十聖剣
「滅ばねえかなこの世界」
無意識にそんな言葉が出ていた。
別に本心なのでそれは驚かない。
「え゛、?」
横のナーリンは驚いたみたいだ。
目をまんまるくさせていた。
「何そんなに驚いてんだよ。冗談だっつの」
「よかっ、た。世界、ほろんだら美味しいも、の食べれない」
いつからこの子はこんなに食い意地がはりはじめたのだろうか。
今だって珍しい物を食べたいとか言うから街を二人で歩いてんだぜ?
寝てたのに起こされたんだぜ?
「あんま食うと太るぞ」
「大丈夫、私、体、太らないてノリス、言ってた」
「ん?」
「何、そんな驚いている?」
目をまんまるくさせる俺を見てナーリンが首を傾げる。
「今ノリスって言った? 覚えているの?」
記憶無いって言ってなかった?
大丈夫? 設定忘れてない?
「ノリス、嫌い、忘れるわけない」
「って事は自分がどこの誰かもわかるの?」
「わから、ない」
……?
俺がわかんねえな。
アイレット呼ぶか?
あいつなら話を整理してくれんだろ。
……そうでもないか。
何か最近ユウイチロウ、ユウイチロウうるさいし余計にややこしくなりそうだな。
「気づいた、ら、変な男が目の前、いた。そいつの指示、でノリスは私、連れてた。そこからの事は覚えてる、けど……」
「それより前の事は覚えてないのか」
「う、ん」
記憶喪失な事に変わりはねえのか。
ノリスと出会ってからの事は覚えてるけどそれ以前の肝心な所は覚えてないのか。
スキルを発動させた。
試しに自分を殴ってみる。
そこそこに大きな音が鳴り響く。
……痛いのは痛いが、大した威力じゃない。
スキルは強化されていない。
なぜナーリンと戦った時スキルが強化されていたかがわかればかなり大きな力になるんだけどなぁ。
なんて物思いにふけっていると、彼女がその小さな瞳を曇らせていた。
眉を歪ませてまるで凄まじいものを見る表情だ。
「……へん、たい?」
「違う」
それはアイレットだ。
――
「おかえり」
赤髪オールバックのナイスガイ。
宿に帰るとそんな男が平然とくつろいでいた。
俺にこの男との面識はない。
彼はその事実を微塵も感じさせない程にリラクッスした様子でベッドの上に座っていた。
「誰だ?」
男に問いかける。
「あれ? アイレットは一緒じゃないのか」
アイレットの知り合いか。
類友かな。
「……」
「睨むなよ……。勝手に部屋に入ったのは謝る。ただアイレットの匂いがしたからこの街に来てんのかなって思って立ち寄っただけなんだ。決して怪しい者じゃない」
「怪しい人にしか聞こえねえよ?」
やっぱ類友じゃねえか。
俺の言葉に困った笑みを浮かべながら口を開く男。
何気に絵になるのが腹立たしい。
「怪しくないさ。……君達はアイレットの連れなんだよね? じゃあ彼女に王都には近づくなと伝えておいてほしい」
「理由は?」
「それは秘密。大丈夫、俺が言ってたって言えばあいつは信じてくれるだろうから」
近づくなって言われても俺の目的地王都なんだよな。
言う必要ないから言わないけどさ。
物静かなナーリンへ視線を向けた。
静かなのって珍しいから不安になるんだよね。
視線の先で、彼女は不安そうな顔をしていた。
「へん、たい?」
「そう」
「違う!!」
ナーリンと俺の言葉に大きな声で否定する男。
「やめろよ。小さな子が怯えてるだろうが」
「へんたい、へんた、いだー」
視界の隅で楽しそうにキャッキャと笑ってる少女の姿が見えるが一先ず無視だ。
これくらいの歳の男の子がうんこちんこで笑うのは知ってるけど、女の子も似たようなもんなんだなあって。
「……俺はボトリク・ボルボ、名前くらい聞いた事あるだろ? 決して怪しい者ではないんだ」
「知らないな」
「……怒ってるのか? すまない、謝るよ」
「いやまじで知らない」
機嫌が悪いから知らないふりしてるとかじゃなくて本当に知らない。
ボトリクの悲しそうな表情を見るとちょっと罪悪感がでてくる。
この世界の有名人かな?
「十聖剣の一人さ」
「へえ」
彼の言葉に思わず驚きの声がでていた。
アイレットも元十聖剣だからあいつと同格かそれ以上って事だよな。
凄いじゃん。
「へん、たい?」
「多分そう」
「違う!!」
十聖剣が近づくなって言うんだったら何かあるんだろうな。
というか王都に招集かかってるんじゃないのか今って。
なんでここにいるんだこいつは。
最強の騎士団がそんなんでいいのかよ?
そんな事が些細に思えるレベルでやばい事が起きてんのか?
「黒血十、聖剣……?」
俺の思考を遮ったのはナーリンの言葉だった。
「お嬢ちゃん、冗談にしてもそういう事を言うのはあまりよろしくないよ」
その言葉を聞いたボトリクが嗜めるように彼女の頭を撫でた。
「なんかあんのか? 黒血十聖剣って」
その単語を聞いた瞬間彼の表情が一瞬強張ったし、良い意味では無いんだろうけど。
ボトリクはそんな俺の問いに驚いた顔を見せていた。
「別に黒血十聖剣という組織が存在するわけではないが、黒血というのは一般的に魔王の血の事をさすんだ。あ、魔王とか勇者っていうのはわかるよね?」
「ああ」
ぼくゆうしゃのけつぞくでーす!!
とか言っても信じてくれないだろうね。
「だから、ほら……。黒血十聖剣って、まるで魔王の手下みたいだろ?」




