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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第一章 プロローグ
5/85

グロータル村

「ハッハッハッハ」


 うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい。


 テーブルの上に出された、肉やパンや野菜やよくわからない謎の固まりまで、皿の上にあるそれらを片っ端から口の中に詰め込んだ。


 空腹の体に染みる……。


 ありがてぇ……。ありがてぇ……。

 

 涙ぐみながらガッツいていると向かい合って座る老人に笑われてしまう。

 彼はこの、グロータル村の村長だ。


 誤解の解けた俺は村長宅で飯を頂いていた。


 門番の男は急に現れた俺を見て敵だと勘違いしたらしい。


 転移魔法の事は言わない方がいいらしいので「神に助けてもらった」「……貴方は神を信じますか?」とかぼかしながら説明したところ頭の可愛そうな子だと思われたっぽく、こうして村長宅に招かれていた。


 この際何でもいい。 

 それで敵対されないのなら頭可愛そうな子のレッテルも甘んじて受け入れよう。

 そうレッテル。レッテルの、はずだ。



「ありがとうございました!!」


 村長に向かって頭を下げる。

 白髪の彼は笑みでそれに返してくれた。


「いやいやお気になさらずに。何もない村だがゆっくりしていくといい。何か困ったらまたおいで」


 そう言って手を振ってくれた。

 いい人だ!


 見送られながら家を出て村の中を歩く。


 RPGの最初の村って感じだな。


 木造の家々と畑。

 後は村の周りを囲うように二メートルほどの木の柵があるくらいだろうか。

 この村は森の中にあるから、獣対策とか色々あるんだろう。


 開閉式になっている村の入り口の所には先程俺に槍を向けてきた男の姿が見えた。


 さて。

 

 どうしよう?


 まずは金が欲しい。


 定番のギルドとかがあれば話は早いのだが、この村にそんなものは存在しない。

 何なら宿屋もないらしい。


 どうしよう?

 本当に。


 別の街へ向かおうにもまた森で遭難しかねない。


 近くにあった倒木に腰掛けて頭を抱えた。


「きゃっ」


 可愛らしい声が聞こえる。

 横を見てみると女の子がいた。

 森で見た赤髪の女の子だ。


 とうやら先にいたこの娘の横に俺は座り込んでしまったらしい。

 いきなり真横に座るのはやべぇ奴だな。


「あ、ごめん」


 言って立ち上がろうとする。


「あ、いえ。お気になさらずに」

「あ、お、うん」


 抑止され戸惑った。


 立ち去るべきか? いやでもお気になさらずにって言ってんだぜ? ここで立ち去ると嫌なやつじゃね……?

 コミュ障スキルを遺憾なく発揮し戸惑う俺に、彼女が手を差し出した。


「あの、これ。良かったらどうぞ」


 その手の中には筒状の何かが。


「へ?」

「さっき、その、ついばまれてたから、ど、どうぞ薬です」


 視線を斜めの方へ向け、恥ずかしいに渡されるそれ。


「あ、ありがとうございます」


 恐る恐る受け取った。


「じゃ、じゃあ!! 私行きますね!」


 言って赤面させた彼女はバっと走り出してしまった。


「あっ……」


 立ち上がって呼び止めようとするが、もうあんなに小さくなってしまっている。

 

 なんだあの娘。

 良い子じゃないか。


「いつっ」


 貰った傷薬を塗り込みながら俺は照れくさく染まった頬をかいた。



――



「やーだ!! やーだあああぁぁぁぁ!! シチュー!! シチューなのぉぉぉぉ!! シチューじゃなきゃやだああああ!!」


 泣き叫ぶ少女の姿があった。


 地面に寝転がり手足を上下させるその姿はまるで駄々をこねる幼児だ。


「娘だ。気にしないでくれ」

「は、はい」


 横にいる大男に促され家の奥へと案内される。


 晩御飯のメニューで揉めているらしいその娘は、ってかよく見たらさっきの赤髪の娘じゃねえか。

 家と外で全然違うな!?

 その娘はキッチンに立つ母親に訴えかけるようにバタバタ暴れていた。


 しかしその視線が俺へと向いた。

 部屋の外――廊下に立っている俺の存在に気がついたらしい。

 

 顔を真っ赤に染め、廊下からの死角の方へと走っていってしまった。


「なにしてる? 早く来い」

「あ、はい。すみません」


 先を行く男に言われ、俺は慌ててその後を追った。



 困り果てた俺は村長さんに「仕事はありませんか?」と聞くことにした。

 その結果、この木こりの男の元で住み込みで働く事になったのである。


 まさかあの女の子の父親だとはな……。

 

「タラタラしてんじゃねェ!!」

「はい!! すみません!!」


 元気よく答えて足元の丸太を担いだ。


(あっ。死んだ)


 全身が悲鳴を上げるのがわかった。 

 

「ちまちま運ぶな。もう一本一緒に持ってけ」

「いや、死にます。マジで死にます」

「死なない死なない」

「死にます」

「ははは。大丈夫だって」


 黙れゴリラ。

 

 男の巨体を見ながら心の中で悪態をつく。


 早速俺は村ハズレの作業場で仕事をしている。

 人手不足だったので丁度いいそうだ。

 

「やっべぇ」


 丸太を十本近く持ち上げる親父さん。


 えっぐい。

 凄え。

 本当に同じ人間だろうか?


 彼はゴリラか森の妖精だったりしないだろうか……? 

 もしくはゴリラの妖精。


 丸太を運び、顔を苦痛に染める俺へ声がかけられた。

 

「あははは! 苦しんでる! 苦しそうな顔してる!! ウケル!!」

 

 あの女の子の物だ。

 名前をルリーと言うらしい。……何でここにいるかは知らない。


 顔を赤くして開き直ったように大笑いしていた。

 家での自分を見られたのが恥ずかしいみたいだ。


 だって外と全然違うもんね……。


 内弁慶ってやつかな? 

 ……俺かな?


「どはぁ……っ」


 作業場の隅へ丸太をおろす。


 疲れた。

 やばいな。


「おう、お疲れさん」


 言って親父さんがジョッキを渡してきた。


「これは……?」

「もう今日の仕事は片付いたからな。一息つきたいだろ?」

「ありがとうございます」


 俺はそれを受け取る。

 中には何かの液体が入っていた。


 丸太に腰掛けそれを飲――ってビールじゃねえか!!


 未成年に何飲ませてんだよ!?


 いや、ここは異世界だし特に法律とかもないのか……。


「あ、因みにそれお前の給料から天引きしとくから」

「えぇ!!?」


 ちゃっかりしてんなぁ!!?

 美味しいからいいけど!!


「おとーさん。私も飲みたーい」


 ルリーが甘えた声を出した。


「お前は駄目だ。飲んだら漏らすだろう?」

「――っ!! 漏らさないし!!」


 赤く染まる少女の顔。


 お前……。漏らすのか……。


 最初のイメージからどんどん崩れていく。

 ちょっと照れ屋でおしとやかな女の子かな……? とか思ってたのに。


「……」

「ち、違うからね? たまーにだからたまーに!」

「……おう」

「本当にたまにだから!!!」


 恐らく同い年くらいだろうこの娘の叫び声がうるさいくらいに響いた。


 ……たまにも普通にアウトなんじゃねえかなって。

2020/07/11 リメイク済み

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