私の王子様(//∇//)
入り口が見当たらなかったので窓を割って校内に侵入した。
案の定血の臭いがする。
(厄介だな)
視界が開けていた中庭とは違い建物の中は遮蔽物が多い。
発見するのにも時間を要しそうだ。
廊下を駆けていると前方に何かが見えた。
頭の悪いカンガルーみたいな見た目の生き物が、腰を抜かせた女子生徒を襲おうとしていた。
初めて見る生き物だな。
右目と左目で見ている位置が違うし口からはよだれを垂らしている。
ハッキリ言って気持ちが悪い。
なので遠慮なく蹴飛ばそうとした時だった。
「フレイムショット」
凛とした声と爆音がほぼ同時に鳴り響く。
っと。
目の前のカンガルーもどきが燃え始めたを見て足を止めた。
『フレイムショット』
中級魔法で、ファイアボールの上位魔法に当たる。
『ファイアボール』はルリーも使ってたし誰でも使える魔法だが、『フレイムショット』は鍛錬した者でないと使えないらしい。
まあ俺は両方使えないんですけどね。
「大丈夫?」
術者であろう少女が襲われていた女子生徒へと近づく。
あの娘、どっかで見たな。
いやナンパとかではなく。
あー。そうだ。
アネーロンの街に入る前に街の外で魔法の練習してた女の子じゃん。
真面目さと非常時における行動力を持ち合わせた可愛い(年齢的には恐らく)女子高校生。
尊いなぁ。
涙が出そう。拝みたい。
そんな彼女をガン見してると目があった。
「な、何者ですか?」
俺へ対して手を向けている。
いつでも魔法を撃てるようにする為だろう。
この場面で学院関係者以外がいるのは怪しいわな。
「怪しい者じゃない。俺もこの結界の被害者だ」
ただ国の英雄を殺そうとしていて記憶の無い少女を連れ回している住所不定の旅人っていうだけだ。
……変質者かな。
「そ、そうですか。その血は?」
少女に言われ自分服を見てみるとたくさんの返り血がついていた。
「多分ブラッドウルフの物だな。さっき中庭にいたのをあらかた倒しちゃったから」
「なるほど。うちの生徒を助けていただいたのですね。ありがとうございます」
彼女はぺこりと頭を下げた。
尊いなぁ……。この娘も大変だろうになぁ……。
「何があったかとかってわかる?」
一応ダメ元で尋ねてみるが、首を横に振って返された。
ですよね。
「ただ多分……ト……君が……」
小声で言われた言葉がうまく聞き取れない。
「え? 何だって?」
「な、なんでもないです。まだ校舎内に獣がいるはず、倒すのを協力してもらえますか?」
「勿論」
誤魔化すように言われた少女の言葉に頷いといた。
「ありがとうございます!」
いいね!
女の子に敵意以外ぶつけられた事あんましないから新鮮でドキドキするね!
「君の事はなんて呼んだらいい?」
「あ、私の名前はエレミア。エレミア・トランっていいます」
―
私、ピンクル・クルクルどこにでもいる普通の女学生(〃ω〃)
ただちょっと人と違うのが魔法の才能があって尚かつ上の下くらいのルックスを持ってる事かな(*´ω`*)
けど私は裏表の無い性格だからあんまり男子人気はないんだ。
お母さんには黙ってたらモテるのにねっていわれるんだけど……。
まあ、私中身おっさんみたいなもんだし? デリカシーとかよく分かんないから仕方ないよね!
「グルルルルル……ッ!」
「うるさいわね。黙ってなさいよ」
あれはブラッドウルフかしら? 私に対して威嚇しているわ。
私攻撃魔法なんて使えないし襲われたら殺されちゃうでしょうね。
けど大丈夫!
王子様が助けてくれるから!
いつか王子様が私を迎えに来てくれるんだってずっと思ってた。
それはきっと今。
これは神様が与えた試練なの。
最後まで王子様の事を信じていられるかっていう試練なの。
「いいわ。運命は何人たりとも踏みにじれないから運命っていうのよ」
きっと私に友達がいないのも試練なの。
この半年で上履きが二十回無くなったのも試練なの。
机の上に花瓶が置いてあったのも試練なんだわ。
それでねそれでね!
王子様が来たらその試練の分だけ楽しい事をするんだ!
一緒に買い物でしょ? お食事でしょ? 魔法の研究を一緒にしたりして……、それでね、私の故郷も一緒に回るの。
いっぱい、いーっぱい思い出作って、子供も作るの。
うふふふふ。
王子様がどんな人かは知らないけど、きっと素敵な人が迎えに来てくれるの。
早く来て!
早くしないと悪い人に食べられちゃうわよ(物理的に)!(〃ω〃)
「グルァァァァァ――ッ!!!」
大きく口を開き醜く向かってくるブラッドウルフ。
微かに血の臭いが感じられる。
きっと誰かが食べられたのね。
憐れな人……。
「さあ! 来なさい! 愛を知らない獣よ!! 人の愛の力を見せてあげる!!!」
カモーン!! 王子様!!!!(//∇//)
「きゃ……っ」
――風が吹いた。
剣圧を風だと思えてしまうほどの一撃。
まるでキャラメルを切るみたいにブラッドウルフの首を飛ばした。
――トクン。
胸が高鳴る。
――来てくれた。
――来てくれるって信じてた。
これはもう間違いなく運命。
舞い上がった土煙のせいで顔はよく見えないけど、きっと素敵な御方なのでしょう。
私はこの方と結ばれて幸せな家庭を築くんだわ。
――私の
「王子様……っ」
「え? ……? 無事か?」
土煙が晴れ、そこには黒い髪の少年が立っていた。
――
「え? ……? 無事か?」
今この目の前の女の子が何かを言ったような気がしたが聞こえなかった。
まあ多分「ありがとうございます」とかそのへんなんだろうけど。
エレミアよりは幼く見える。
ここは一年生の教室なのだからきっとこの娘は彼女の後輩なのだろな。
エレミアが何年かは知らないが、あのリーダーシップぶりを見て一年生って事はないと思う。多分だけど。
「……」
白い髪を腰の辺りまで伸ばした、その一年生の女の子は泣きそうな顔でこちらを見ていた。
可哀想に……。
ブラッドウルフに襲われてそんなに怖かったんだな。
「立てるか?」
そのまま放置するのもアレだったので、彼女へ手を差し出した。
「いや……いや……」
「ん?」
何か首をぶんぶんと横に振っている。
そんなに怖かったんだね……。もう怖がらなくていいよ。
「こんなの……こんなのあんまりよ……」
「もう大丈夫だから」
おいおい錯乱しすぎだろう。
「あ? 何が大丈夫なんだよぶっ殺すぞ!!!」
「えっ」
ん? 何が?
視線で説明を求めるがそもそも俺の表情など彼女の視界には入っていないようだ。
疑問を置いてきぼりにして少女は大きな声をあげて泣き始める。
「いやだあぁぁぁ。いやだよおぉぉぉ……っ。こんなブサイク嫌だよぉ……」
子供が駄々をこねるように泣き喚くその姿。
……訳がわからない。
……俺はこれにどう反応すればいいのだろうか。




