謎の少女
「お前は誰だ?」
アイレットの視線を受けながら、意識を取り戻した魔物少女へ問いかける。
お前は不適切だったかな……?
退場させられるかな……? サウスポーしちゃうかな?
という俺の心配は無用だったようで、彼女はちゃんと言葉を返してくれた。
「私……は……誰だ?」
「おぉう……」
しかしその内容は予想の斜め上をいっていた。
記憶喪失か……?
ラケリエイン達の話によるとこの少女はノリスの連れらしい。
何かザンタボルトの情報を聞き出せるかなと期待したのだが無理そうだな。
「この娘どうするの?」
アイレットが聞いてくる。
「さぁ、どうしよ」
手懐ける事ができれば戦力になるし、それが無理でも近くにいてくれたら俺のスキルが強化されて戦力の向上につながる訳で。
だから連れて来たんだけどなぁ。
スキルを発動した。
ちょっと力を込めてアイレットを殴ってみる。
「何?」
なんて事も無く止められてしまった。
これが悩みの種だった。
早い話がスキルが強化されていない。
少女との戦闘中は確かに強化されていたのだが、今は違う。
だって強化したスキルでアイレットを殴ったら普通に吹き飛ぶだろうし。
(アーランドのスキルみたいな感じか……?)
よくわからないが、少なくとも今の彼女は魔物じゃないと言うことだ。
記憶喪失との因果関係もわからない。
何もわからない。
無知の知を得ただけ。
「最悪手足切り取って持ち運びやすくして、俺の戦力上昇マシーンとして運用しようと思ってたんだけど上手くいかないなぁ」
「アカキくん……。私を殴ったり蹴ったりするのはいいよ。でもね、その性癖を責任能力のない少女へ向けたら駄目だよ……」
それはわかってんだよ。
正しく無い行動なのはわかってんだよ。
けど俺は別に正しくありたいわけじゃない。
他の人間もやりたいようにやればいい。
俺もやりたいようにやるから。
そう心の中で、悲しげな瞳を向けてくる彼女へ反論した。
「性癖じゃない」
「……そうなの? そこはお父さんに似なかったんだね」
「親父……」
何やってんだあいつ。
「腹、減っ……た」
少女の言葉だ。
可愛らしくお腹の虫が鳴っている。
「だってよ、アイレット」
「……!? 私かい?」
「とりあえずこの娘を同行させるから、アイレットお世話係ね」
「まぁ……いいけどね。一人の相手も二人の相手も大して変わらないし」
「……?」
彼女の言っている事はよくわからないが、了承してくれたようだ。
「あ、でも丁度いいや」
言って俺はポケットに忍ばせておいたリンゴを出す。
「……これは?」
それを見たアイレットは引き攣った顔をしていた。
「リンゴ」
「どこで買ってきたの?」
「……? 買う……?」
帰り際に美味しそうだから盗ってきたけど丁度よかったな。
少女に食べさせてあげよう。
なんて優しいんだ俺は。
「アカキくん……」
――
「十五か」
任務を終えたラケリエインとメシルはミルミカの街を出、帰路の山道を歩いていた。
無数に聞こえる虫の声に混ざるように声を出したのはラケリエインだった。
「残念十七よ。まだ繊細な気配探知は苦手みたいね。可愛いわ……ラケちゃん」
「おう」
ラケリエインは否定しない。
なぜなら無駄だとわかっているからだ。
何かを失う覚悟のない人間に何かを得ることはできないと言う。
この場で平穏を手に入れるにはプライドを捨てるしかない。
彼はそれを本能で理解している。
それは卓越した戦闘センスが可能とさせる直感故だ。
「……モテる男は辛いわねぇ……」
メシルが呟く。
今現在二人を囲うように十七の人影が展開されている。
集団の正体はこの山を根城にする山賊。
それぞれ剣や斧や鍬など多種多様な武装をしていた。
賊にとって、護衛も付けない二人の旅人なぞ恰好の獲物だ。
「――メシル、手を出すなよ。消化不良でイライラしてたんだ。俺様がやる」
「はーい」
皮肉だろうか、聞きたくもないというのに野太い猫なで声は山の中によく響いた。
「もう終わりかよ」
倒れ込んだ十七の影を見ながら言ったラケリエイン。
彼に負傷は見受けられず、それどころか息を切らせた様子もない。
簡単に片付いた事が想像できた。
「流石ね」
「今回は『プラス』が多く出たからな。こんなもんだろ」
彼等は仮にもテロ組織の戦闘員。
こうなるのは当然の結果。
知らなかったからとはいえ襲う方がおかしいのだ。
「たす……けて……」
倒れ込む影に一つ、這って逃げようとする物があった。
顔に浮かぶ恐怖を誤魔化すように、大きな体を小刻みに震わせていた。
「なんだ、まだ意識があるやつがいたのか。優秀じゃねえか」
この光景を作り上げた本人が視線をそこへ向ける。
「ひっ……」
情けない声を上げる今の男を見て、山賊だとは最早誰も思うまい。
「よーしよーし。俺様がすぐ楽にしてやるからな」
剣を抜き、ラケリエインがゆっくりと近づく。
歩を進めるたびに落ち葉や枝を踏み音が鳴る。
それが男の恐怖助長させていた。
「やめろ……くるな……っ……化物……化物がッ!!」
「化物……? あの男を見た後だと嫌味にしか聞こえねえよ」
間の抜けた切断音が聞こえる。
まるで魂が天へ向かっているかのように、木々に止まっていた鳥が空へと羽ばたいた。




