呪いじみた祝福
襲撃者の去った来賓室。
暴力的なまでの力に犯されたその部屋は惨憺たるあり様だった。
みちり。
何が蠢く音がした。
音の発生源は二つに裂かれたノリスの肉体。
それの肉が盛り上がり、再び接合せんと蠢いていた。
「うわぁ……、ノリスさんやっば……。きっも……」
なんとも嫌悪感覚える光景に、サニが顔を顰める。
返事は無く、肉体の蠢きが続く事数分。
彼女の精神が限界を迎えようとしたところで、その肉は再びノリスの形を型どった。
「祝福の儀以来初めての蘇生ですが……。慣れない物ですね」
首をコキコキと鳴らし、腕を回し、立ち上がった彼はまるで寝起きのように体を動かしていた。
それを見るサニの表情はもはや人に向ける物ではない。
「いや……。いやいや。慣れちゃ駄目じゃないです? もうそれ祝福というよりは呪いじゃないです? 人として超えちゃいけないラインを完全に超えちゃってますよ」
「そうですか。……ザンタボルト様に次の祝福候補者として貴方を推薦しておきますね」
「マジで勘弁してくださいって。ノリスさんとかカトさんとかバララさんとかならともかく、私みたいな非凡が受けても、それこのあの娘みたいになりますよ。そういえばそのあの娘どこ行きました? 姿見えないですね」
サニの言葉を受け、ノリスが辺りを見回す。
探しているのはアカキと戦った魔物少女の事だった。
「……死体がないから殺された訳ではないでしょうね。連れ去られましたか」
「はい怒られるー! 貴重サンプルなのにー! 無くしちゃったー! ザンタボルト様に怒られるー! 私の責任じゃないー! ノリスさんのせきにーん!」
「……」
「で、どうするんです?」
彼女の問いかけはこれからの事だろう。
命を狙われ、本来なら殺されていたのだ。
紛れもない緊急事態。
立場が上の人間に判断を仰ぐのは当然だった。
「……王都に戻りましょう。彼は恐らくザンタボルト様の命も狙っています。お伝えせねば」
「へー。ノリスさんと面識あるっぽかったですもんね。色々事情ある系ですか。まぁ、興味ないですけど」
「はい、なんといいましょうか……彼は――」
「いやいいです。話さないでください、関わりたくないです。あんな化物にはぜーったい関わりたくないです私」
「それは無理な話です。彼は間違いなく再び我々の前に立ちはだかる。……今回の事はもういいので次対峙したときはちゃんと戦ってくださいね」
「あー……。てへんっ♡ バレてました?」
「最初から戦うつもりなんて無くて、彼の攻撃を受け流す事だけに集中していた事ですか? 私を心の底から馬鹿にしてることですか? ザンタボルト様に忠義の欠片も無い事ですか? バレてましたとはどの事でしょう」
「……自分から言ったくせに。ノリスさんって性格わるいですよね!」
気不味げな顔で舌を出したサニ。
「私はザンタボルト様にとって有益となる行動をするだけです。それが結果として性格が悪いと言われるのならそれはそれで仕方のない事ですね」
「そういうとこですよ。でもでも、私悪くないですよね。あれと戦ったって確実に勝てませんもん。個人がどうこうとかいうレベルを超えてますもん。あれを敵に回したザンタボルト様が悪いですよ」
魔物の近くでスキルが強化されているアカキは、最早国家レベルの戦力といってもいい。
ウルアン程の大国は無理だが、下手な小国なら正面から攻略できる。
人の身一つでどうにかなる物ではない。
「……あの方の敵ならば何が相手でも排除する。それが祝福を受けた『黒血十聖剣』の使命です。……何度も言っているでしょう。その空いている席に貴方を推薦すると」
「いやぁ……。マジで勘弁してくださいよ」
窓から差し込む太陽が、半壊した部屋と彼女の引き攣った笑みを照らしていた。
――
「今度はこっちが聞いてもいいか……? なんで『十聖剣』の『剣鬼』がここにいるんだ?」
俺の質問に一通り答えた後、ツンツン頭の少年が言った。
ラケリエインだっけ?
まあ答えたと言っても当たり障りの無い事しか聞けてないけどね。
構成員と本拠地教えて? って聞いたら話すくらいなら死ぬって言われたし。
「十聖剣?」
聞き慣れない単語に首を傾げながらアイレットへ視線を向ける。
やれ『カルカロスの翼』だの『十聖剣』だの知らない単語ばっか出しやがって……。
そうやって内輪ノリで話すと友達できないよ?
ソースは俺。だって元の世界で友達いなかったもん。
「元、だよ。十聖剣はウルアン王国を守る矛であり盾。精鋭のみで構成された最強の騎士団の事なんだ」
彼女は誇らしいげな顔で答えたくれた。
「因みにアイレットは何番目くらいの強さだったの?」
「今はわからないけど……。私がいた頃は六番目くらいかな? 因みにザンタボルト様とハリュッケン様は十聖剣に所属してないからその二人を入れて、ウルアン全体だと私より明確の強いのは七人くらい?」
「へぇ……」
ハリュッケンってのはザンタボルトと肩を並べる二英雄だったはず。
正直アイレットの強さは異常なんだが、十聖剣内だけでもそれを超えるのが五人か。
やばいな。えげつねえ。
続けて彼女に尋ねる。
「ちなみにノリスって十聖剣だったりする?」
「ノリスが加入したという知らせは聞いてないね」
「ふーん」
違うのか。あいつ雰囲気が偉そうだから重鎮かと思ってたけど雰囲気だけかよ。
あいつの護衛の少女、名前は知らないけど、俺の行動に反応してたしもしかしたら十聖剣なのかな?
かなりの強者なんだと思う。
スキルが強化されてたから詳しくはわかんないけどさ。
彼女が十聖剣の一人だったとしても驚かない。
「……こ、答えらない事なら無理して答えなくてもいい」
そんな俺達のやり取りをみてラケリエインが伺うような表情を見せていた。
腫れ物に触るかのような態度だ。
……そんな怖がんなよ。
ちょっと目の前で人間両断して脅迫して部屋に連れ込んだだけじゃん。
あー。でも。アイレットの存在がバレたのは面倒くさいな。
彼女に話に参加してもらおうと思って部屋にこいつら連れ込んだけど、そんな事したらバレるに決まってるじゃんね。
短絡的だったな。
もしウルアン王国にこの事が知られれば確実に指名手配されるだろうし……。
そうなる前にこいつら殺しとくか。
情報は手に入れたからもういいだろ。
「――この事をウルアンに漏らすことは絶対にしないわ。貴方程の戦力を敵に回すような事をするほど私達は愚かじゃないの」
俺の顔から考えを読み取ったのだろうか、メシルと呼ばれていた大男が口を挟む。
彼は本気でそう言っているのだろうが、テロリストとはいえ組織だからな。
状況次第で俺を売る事もあるだろう。何よりこいつら末端な訳だから、その言葉を真に受ける訳にはいかない。
また別にアイレットの事を漏らされたとしてもちょっと困る程度であって、致命傷ではない訳で。
そのデメリットよりもここで彼等を殺して組織を敵に回すデメリットの方が大きいか。
アイレットの話を聞く感じ思ったよりでかい組織みたいだし。
そして可能ならそのカルカロスの翼を利用してやった方がいい。価値は充分にある。
(敵対はタブーか)
ならば俺の取る行動は限られてくる。
「大丈夫、何もしないよ。お互い仲良く利用しあおう」
言ってメシルへと手を差し出した。
握手だ。
その行動に気づいてもらえず、無視される形になってしまった。
慣れない事はするものじゃないね。




