ぺったんこ
「お久しぶりです」
「あん?」
俺は真っ白な空間にいた。
目の前には見知らぬ女の子――じゃねえな。
女神様だ。
ユニークなぺったん様だ。
「え、もしかして俺瞬殺された?」
アラクネに殺された時の事を思い出す。
あのときもこうやって気付いたらここにいた。
確かにあの黒い姿のアキトは強そうだなーって思ったけどよ。
「あ、いえ。死んでませんよ。というか天界の取り決めで次に貴方が死んだ場合、輪廻転生の権利を剥奪し、魂を消滅させる事が正式に決まりました。だから貴方が死んでも私は本当に何もできなくなったんです」
「じゃあなんでこんな所に?」
一体なんのつもりだろうか。
寂しいのかな?
「安心してください。ここでどれだけ私と話しても現実世界で時間がすすんでいるなんて事はありませんから」
「おう。いいから用件をさっさと言えよぺったんこ」
「……貴方、だいぶ人間が変わりましたね……? まぁいいですけど……。あっ」
「ん?」
驚いた顔を見せる女神に俺は何があったと視線で問いかけた。
「凄い……。深層心理の奥の奥は全然変わってない……。おっぱいおっぱい囁いてる……」
「いいから用件を早くして!?!?」
そんな俺の知らない俺の話はいいんだよ!!
新しい扉なんて開けたくはないのだ。
身近に変な扉を開けてしまったおばさんがいるからね……。
あぁはなりたくない。
あまりに不憫だ。
「現在、貴方の目の前に変な奴がいますね?」
「いるな」
ぺったんこなのが。
「……私じゃないです。あの悪魔もどきです」
「あぁ。いたな」
現実世界での話かよ。
あれやっぱ悪魔なのか。
見た目で主張しすぎだろ。
「あれを倒してください。そうしたらご褒美をあげましょう」
「あーぁ。倒すつもりだったんだけどなぁ……。そうやってご褒美とか言われるとなぁぁぁぁ。こき使われてる感じがしてやる気なくなるなああぁぁぁ」
「……」
「まあ、倒すよ。けどご褒美はいらない。なんかうざい」
「……本当に変わりましたね貴方」
「因みに、なんで倒すの? 理由は?」
俺の言葉に、女神はうーんと天を仰いだ。
説明する為に言葉を整理しているのだろう。
早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ。
と頭の中で念じ続ける。
目の前の彼女は心が読めるから、きっと伝わっている事だろう。
その証拠に眉を歪めていた。
おう。いいから早くしろ。
「……彼は神にあまりにも近づき過ぎました。だから処分しなければなりません」
「へー。お前がやれや」
「……神は人間界に直接関与できません……。だから、魔王や邪神と言った存在が現れた際には勇者として異世界人を召喚したりするのですが……」
「すれば?」
「めんどくさいのです」
「……」
「だって!! ぶっちゃけ!? 私からすれば!? 人間界のパワーバランスとかどうでもいいし!? けど上司のクソジジイがウルサイし!? 丁度近くに貴方がいるからそれでいいやって思って!!」
逆ギレ。
文句ありますか?
と開き直る彼女は本当に女神だろうか。
実は偽物ではないだろうか。
「俺が言うのもアレだがもう少し女神らしくだな……」
猫でも被れよ。
「私は人の子の心が読めてしまいます。だから人の子の前では私も本音を全部曝け出そうって決めてるんですよ」
ふふっ。
と優しげな顔で微笑んだ。
「あっそう」
どうでもいい。
「え、なんでそんな本心からどうでもいいって思ってるんですか!? 見直す所じゃないんですか!?」
いやだってどうでもいいし……。
あれ。
いやちょっと待て。
「お前今邪神討伐に異世界人を召喚するって言ったか?」
「おーけーです。貴方の疑問はわかりました。はい、貴方のお父さんは異世界から召喚した勇者ですよ。邪神を討伐した際のご褒美として現代日本への帰還を希望していましたねー」
「ほへー」
心読むのって便利だなーと感心した。
ちゃんと全部伝わっているようだ。
「ちゃんとわかってますか? 今回の敵は魔王や邪神と同じレベルだと言いたいんですよ?」
「けど俺で倒せるレベルっしょ? だから頼んだんじゃねえの?」
「いや? 今の貴方じゃ手も足もでませんよ?」
当たり前でしょ?
神に近い存在なんですよ?
