村の少年少女
昔々、魔王と呼ばれる存在がいました。
膨大な魔力を持った魔王は、その魔力を使い魔物を作りました。
作った魔物をつかい世界を征服しようとしていたところ、勇者が現れそれを防ぎました。
魔王は倒されましたが、死体は見つかっていません。
何処かにあるといわれる魔王の死体から、死後も尚漏れ出る魔力によって、今現在、魔物は生まれているのです。
「というわけなんですよ」
絵本を読み終わった少年が、目をキラキラとさせながら言ってくる。このお伽噺のファンらしい。
赤色短髪。中々の好少年。さぞかしモテることだろう。
良いやつだしな。
でも名前は覚える気無いから、君の事を俺はA君と呼ぼう。
「なるほど。勇者とか魔王とかいたのかよ」
この本は実話を元にした絵本らしい。
ま、異世界だしな。
いてもおかしくないか。
場所は村の真ん中にあるちょっとした広場。
ここで俺はルリーとは違う少年少女達と遊んでいた。
初めて村に入った時、チャンバラをしていた子達である。
右から順にA君B君CちゃんD君Eちゃん。
本名は別だが、覚えるのが面倒くさいので割愛する。
「というか、アカキさんそんな事も知らなかったんですか?」
「え、あ、ああ……うん。ちょっと地方出身でな……」
Bの言葉にびっくりして、ついどもってしまった。
だって敬語なんだもん……。
というかこいつらみんな敬語で話しくるんだよね……。
ルリーに慣れてたからこいつらの礼儀正しさにビビるわ。
「ここより地方って秘境じゃん!! 人住めるの!?」
Aがふざけたようにいい、どっと笑いが起こる。
彼がこのグループのリーダーなようだ。
なぜ俺が彼らと遊んでいるか。
別に友達がいなくて寂しかったからではない。
友達はいないけどさ。
この世界の事を色々知りたかったからこいつらに聞いているんだ。
ルリーに聞いても、「は? なんで私が教えないといけないの? きもっ」としか返ってこないからな。
最近あいつ俺の事を動くゴミか何かかと思ってんじゃないだろうか。
「アカキさんって、ルリーちゃんの家に泊まってるんですよねー?」
Cちゃんの言葉。
「おう。居候させてもらってるな」
「かわいそー!」
「ん?」
Cちゃん。その可愛そうってどういう意味かな。
ルリーがってこと?
俺みたいなうんこゴミカスクズ男と暮らさせられてるルリーが可哀想って事?
お兄さん怒るよ?
Cちゃんの言葉を補足するようにEちゃんが口を開いた。
「ほら、ルリーちゃんって、口悪いし態度も悪いじゃないですか。いつも不機嫌そうっていうか……。だからアカキさん可愛そうだなって」
なるほど。
そういう事か。こいつら良いやつだな!
俺の心配してくれてたのか!
「根は悪い子じゃ無いと思うんですけどね……」
必死のフォローだろう。苦笑いでAが言った。
甘いな。甘いぞ少年。
「いや、根もうんこだねあの女は。だから人の事うんこにしか見えないんだ。うんこ女だよあいつは」
たまーに洗濯干してると、あいつのパンツにうんこついてるしな。
……冗談だが。
「やっぱりですか?」
悪口を共有出来たのが嬉しいのだろう。
ほくそ笑むC。
可愛らしい笑みだ。
「おう!」
「それにルリーちゃんって――」
「そんな事よりチャンバラしようぜ」
陰口のヒートアップを予期したか、俺とCの間にAが割って入ってそう言った。
流石はリーダー。
ABCDE皆がそれに賛同して、男共のチャンバラが始まる。
俺も混ざらないかと聞かれたが断り、その場を跡にした。
とぼとぼと、一人寂しく村の隅を歩く。
うーん。
ルリーやっぱり嫌われてるなぁ……。
あの性格じゃ仕方ないか。
前の世界で嫌われまくってた俺が言うんだ間違いない。
風が吹いた。
不穏さを感じさせる生温い風だ。
そういうのも厨二チックで嫌いじゃないが――
「ん」
何だあれは。
俺は今、村を囲う柵の内側にいるのだが、そんな柵の隙間から何かが見えた。
村の外――かなり遠くに見える小さな影。
(蜘蛛――? いや人?)
蜘蛛のような人のような……アラクネか?
下半身が蜘蛛で上半身が人みたいな。
――鼓動が増した。
異世界だもんな。
何がいても驚かないが……、何故それがあそこにいるんだ?
胸が苦しい程強くなり――冷や汗が止まらない。
なぜ村の方をじっと見つめている?
なんだ?
この悪寒は――まるで、あの男と対峙した時のような、圧倒的な死の予感は――
「――!!!」
爆ぜた。
アラクネが何かを出した。
それだけはわかった。
その次の瞬間には俺の周辺の空間が爆ぜていた。
轟音が鳴り響き、火柱が吹き上げる。
俺を狙って何かが放たれた。
それを決定づけるように射程上に会った柵が破壊されている。
何があった。
理解が追い付かない。
アラクネに攻撃――されたのか?
「あ――?」
ダメージは無い。スキルが発動したのだ。
多分あれは何かしらの魔法なのだろう。
だからスキルが発動したのだと思う。
しかし急に訪れたその現象に驚き、俺は転ぶ。
間抜けだ。
しかも顔をもろにうち、鼻が痛い。
凄まじく間抜けだ。
「……」
立ち上がれない。
立ち上がる勇気がない。
アラクネはなぜあそこにいた? なぜ俺を攻撃してきた?
わけがわからない。
「……」
倒れ伏せる俺を見て仕留めたと思ったか。
アラクネは背を向け森の中へと消えていく。
その背は確かに、覇気に満ちたその背中は――王者のそれであった。
自身がこの地帯の王者であると、そう口にしていた。
動悸が収まらない。
スキルがなかったら――多分死んでいた。
魔法を使ったって事は……魔物……なのか。
「あれが……魔物……? やべぇじゃねえか……」
もし魔物が来たら村が滅びるとか言ってたけど、あながち冗談じゃないな。
「……」
頬に触れる土がザラザラと心地良い。
それから数分。
爆音を聞きつけた村人がやってくるまで間、俺は、動けずただ倒れ込んでいた。
情けないと思うが――仕方ないだろう。
腰が抜けて立てなかったんだから……。
正直少しちびってました。
――
「あはははははは!」
それは愉快げに笑う。
魔物――アラクネは愉快だった。
魔王様のために人を殺す。
力は蓄えた。
目覚め、自分が誰かもわからなかった頃と比べて遥かに強くなった。
今なら人を屠れると思った。
だから人里まで降り、宣戦布告をしてきたのだ。
あれだけ派手にやれば、しかも人間を一人殺している。
死体は確認していないが、ただの人間にあの魔法が防げるわけがないのだ。
「待っていてください、魔王様……。私が……私が人を狩ります。……あなたの復活のために」
それは本能だった。
魔王のため、その衝動は人で言う食欲と同じ。
だからこそ盲目的になっていたのだろう。
それは慢心していた。
自分が最強だと、辺境にいる村人をを見て、人は皆あれくらいの強さなのだと
そう油断していた。
――最も、だからといって、それの強さが凄まじいのは変わる余地が無いのだが。
「待っていろ人間……私が狩り尽くす」
グロータル村の、魔物との戦いがこうして幕を開ける。
そしてそれは、これから起こる悲劇の始まりだった。