まって!
「き、君! アカキ君だっけ? 凄いじゃないか!! 俺より強いよ君!!」
ボトリクが驚いた声をあげる。
照れくさくなった俺は小さく呟いて返した。
「どうも」
俺、アイレット、そして動きの鈍いボトリクが三人でアキトに斬り掛かる。
流石に三人相手はキツイらしく、時間経過と共に彼の体には浅い切創が刻まれていく。
ランガリー、あいつは駄目だ。
まずウォーターボールしか使えない。
生前は色々使えたようだが、人形じゃそれが限界らしい。
ファイアボールの水属性版。
勿論使い手によっては強いのだが、ランガリーの放つそれはまだ改造エアーガンの方が火力を持っている。
つまり使えない。
エレミアはなんか固まってる。
下手に刺激すると俺たちを攻撃してきそうなので放置。
はっきり言って邪魔。
「ちっ……鬱陶しい!!」
アキトが剣を横凪に振るう。
それをボトリクが受け止め、アイレットが反撃。
回避し、態勢を崩したアキトの背中に叩き込まれたのは俺の一閃。
(――硬ぇ!!)
切断する勢いで振り抜いたが、肉を切り裂く程度で止まった。
防御系スキルも持ってるらしい。
じゃなきゃ俺の一撃が骨にすら届かないとかありえないし。
「お前何個スキル持ってんの?」
骨に届かなかったとはいえ、浅くはない傷を追った敵を見ながら口を開く。
アキトを挟むようにして俺、そしてボトリクとアイレットが隣り合って剣を構えていた。
「教えると思うか?」
「九つだよ! アカキ!!」
ランガリーが答えてくれた。
「なんであんたが知ってんの」
「スペリウム家のスキルは一部界隈で有名だからね。正確にいえば使えるスキルは一つだけ、名前は知らないけどその効果はスキルのコピー! 九つまでストックできるんだ!」
「は? ふざけんな」
チートじゃねえか。
「……『高貴なる者』だ。スキル名はな」
効果を知られたからどうでもよくなったのか、彼が名前を言う。
「あっそ! バカみたいな名前だなぁ!? けどスペリウムさんにはピッタリですねえ!?」
それを小馬鹿にしながら斬り掛かる。
「同感だ――ッ!!」
「あん?」
数度剣をぶつけ合い再び距離をとった。
プライドの高そうなこいつの事だから激怒するかと思ったけどそうでもないのか……?
張り合いないな。
俺がただの嫌な奴みたいじゃないか。
「俺がただの嫌なやつみたいじゃねぇか!」
思わず口に出ていた。
「大丈夫、そんな君も大好きだよ。……ユウイチロウっ」
とアイレットが囁き返してくれた。
嬉しくないし俺は親父じゃないしなんなら気持ち悪い。
俺の言葉を無視して放たれた水球がアキトを襲う。
「ウォーターボール!!」
くまの小さな手から繰り出されるその魔法。
しかしアキトは避けるでもなくそのまま喰らった。
ぴちゃんと可愛らしい音が聞こえて水が霧散する。
「うっ……ぐ……」
そして彼は膝をついてしまった。
苦しそうに肩で息をしていた。
恐らくではあるが、魔法が効いたわけでは無いだろう。
あんなのただの水鉄砲だ。
そんな水鉄砲すら避ける余裕がなく、何もしなくても立てないくらい限界だったってだけの話だと思う。
「終わり、だな」
剣先を向けた。
あとはトドメを指すだけ。
「まっ――」
「うるせぇ!!」
予想通り割って入ろうとしたエレミアを思い切り蹴り飛ばした。
絶対くると思った。
確実に邪魔してくると思った。
横腹を蹴り飛ばされた彼女はそのまま勢いよく吹き飛び屋上の柵にぶつかって止まった。
軽快な音が何回か聞こえた。
骨が折れたのだろうか。
「あ……っ……ぐ……っ……あ……」
苦しそうに嗚咽を漏らしている。
まあそれはどうでもいい。
「言い残す事は?」
アキトへ視線を向けた。
「俺は……誰だ?」
「あ? アキト=スペリウム=バーンじゃねえの?」
「そうだな……。スペリウム=バーンだ……。」
「……?」
「俺はスペリウム=バーンではなく……俺になる……俺になりたいんだ……ッ!!」
「いや知らねえよ……」
そんな話しされても……。
勝手になってろよとしか……。
「だからこそ――黙示録を再現するッ!!!」
「――ッ!?」
アキトを中心にして円形に吹き荒れた魔力の渦。
それから逃げるように距離をとった俺たちは顔を見合わせる。
「な、何だよあれは……」
凄え魔力量じゃねえか。
触れたらかなりのダメージを喰らいそうだ。
「てりゃぁ!!」
アイレットが年齢を考えていない声をあげ剣を投擲した。
魔力渦に触れた瞬間鉄屑になったそれを見て思わず頬が引き攣った。
「ランガリー!! あれなんとかできないのか!? 学院長だろ!?」
凄いんだろ?
