お前は喋るな
――冗談はいい。お前明日からしばらく学院休め。
私は廊下を走りながら昨日の事を思い出していた。
(アキトくん……。きっとこの騒動はアキトくんのせいだよね)
何かが起こる事は知っていた。
あの無愛想な幼馴染がわざわざ言ったのだ、それに意味がある事はわかっていた。
だからこそ私はこうして学院にいる。
幼馴染が何をするのか知りたくてここにいる。
いつも独りで突っ走ってしまう彼の横を走りたくてここにいる。
「フレイムショット!」
伸ばした手から炎がほとばしった。
「あ、ありがとうございます」
助けられた生徒が泣きそうな顔でお礼を言っていた。
「相変わらず凄い魔法だなぁ」
気配を感じさせない声に私は肩を跳ねさせた。
振り向いた先には黒髪の少年が立っている。
確かアカキとかいう名前だったはず。
「あなたの剣の方が凄いですけどね」
本当に凄い。
これほどの速さで剣を振るう人間を見たことがない。
そんな男がなぜ学院にいたのかは知らないが今は理由などどうでもよかった。
こちらに悪意が無い事だけはわかる。
それだけで充分だ。
「ん? そう?」
「そうよそうよ。流石は私の王子様ね! 顔はゴミカスうんこだけど!」
彼の言葉に返したのは私ではない。
横に立っていた少女だ。
名前は覚えていないが一年生の教室で見たことがある。
「王子……様?」
この非常時に何を言っているんだろう。
私は二人に問いかけた。
――
「王子……様?」
目の前のエレミアの顔が凄い事になっている。
わけが分からなくて混乱しているLv99って顔だ。
俺もわかんねえよ。
「はい。私も嫌で嫌でしょうがないのですが、これは運命だから仕方ないのです」
十八回。
俺がこのセリフを聞いた回数だ。
この短期間で凄まじい数字を叩き出してきている。
「いやすまん。俺一応恋人いるし」
携帯の中にいるわけではない。ルリーである。
一応女だろあれ。
恋『人』で間違っていないはずだ。
アイツの事だからノリノリで「一発ヤっただけで恋人面すんな!」 って言ってきそうだけど恋人なはずだ。
あの娘謎にプライド高いからね。
「……? そりゃあまあ運命の前には障害くらいあるでしょう?」
「……?」
助けを求めてエレミアへ視線を向けた。
目が合うと逸らされた。
関わりたくないらしい。
「大丈夫、どんな障害も乗り越えていけるわ。演劇の『美女と豚野郎』みたいな感じにね」
その演劇は見た事ないがなんと無く俺を馬鹿にしているのはわかった。
まあ面倒くさいので無視しておこう。
「そういえば授業の講師? はいないのか?」
エレミアに問いかけた。
名門校の講師って一流の魔法使いばっかだろ?
先程からその姿を見ない。
もしいるのなら生徒の安全確保を行っていてもいいはずだ。
「先生は――」
一年の女子が答えかけたのでその口を手で塞ぐ。
お前は喋るなややこしくなる。
それを見たエレミアが苦笑いで口を開いた。
「講師室も結界で覆われているみたいです。今頃先生方が結界を解こうとしているはず。解けるまで耐えれば後は先生方がどうにかしてくれるはず!」
「へー」
講師が束になっても解けない結界か。
やばくね? なんだかんだぺったんから貰ったスキルは優秀なんだなって。
アイレット入ってこれんのかな。
「って汚えな。舐めてんじゃねえよ」
襲う生暖かさの正体がピンクルの舌と唾液だという事に気付いて慌てて手を離した。
口を塞がれたから舐めるって小学生かよ。
「あぁ……。なんて可愛そうな私……。普通に話す事すら障害が発生してしまうなんて……」
こいつからはアイレットと同じ臭いがする。
つまりヤバイ。
……。
「……じゃあエレミア、ピンクルの事は任せた。俺はこの騒ぎの原因を突き止めるから」
「え……」
押し付けるんですか? って顔してるな。
その通りだ。
「ほ、ほら。俺強いじゃん? 女の子が近くにいると巻き込んじゃうからさ!」
「それなら心配及びません」
エレミアとの会話に横槍をいれてきたのはピンクル。
やめろ。
入ってくるな。
彼女は俺の表情が面白かったのか軽く微笑えむと何かを唱え始めた。
「スモーリング!!」
ぼふん!
煙が軽快な音を立ててその体を包み込む。
「――」
すきま風にさらわれ煙が晴れる。
そしてそこには何もなかった。
あるはずのピンクルの姿すらない。
安堵。
ただその感情が俺の脳裏を埋め尽くす。
しかしそれをあざ笑うかのように聞こえる声があった。
「さぁ、私を胸ポケットにでもいれなさい」
ピンクルの物だ。
よく見てみれば足元に親指サイズになったピンクルの姿があった。
なるほどそういう魔法か。
ふざけんなよ。
これで邪魔にはならないから連れて行けと。
「おぉう……」
なんで?
俺が抱くのは疑問である。
今出会ったばかりだぞ俺達は。
なぜその運命とやらに固執するのか、理解が追いつかない。
俺の疑問は未知のものへの恐怖へと変換されつつある。
何が言いたいかというとアイレットと同類だって事だ。
人としてのデッドラインだよそれは。
「早くしなさいよ」
「わかったよ……」
ピンクルの体を摘みあげた。
おっ。
重い。
思わず落としそうになる。
スキルを使っているから正確な重さはわからないが米俵くらいの重さはありそうだ。
「へぇ意外と力あるじゃない。私のスキルはサイズは変わっても質量は変わらないの」
「じゃあ六十キロくらいかお前の体重」
「あぁ……。こんな無神経なゴミカス野郎と愛を育まないといけないなんて……。けどいいの。私は彼を愛してみせます。健気に愛を囁き続けます。それが運命だから……!」
「はいはいそうだね」
元気そうでなによりだ。
しかし色々な法則無視してるよなこの魔法。
エレミアがピンクルの魔法を見た時に驚いていたし地味に凄い魔法なのかもしれない。
腐っても名門校の生徒という訳か。




