こえてないのか。ぶつぶつ何かを言っている。

「あのときはまだ…覚があったなぁ。」


「え?なんて?」


「いや、おじいちゃんもまだまだだなって。さ、着いたぞ。」


そういうとおじいちゃんは銭湯に入っていった。



これが僕の聞いた話で特に印象に残ってる話。






…確かにおじいちゃんの”首”に傷はない。でも僕は知っている。


おじいちゃんの爪は紫色で”手首”にはまるで何かにひっかかれたかのような黒ずんだミミズ腫れが三本ある、ということを。


感想、評価等をしてもらえると嬉しいです。

活動報告にて解説等載せておきます。少しでも興味をもっていただければ読んでみてください。

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