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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第四章 もう一つの仇:前
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第三者

 闘技場内の通路を歩いていた。

 壁を隔てているというのに大会の熱気が伝わってくる。

 俺とケーボンの試合のおかげで、後に続く試合はより楽しめる事だろう。素晴らしい対比だと思う。


「さて……と」


 とりあえず階段を探す。

 

 ノリスは上から試合を見下ろしていたからな。

 階をあがれば会えるだろ。さっさと殺してやろう。


 いつ戦闘になってもいいようにスキルは発動しておく。


 見つけた階段を登る。

 スーパーなどの非常階段みたいに、登りきったすぐ横に次の上の階への階段が設置されていたため探し回る手間もなくすんなりとあがれた。


「観客か? ここから先は来賓室しかないよ。引き返したまえ」


 五階まであがり、六階へ行こうとした所で階段の前の兵士に呼び止められた。


「どうも。ありがとさん」


 わざわざ目的の場所を教えてくれるなんて優しい人だなぁ……。


 横を通り抜けようとしたが肩を掴んで止められた。

 彼の目には警戒色が浮かんでいた。


「……引き返しなさい。あと一歩でも進めば君を切らないと行けなくな――」


 兵士が言葉を言い切るより早く俺の拳がその腹部を撃ち抜く。

 悲鳴を上げることすら許されず意識を失った肉体は、無動作に倒れ込んだ。


 手が痛い。


 彼の着ていた鎧がいい品な証拠だな。

 安物だとこうはいかない。

 良い武具が支給されてるって事はそこそこ階級が上なんだろう。

 

 そんな奴が警護に回されているのはこの先にいる人物がお偉いさんだって事だ。

 ノリス・バライトしかいない。


 階段を上がると通路が二手に別れていた。

 右側と左側、共に通路の奥に扉が見えた。


 どっちが正解だろうな。

 案内板には両方来賓室ってなってる。左側が来賓室Aで右側が来賓室Bらしい。


「右……か」


 理由は無いがそんな気がした。

 

 こういう時の勘を侮っちゃいけない。

 本能でそれを理解している俺は迷う事なく右側の通路を歩き始めた。



――



「あら、先客がいるみたいよ?」


 スキンヘッドの大男が風貌に似合わない口調で言う。


「みたいだな」


 それに答えたのは赤髪の少年だった。

 その視線は倒れ込んだ警備兵へ向けられている。


「……どうする? ラケちゃん」

「どうするもこうするもねえよ。こんな正面から警備兵蹴散らして乗り込むなんて馬鹿だろこいつ。警戒する必要もねえよ」

「真正面からは私達もなんだけどね」

「俺様は強いからな」


 だからなんだという顔を作った大男。

 その人知れぬ問いに回答はなかった。


 ラケちゃんと呼ばれた彼はぐんぐんと階段を登っていった。


「ラケちゃん早い……。置いてかないで」

「お前が遅いんだよメシル。……俺様が悪かったから乙女走りでこっち来るのはやめてくれ……その……怖い」


 ラケちゃん――ラケリエインの顔は青く染まっていた。

 普段、命のやり取りの場面でも恐怖を顔に出さない彼をここまで恐怖させる存在。

 本当の敵とは案外近くに居るものなのだ。

 

「? よくわからないけど、わかったやめるわ」

「……」


 階段を登り終わった二人の動きが止まる。


「どっち?」


 メシルがラケリエインに問いかける。


 二手に別れた通路のどちらが正しいか聞いているのだろう。


「左だ。ノリスはそこにいる」

「はーい」



――



「……」

「……」

 

 俺と目の前の少女の間には謎の緊張感があった。


 彼女は長い銀色の前髪で覆われているため、顔を見る事は叶わない。

 じゃあなぜ少女とわかるかって?

 そりゃあ夢の詰まった小ぶりな膨らみの先端に綺麗なさくらんぼが二つ見えているからね。


「……ごめんなさい」


 とりあえず謝る。


 ノリスがいると思って扉を開けたら全裸の少女がいた。

 こっちの通路は外れだったみたいだ。いや、ある意味当たりなのかもなり


「あぁ…ぁ……」


 少女の口から漏れ出たのは悲鳴でも無ければ怒号でもない。消えそうなか細い声だった。


「どうかした?」

「あぁ……っ……ぁ……」


 感じてんのか?

 変態かよ。


「大丈――」

「ああぁぁぁぁ―――っ!!」


 俺の言葉を遮る大声をあげ、少女がその距離を詰めてきた。


「うおっ」


 一瞬でなされたそれに思わず身体が硬直する。


 ――早い。


 彼女の拳に魔力が集まっているのが見えた。凄まじい力を感じる。

 あれで殴ってくる気か。


 完全に虚をつかれ、回避は不能、防御も不能。

 攻撃を受ければ恐らくただではすむまい。


 致命傷に至らない事を祈り衝撃に耐えようと目をつむる。

  

「――ッ」

 

 しかし生憎にも、破れかぶれに行った回避行動が成功し衝撃は訪れなかった。


 後ろへ跳んだ俺は少女から距離をとった形となり、お互いの出方を伺うような沈黙が訪れた。


 ……どういう事だ?


 少女は攻撃を避けた事を驚いているようだが、俺が一番驚いている。


 本来なら確実に直撃コースだったはずだ。

 本来・・ならな。


「……きさ……おまえ……てき……あなた……わたしのてき……」


 生気のない言葉を呟く少女を睨みつけ、剣を抜く。


 もう不意打ちを受けるつもりはない。完全に臨戦態勢へと入った。

 

「……」


 ……思った以上に体が動いた。

 いや、スキルが効果を発動したというべきか。


 つまりそれは目の前の彼女が魔物という事に他ならない。


 精神が安定していないようだが関係はあるのだろか。

 魔物の生体に詳しくないからわからねえな。


「おまえ……じんるい……の…てき……」

「あ? 魔物が何言ってやがる」


 こちとら勇者の子孫様だぞ。

 

「わたし……ちがう。てきちがう……。わた……わたし……わたし……」

「……?」


 クエスチョンマークを浮かべる俺に苛立ちを感じるのか、少女は激しく声を荒げた。


「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう……!! わたしちがう……ちがう……ッ!!」

「よくわかんないけど、敵じゃないなら俺の邪魔すんな。こっちにはお前と戦う理由なんかないんだよ」

 

 俺はノリスを殺したいのであって、少女を痛ぶる理由もない。

 

 しない理由もないからノリスの件が無ければ別に乱暴しつくしてもいいけど、今は急いでるしな。


「てき、わたしちがう。――おまえっ!!」

「話が通じねぇみたいだな!!」


 再び向ってきた少女に言葉を吐き捨てて返し、剣を振るった。

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