勝てないよん
「ランガリー……? って、学院長ですか!?」
エレミアが驚いた声を上げる。
だからうるさいんだって。
このくま学院長なのか。
異世界って凄いんだなー。と小学生みたいな感想を抱いていた。
「どうしたのその姿」
「イメチェン」
「に、似合ってると思う」
「冗談だから気を使わなくていいよん」
アイレットとくまが喋っている。
「あのくまって魔物なの?」
ふと気になってエレミアに尋ねた。
「に、人間なはずです。学院長は見た目も、多分中身も人間なので……。恐らくは変身魔法か何かかと……」
「へー」
なんだよ。本物のくまじゃないのか。
つまんねえ。
異世界すごくないじゃん。
「それはちょっと違うなー。私変身魔法使えないし」
俺達の話に割って入って来たくま(人間)は「ちっちっちっ」と舌を鳴らしてから言葉を続ける。
「肉体がアキトに殺されちゃったから魂だけこのくまの人形に憑依したんだー。それだけっ」
「――」
「あの子凄いよ? 細かな魔力操作なら私の方が勝ってるけど、魔法の威力に関しては完全に私を超えてる」
まあ驚かない。
学院長っていうんだから凄まじい腕をしているのはわかる。
けどそれを超えていると言われても今更驚かない。
アイレットだって俺だってこの世界ならかなりの手練だし、それを軽くあしらって見せた男だ。今更である。
「で? 下に行くなってのはどうしてだ? 倒さないと事態は改善されないだろ?」
俺が口を開く。
「倒せないから、かな」
「ぼーちゃんが近くにいるから連れてくるつもり」
くまの言葉にアイレットが答えた。
「それでも、かな。世界が生み出した災いが魔王だというのなら、人間が生み出した災いこそが彼――アキト=スペリウム=バーンだ」
ちょっと何言ってるかわからない。
「どういう意味だよ?」
「私もまさかスペリウム家がここまで歪んでしまっていたとは……」
「いや説明しろや」
一人でブツブツ言うなよ。
やっぱアイレットの類友じゃん。
「スペリウム家は――」
やっと説明してくれるらしい。
真剣な顔でこちらを向いたくま――いやランガリー。
「どー、ん!!!」
壁が破壊される音と擬音を模したのであろうバカみたいな人の声。
破壊された壁の破片が顔に当たる。
痛い。
何だよ?
あ?
説明を妨げられたことに苛つきを感じながらスキルを発動した。
敵なら容赦なくぶちのめそう。
「もう……むり……たすけ……っ。あの技は……一日なんはつも……っうつものでは……ぁっ」
舞い上がる土煙でよく見えないが、壊れた壁の所に誰かがいるのはわかった。
情けない男の声と
「わたし、さん、じょう!」
テンションの高い幼女の声。
「ナーリン……」
声で確信した。
男引き連れて何やってんの……。
煙が晴れてその男がボトリクだとわかり尚更困惑した。
ナーリンが脇に抱えているのだ。
マジで何やってんだよ……。
ふと気になり自分の顔を全力で殴った。
「えぇ……」
エレミアの困ったような声が聞こえたがどうでもいいので無視。
うん。
スキルは強化されていない。
見た感じこの壁はナーリンが蹴り壊したみたいだから、最初会ったときみたいに魔物化してんのかな? って思ったけどそうでもないみたい。
素の力でこれらしい。
たくましいなぁ……この娘。
「し……っ……しぬっ……ふひっ……はぁっ……グッ……!?」
「うる、さい」
苦悶の表情を浮かべているボトリクを地面へと放り投げるナーリン。
俺はアイレットへと視線を向けた。
わけがわからない。
誰かこの状況を説明してほしい。
「え、えっと……。私もよくわからないんだけど……。多分、ナーリンはぼーちゃんに結界を破ってもらったのかなって」
「へぇ」
「私もぼーちゃんに破ってもらったの……。けどその技って連発する物じゃないから……それで苦しんでるのかな……?」
「ナーリン……」
お前そんな人を放り投げるなよ……。
「ぼーちゃん……おつかれさま」
這いつくばって肩を上下させるボトリクの元へアイレットが向かう。
「しっかし、この人に頼めば結界を破ってもらえるってよく知ってたなお前」
俺はナーリンの方へ行った。
「? しら、ない」
「へ?」
じゃあなんでこの人ボトリク連れて来たのん。
一緒にいたのん。
「この娘……ずっと……っ……結界を殴り続けてて……っ……終いには泣き始めるから……っそれで……っ」
俺の疑問にボトリクが絞り出すように答えてくれた。
なるほど。
それでみかねて連れてきてくれたのか。
「ナーリン……」
お前マジでそんな人放り投げるなよ……。
「だっ、て、だっ、て」
そんな俺の視線に涙目になる。
……そうだな。
よく考えたらこんな小さな女の子だもんな……。
寂しかったんだよな……。
一人にして悪かったよ……。
「悪かった。ナーリン」
「かね、なくなっ、たから、もう、めしくえないって、でていけ、って、おみせの、ひと」
「ん?」
くしゃっと、ナーリンは満面の笑みを作った。
「ついか、で、おかね、ちょうだい」
え……?
あのお金全部使ったの?
この娘ちょっとヤバくない?
――
くだらない、下等、蔑み、優越。
それが日常。
世の人間は全て下等種。
洗練された我々の足元にも及ばない下賤な存在。
それは非常識。
世界からみれば一方的でなんとも差別的な思想。
――使用人を気まぐれに殺す。
――領民を気まぐれに犯す。
――気まぐれにその尊厳を陵辱する。
その全てが許される。
なぜなら我々は特別だから。
そんな思考。
彼等にとってそれは常識だった。
そんな思想を抱いているその一族の家名を――スペリウム=バーン家といい、次期当主の名前を――アキト=スペリウム=バーンといった。




