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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第三章 新たなる出会い
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決闘

 カイエンに連れられて来たのは街の隅にある林の中だった。

 鳥や虫の声で不気味にざわめく、木の無い開けた所で、俺達は向き合い立っている。


「何だよ、話って」


 俺が周囲の雑音を遮るように言った。   

 話の内容はなんとなくわかるけどな。


「その……何だ。ユスラだけでいい、俺はどうでもいいんだ。あいつの刻印を外してやってほしい……です」


 取ってつけたような敬語で話すカイエン。


 奴隷は二つの契約で繋がれている。


 一つは罰を与える為の刻印。

 そしてもう一つは居場所を察知するための魔具。

 

 小指の先ほどのそれを奴隷達は体の何処かに埋め込まれている。

 それで逃げられないようにしてるわけだ。

 まあ、基本刻印があれば逃げられないんだけど、保険だな。


「……」


 俺の無言をどう受け取ったかはわからないが、彼は早口で言葉を紡ぐ。


「ほ、ほら! 魔具があるしさ、居場所もバレる。だから逃げたりもできねえ。頼むこの通りだ……!!」


 言って、カイエンは土下座をした。 

 必死だな。

 それだけユスラは俺を怖がっていて、こいつはそれを和らげるのに一生懸命になってるわけだ。


 ……。



「……別に構わない」

「――ホントか!?」


 自分が嫌になる。

  

 自身の影響力を鑑みず、自分勝手にやった結果がこれだ。

 年下の女の子を怖がらせて、泣かせて。


 楽しいか? 何がしたいんだ?


 と自問している自分に気付き、思わず苦笑いが漏れていた。

 

 ……刻印だけじゃない。

 魔具のリンクも切ってやろう。


 魔具のリンクを切ると言う事は完全に奴隷を手放すと言う事だ。 

 無理に一緒にいさせる必要もない。

 無理に仲間を演じさせる必要もない。


 刻印を解除した。

 彼の体が淡く光る。それは正しく刻印が解除された証明。


 ――魔具も切ってお前らを解放してやるよ。


 と言おうとした時だった。


「ラァ――ッ!!」

「――!!」


 雄叫びと共にカイエンの拳が俺を襲った。

 空気を引裂き肉薄してくるそれは、常人なら反応すらできない速度だった。

 後ろに跳んでそれを避け、彼を睨む。


「何のつもりだ」

「刻印を解除するって事はこういう可能性もあるって事だろうが。自分は襲われないとでも思ったか?」


 ……確かに刻印を解除すれば奴隷の動きを制限する縛りはなくなる。

 いくらでも反抗し放題になるが……。


 だからっていきなり襲ってくるか? どんだけ俺が嫌いなんだよ。


「……落ち着けよ」

「落ち着いてるさ。あんたを殺してユスラを完全に解放する……!!」

「そんな必要は――」


 戦う必要はない。

 俺は彼らを解放するつもりだ。

 

 と言いかけた俺の言葉はカイエンによって掻き消された。


「テメエの言葉に興味はねえ!!!」

「チッ……!!」


 左と右、交互に繰り出されるラッシュ攻撃を横へ避ける。


 腰の剣に手をやり、抜刀――。


 しかしその一閃は当たる事はなく、後ろへ距離をとったカイエンに避けられていた。


 ……流石だな。

 常人離れしている。


 けど、所詮は常人と比較できる範囲だ。


「ふっ!!」

 

 俺が全力で振るった剣撃に反応できず、彼の腹へ剣が当たる。


「ガ――ッ」


 胃液だか唾だかわからない液体を吐きながら悶ていた。

 峰打ちなので殺傷力は無いが、ダメージはかなり入ったはずだ。


 そこからは俺の一方的な攻撃が続いていた。


 カイエンの攻撃は当たらず、しかし俺の攻撃は当たる。


 それを何度も繰り返した。


 十度か二十度か。


「ァ……負けらんねェ……はァ……はぁ……俺がユスラを守るんだ……」


 朦朧とした意識でもう何度目かになるセリフを吐きながら繰り出された拳を避け、隙だらけの体を蹴り付けた。  

 それは軽々と吹き飛び、砂埃を立てながら落下。  

 仰向けに倒れ込む形となっている。 

 

 ……何だよ。

 何でそんな目で見るんだよ。

 

 何で俺をそんなに悪者にするんだよ。


「……」


 確かに俺はクズさ。

 どうしようもなくて、ゴミで、カスで。


 でもそこまで言わなくてもいいだろ……。いいじゃないか……。

 

 そういえば日本にいた時もそうだったな。

 気付けば皆に嫌われていた。


 俺に原因があるのはわかってる。

 わかっていても嫌われてしまう。  


 今回だってそうだ。

 きっと俺はコミュニティに適応できない人種なんだろう……。


 カイエンはどうやら立ち上がる力すら残っていないらしい。

 掠れた声で、悔しげに声をあげていた。


「ごめん……ごめんなぁ……。ごめんなユスラ……。お兄ちゃん勝てなかったよ……。ただ、お前が幸せでいてくれたら良かったのに……。俺は……それすら守れねぇ……!!」


 悲痛の叫び。

 悪い男から妹を守ろうとする彼の必死な叫びだ。


 ――あぁ。


 それを聞いて、どこか心の中の歯車が噛み合うような感覚がした。

 

 俺は人間に馴染めない。


 グロータル村での日々は奇跡みたいな物だった。

 そしてそれはもう無く、人は俺を嫌う。


 好き勝手嫌いやがる。好き勝手言いやがる。


 なら、そうだよ。


 わからないなんて事はなかった。 

 俺も好き勝手やれば良かったんだ。


 正しくあろうとしたのが間違いだった。


 分不相応な理想を掲げるから現実との差に蝕まれ歪む。

 そして歪むから人に嫌われ畏怖されるのだ。


 なら正しさを求めるのはやめよう。

 簡単な話だったんだ。

 

 殺したいから殺す。

 犯したいから犯す。

 欲しいから盗む。


 世間が好き勝手するのなら俺もそうすればいい。


 ザンタボルトも、そして世界も何もかも。


 俺が壊してやる。殺してやる。


 こんな世界、こんな国、こんな街。

 俺の居場所の無いそれら何て必要ないのだから。

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