「生前の私ならできたけど!! 今は無理!! というか溢れ出てきてる魔力の余波で死にそう!!!」
言われてみれば肌がピリピリすんな。
「俺の体を捧げ魔法を行使した際――魔法の発動と俺の魂の消滅、どちら早いのか検討がつかなかった。だから高魔力を宿した肉体を欲したのだ」
「うるせえ!! わけわかんねえ事言ってんじゃねえぞ!!」
嫌がらせにしかならないだろうか小石を拾って投げまくる。
「わからないか――。高魔力の肉体――俺の体を媒体とし魔法を完成させたと言っているんだ!!!」
彼の足元から出現した黒い何かが渦ごと彼を取り込んだ。
「ランガリー!! なんだあの魔法は!!」
学院長だろ?
凄いんだろ?
「わからない!!!」
使えねぇ。
このくまなんの役にもたってねぇ。
辺りが薄暗くなり、音が消えた。
まるで光や音が目の前の黒い何か、闇のようにも見えるそれに吸い込まれているみたいだった。
ガガガガカガ。
地鳴りと共に地面が揺れた。
「グッ――」
かなり大きい。
立っていられなくなった俺達は思わずしゃがみ込んだ。
「よくわかんないけど不味い!!」
言いながらウォーターボールを放つランガリー。
勿論効いていない。
それに習うようにボトリクがサンダーショット(雷属性の中級魔法)を放つがそれも効果なかった。
まるで吸い込まれるように消えてしまうのだ。
やがて耐えきれなくなった建物が崩壊し、俺達はそれに巻き込まれながら地面へと落下した。
瓦礫の落ちるけたたましい音もそうだが、何より土煙が凄い。
他の人間が見えない。
とりあえず俺は無事だ。
アイレットとボトリクは大丈夫だろうけど、ランガリーとエレミアはどうだろうか。
瓦礫の下敷きになって死んではいないだろうか。
ちなみにナーリンとピンクルの待機している校舎は別館なので問題ない。
土煙が晴れるのを待つのも面倒くさかったので剣を思い切り振った。
扇ぐように振ったため少しだけ煙が晴れる。
触れば鉄すら簡単に切り裂く勢いで数度振ると、視界が確保できる程度には薄れてくれた。
「無事かい?」
そこにはエレミアをお姫様だっこしているボトリクと
「無事だね?」
ランガリーの片足を掴んでぶら下げているアイレットの姿があった。
皆生きてるみたいだ。
「――どうやら魔法の発動の方がはやかったみたいだな……。魂の消滅より早く、この肉体を手に入れる事ができた」
「――」
あれはなんだろうか。
例えるとするならば、それは――
「黙示録を!! 俺は再現する……ッ!!」
「――悪魔かよ」
俺たちの目の前に立つ巨体を見て独りごちた。
三メートルは超えるサイズ。
何より目をひくのはその風貌だ。
なんの素材かは知らないが全身が光を一切反射する事なく真っ黒に染まっていた。
腕は異常に太く胴体は異常に細い。
手足の爪も鋭利で長く、そして尻尾。
引き裂けた口を歪めて笑うそれを見ながら俺は思わず息を呑んだ。
「ふざけんなよ……」
見るからに強そうじゃねえか。