と、女神は小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
「……」
じゃあなぜ頼んだのか。
「貴方には、この戦い限定して一つのスキルを授けます。そのスキルを使って――」
「はいやめたあああああ!! はい戦わなーい!! 俺逃げまーす!! はい残念でしたー」
「ええええぇぇぇ!?!?」
うるせえんだよ。
大声あげるんじゃねえ。
だって当たり前だろ。
放置したらアイレットがうざそうだからこの問題に首突っ込んでるとこあるし……。
アイレットよりうざい問題が発生したなら逃げるよ?
そんな化物の相手をするならヒステリーおばさんの相手したほうがまだいい。
「お願いしますよぉ……。神を助けると思ってぇ……!!」
「神とか言われても……。俺死んだら魂消滅するんでしょ? なんか一方的に輪廻転生の権利を剥奪したとか言ってるんでしょ? はい無理ー。そんな奴らの為には戦いたくないですー」
「か、神じゃなくて私を助けると思ってぇぇぇ!!」
「そんな奴らの為には戦いたくないですー」
「なんでえええええぇぇぇぇ!!!」
うっせえな。
嫌な事はやらない。
好きに生きる。
俺はそう決めたの。
神とか知らない。
俺の邪魔をするなら神だって敵だ。
「輪廻転生の権利は剥奪はこれでも頑張ったんですよ……」
「あん?」
「貴方がユウイチロウの息子だって知った私より偉い神々が、今すぐ魂を消滅させるべきだとか言い出してぇ……!! 私頑張ったんですよ!! 凄く頑張ったんですよ!? せめて、せめてあと一回死ぬまでは……って!! 滅茶苦茶頑張ったの!!」
目の前の女神は、私のせいじゃないのおおお。と言いながら拗ねたように泣き叫んでいた。
鼻水が散ってくる。
汚いし臭かった。
「えっと……。え? なんで親父の息子だとそんなんの?」
「貴方のお父さん……昔色々あって、「俺の仲間を悪だと言うのなら……。神だって敵だ」って言って神を四人ほど消しちゃってるんですよぉぉぉ!!」
「えぇ……」
何があったのか。
親父は何をやってるんだ。
「なんかアイレットとかいう女の子助けてたんですよおぉぉぉ!!」
「お、おう……」
おばさん……。
この話は後でアイレットに詳しく聞こう。
「貴方が戦ってくれないと……私怒られるのおおお! また陰口叩かれちゃうのおおお!! 今度こそ首になっちゃうのおおぉ!!」
「わ、わかったよ。けど、神の為に戦うんじゃなくてお前の為に戦うんだからな? 一応お礼として」
なんか知らない所で命の危機迎えてたみたいだしな俺。
後なんか可愛そうだし……。
そんな俺の言葉に、笑顔を作りぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ彼女。
「やった!! やったやった!! じゃ、じゃあ――」
「その代わりやっぱりご褒美をくれよ」
「? いいですよ? というか貴方がいらないって言っても相応の何かを押し付けようと思ってましたし。何が欲しいですか?」
「あぁ。一つ、教えて欲しい事があるんだ」
――
「ぶべら――ッ!!!!」
俺は吹き飛んだ。
きりもみ回転しながら空中を舞う。
地面にぶつかり、なおもゴロゴロと回転した。
え?
何痛い。
女神と別れて現実世界に戻ってきたと思ったらいきなりこれである。
どんな状況だろうか。
「アカキ君――!?」
アイレットが心配してこちらに寄ってこようとするが、すぐアキトに襲われ断念。
ボトリクと二人で悪魔の攻撃を凌いでいた。
どうやら俺は殴られたらしいな。
攻撃をくらう寸前に女神の所へ行き、戻ってきてすぐ殴られたらしい。
タイミングをさぁ……。
もっと考えようよ。
「ぼーちゃん!?」
俺と同じように攻撃を受けたボトリクがピンポン玉みたいに吹っ飛ぶ。
血を撒き散らしながら宙を舞うその様は、まるでネズミ花火のようだった。
立ちあがる気配がない。完全に意識失っているようだ。
一人になったアイレットも次第に圧され、これまた同じように吹き飛んだ。
「ぁ……っ……ぐ……っ……」
俺の横へ吹き飛んできた彼女は、ボトリクとは違い意識は残っている。
「無理すんな。あとは任せとけ」
無理に立ち上がろうとしていた彼女に言いながら俺はアキトから庇うようにその前に立った。
後で親父の話を聞きたいからな。死なれても困る。
しかし、凄いな。
この二人が瞬殺じゃねえか。
おまけに一撃でダウン。
同じく攻撃を受けた筈なのにそこまでのダメージが俺に無いのは、女神から限定的に渡されたこのスキルのおかげか。
「さーて!! 悪魔退治と行きますか」
言って俺は、目の前の悪魔を睨みつけた。




