悪魔
「……まだ生きていたのか」
歩み寄る俺を見てアキトが驚きの表情を見せた。
「まあな」
剣を抜いて構える。
――斬撃ッ!!
文字通り神速で煌めいた俺の剣。
光すら置き去りにしたそれが荒れ狂う。
十、二十、三十。
まさしく嵐の如きそれは、なんて事もなく全部避けられた。
「貴様!! なんだこの速度は――ッ」
「いやお前もな?」
アキトに返す。
コイツ見て反応してるんじゃねぇな。
だって剣を動かして、その映像が光としてあいつの目に届くよりも俺の剣速は早かったし。
一撃目の攻撃が彼の目に映る頃には三撃目を放っているはずだ。
なのに平然と回避してやがる。
化物かな。
そりゃあこのスキルを使わなきゃ手も足も出ない筈だ。
――スキル『神』
身体能力が神と同レベルになるスキル。
なぜこの世界にそんなスキルが存在するのか。アホなのか。
それは世界創造直後にまで遡る。
作り上げた世界を直に見たい神。
しかし神は人間界に直接関与できない。
だから、一時的に肉体を人間と同じ物に変換して人間界に降り立った。
その時に使用したスキルらしい。
テストプレイ用の無敵モードみたいな物だと言ってた。
因みにそのスキルを作った神は厳罰に処分され今は下っ端としてコマ使いにされている。
そりゃそうだ。
神の力は強大すぎるから直接関与できないのに神と同じ力を得るスキルを作りましたとかなんの意味もない。
まぁあのぺったんの事なんだが。
「まだままだ行くぜッ!?」
先程より速度をあげて斬りかかる。
流石に避けきれなかったのかその黒い腕で剣を受けた。
悪魔の肌というのは非常に硬いらしい。刃は通らず弾かれた。
そしてこの世の終わりかと思う程の衝撃音が鳴り響く。
音の振動で地面がひび割れ、吹き飛んだ小石が空気との摩擦で燃え尽きた。
いや痛い。
めっちゃ小石飛んでくる。
燃え尽きかけのがビシビシと根性焼きみたいな跡を俺の肌に作っていた。
「――グッ……ガアアァァァッ!!」
腕を振り切り、相対していた剣ごと俺を吹き飛ばしたアキト。
「っと」
俺は空中で体制を整えて着地し、ぺったんの言葉を思い出していた。
――「いいですか? あの悪魔もどきはいうならばまだ幼体。成熟しきっていた魔王や邪神に比べると未熟でつけ入る隙があるはず」
嘘でしょ?
これで?
魔王とか邪神ってマジでやばくね?
っと。
考えしている場合じゃなかった。
――「時間が経てば経つほど悪魔もどきは成長するはずです。今はレベル1の状態、すぐにレベルアップして強くなります」
「だから短期決戦で仕留めるんだっけなァ!!」
先程よりもっと早く――全力で剣を振った。
「――ガ」
奴は反応できない。
切断には至らなかったが浅くない切り傷をその黒い体に作った。
「今度こそ終わりだな」
剣先を倒れ込んだ彼の首元へ向ける。
またエレミヤが邪魔してくるかな? と思い彼女の方を見てみると泡吹いて気絶していた。
骨折がそんなに痛かったのかな……?
そういや静かだなとランガリーの方を見る。
え……? 死んでる……?
ぺたんと可愛らしく倒れ込むくまさん人形。
あ、いや、微かに動いてる。
多分衝撃波にやられて瀕死なだけだろう。
無事で良かった。
「……れは……俺になりたい……」
「まだ言ってんのか」
アキトは悔しそうに顔をしかめると俺に視線を向ける。
「俺の生まれ育ったスペリウム=バーン家は選民意識の高い家だった……」
「あ? 聞いてねえよ」
「そこで教えられたよ。スペリウム=バーン家こそ選ばれし一族なのだと」
聞いてねえっつってんだろ。
「あっそう」
「だがッ!!」
急に立ち上がった悪魔が腕を振るってきた。
その爪先は恐らく下手な聖剣より切れるのだろう。
――しかし。ノーガードの俺に傷一つつけられない。
何回も引っ掻いてくるが無駄なのだ。
ステータスが違う。
「クソっクソックソ!!」
何度も何度も何度も何度も。
大きな声をあげながら攻撃を繰り返すアキト。
「……」
「現実は違った!! スペリウム=バーンがなんだ!! 貴族がなんだ!! 人に優劣などありはしなかった!!」
「……」
「下等な人間などいるものか!! 上等な人間など存在するものか!!」
「……」
黒い肌に、一粒の輝きが見えた。
涙だろう。
彼は涙を流しながら、まるでゴネる子供のように攻撃を続ける。
俺はその攻撃を、叫びを、黙って受け続けた。
「しかし植え付けられたこの価値観は俺を蝕んだ!! 植え付けられたスペリウム=バーンが本当の俺なのか!! それを否定する俺が本物なのか……っ!!」
「……」
俺の体を襲っていた衝撃が止む。
目の前のこの悪魔は攻撃をやめて、膝をついてただひたすらに嘆いていた。
いや、もしかしたら苦しんでいたのかもしれない。
「わからないんだ……っ。どちらも本音なんだ……。他の人間を下等な生き物だと思うのも……等しく同じ人間だと思うのも……同じく俺の本音なんだよ……っ」
「……おう」
何かがこみ上げてくるのを感じた。
胸の奥からこみ上げてくるこれはなんだろうか。
「お前に……お前に俺のこの苦しみがわかるか!?」
――限界。
「知るかバアァァァァァァァカ――ッ!!!」
蹴りやすい位置にあった彼の頭を思い切り蹴り飛ばした。
聞こえちゃいけない肉体の損傷音を響かせながら黒い線となってとんでいく。
―あぁ。わかった。
俺、イライラしてたんだ。
興味もない話を散々聞かされてイライラしてたんだ――ッ!




