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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第三章 新たなる出会い
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心配なんだ

 夜風が気持ちいなぁ。

 風に当たった目尻がやけにすーすーする。

 

 暗く染まった街は、昼とはまた違った賑わいを見せていた。 


「お兄さんちょっとどう?」


 胸元を豪快に開けたセクシーな服を着た女がウインクをしてきた。

 日本でいうキャバクラの客引きだろう。


 それを「急いでるんで」と言って断り人のいない広場まで歩く。


 人のいない場所にきたのは理由がある。

 一人になりたかったのだ。


「……」

 

 俺が抱く感情は悲しみ。

 なんておこがましいだろうか。


 俺がユスラにした事を考えたら怖がられるのは当然の事だ。


 だというのに彼女に対する申し訳なさよりも、自身の悲しさが勝っているのだ。

 

「ははは……」


 乾いた笑みがでていた。


 俺は何て駄目なんろう。

 正しくある事から逃げ、筋を通す事から逃げ、そして今は彼女達から逃げてここにいる。


 思えばこの世界に来る前からそうだった。


 人と接する事から逃げたから、だから居場所がなかった。

 いつも受け身でヘラヘラして、威厳を保つ事から逃げていたから、妹からも馬鹿にされていた。

 結局俺は逃げる事しかしていない。


 正しくあるには、筋を通すには、強さが必要なんだ。

 そして俺は酷く弱い。


 なぁ……、ルリー。どうしたらいいのかな……俺……。


「――やっと見つけたよ。ユウキ君」


 突然かけられた女の声。

 声の主へと視線をやる。

 そこにいたのはアイレットだった。


「何だよ」


 今は一人でいたいんだ。邪魔をしないでくれ。


「ウルアンでちょっとゴタゴタがあるみたいなんだ。招集があってね、だから私は国へ帰るよ」

「あっそ」


 そんな事をわざわざ言いに来たのか。

 好きにしろよ。

 親父の事を聞きたかったけど、もう、どうでもいいんだ。


 何もかもがどうでもいい。


「……何があったのかな。まーた表情が変になってる……。情緒が安定しないね君は」


 アイレットは呆れた……。と言いたげな顔をしていた。


「何もねえよ」

「……メンタルの強さは似なかったくせに、意地っ張りなとこだけはお父さんに似てるね。全く……これじゃあ心配でおちおち国にも帰れないじゃないか」

「は? 訳分かんねえこと言ってんじゃねえぞ。さっさと帰ればいいだろう」


 さっきから一人でいたいって言ってんだろうが……。

 察しろよ。察してどっかいけよ。


「あーはいはい。私さ、君の性格が少しずつわかってきたよ。面倒くさい子なんだね」

「殺すぞ」

「怖い怖い」


 なんておちゃらけた様子な彼女。


 アイレットは俺の事をどう思っているのだろうか。


 殺しかけた事もあるし、好意的に思われている事は無いと思うけど……。

 

 見た感じ俺に怯えた様子はない。

 流石兵士って所か。


「私さ君のお父さんが好きなんだ」

「お、おう……」


 突然のカミングアウト。

 俺にどんな反応求めてんだこいつ……。親父の恋愛話とかこの世で一番聞きたくねえぞ。


「好きな人の子供なんだ。私は君が心配なんだ」 

「あっそうですか。放っておいてくれ、一人でいたいんだ」


 肩をすくめながら言う。


 だってこいつが心配なのは俺じゃない。親父の息子が心配なんだ。

 

「……君が何を考えてるかよくわかるよ。君のお母さんがそうだったからね。ホント、なんでそんな所が似てしまったんだか……。うん、よし、決めた」


 アイレットは何やら一人で頷いていた。


「あ?」


 その行動に、思わず疑問を投げかけてしまう。


「王国からの招集なんてどうでもいい。私は君についていくよ」

「は? 何言ってんの?」


 国から招集かかってんだろ?

 軍人としてそれを無視するのはどうなんだよ。

 何考えてんだこの女。


 俺が驚いていると、それが面白かったらしく彼女はけたけたと笑っていた。

 少ししてから落ち着いたらしく、目尻の笑い涙を拭っていた。

 

「言ったろ? 君が心配なんだ。そんな顔してるのに置いていけないよ」


 頭スイーツか? こいつ。

 任務放棄して惚れた男の息子についていくって。

 メルヘン過ぎるだろ。


「お前には関係ない」

「あー! もう、君は本当に面倒くさいな!! とにかく!! 私は! 君に! ついていく!! いいね!?」

「お、おう……」


 凄い勢いのアイレットに、気づけば思わず「好きにしろよ」と言ってしまっていた。

 

 俺の返答に満足げな顔をし、彼女は口を開く。


「それでよし。私はちょっと王国からの遣いに虚偽報告すませてくるから、また後で落ち合おう」

「虚偽報告って……」

「体調不良って事にする。私は一応『剣鬼』とか呼ばれてたりして結構慕われているんだよ? 部下を丸め込むくらい余裕さ」

「まぁ、強いしなあんた」


 あんだけ強いんだ。慕われててもおかしくない。


「まあ? 恋は心の病って言うし? 私が体調不良っていうのもあながち間違えじゃ……」

「……?」


 彼女は何を言っているのだろうか。


 俺の反応に気不味そうな表情を浮かべながら、彼女は街の方へと消えて行った。


 ……。

 アイレット。良いやつ、だよな。


 俺を嫌わないどころか心配してくれてる。

 強さとは別に、そういう器のでかさも慕われる理由になっているのだろう。


 夜空を見上げながら、素直に彼女の申し出を喜びたいと感じていた。


  

―― 



「はぁ……」


 足が重い。

 肩が重い。

 扉を開けたくない。


 宿の中、ユスラとカイエンの部屋の前で俺は立ち呆けていた。  


 ホワイトラビットのシチューは部屋の外の床に置いてきたんだけど、それが無くなってるから気付いて食べたんだろう。


 俺が持ってきた料理なんだし、空き皿も回収してやんなきゃ駄目だよなぁ……。

  

 マジで入りたくねえ。  


 なんて時間を浪費していると


「――」


 扉が開かれ、カイエンが部屋から出てきた。


「! あんた、そこにいたのか」

「あ、ああ」


 彼の言葉に、どもりながら頷く。

 

「よかった。探してたんだ」

「ん? 俺になんか用か?」


 カイエンが俺を探す? 何で?


「二人で話がしたい。ついてきてくれ」


 俺の問いかけに返すように、彼は真剣な眼差しで言っていた

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