邪魔
「ふっ――」
カイエンの放った拳が相手の腹にめり込み、一瞬にしてその意識を刈り取った。
「流石だな」
思わず賛美の言葉が漏れ出る程に鮮やかだった。
カイエンの実力を見たくて見張りの排除をお願いしたのだが、彼は思った以上に優秀みたいだ。
「別に。当然ですね」
褒めた筈なのに不機嫌そうな顔をしていた。
う〜ん……。相変わらず愛想もクソも無いなぁ……。
別にいいけども。
彼の戦闘スタイルは拳を使うらしい。
だからちゃんとメリケンサックみたいな武器を買い与えてある。
武具店で買ったのは俺の装備だけじゃなくて、ユスラやカイエンのも買ってある。
そのへんはしっかり考えてるんだぜ俺。
「さ、奥へ進もう」
アイレットの言葉に頷いて洞窟へと入った。
所々に松明が設置されており、視界は困らない明るさを保っていた。
この洞窟、思ったより単純な構造をしている。
入り口から一本の道が伸びていて、最奥の広間へと繋がっている作りみたいだ。
そしてその広間には盗賊団が集まっているみたい。
「五人か。大した事ないな」
でっぱった岩陰に隠れながらその様子を見ていた。
連中の他には盗んだと思わしき金品と、あれは……何だ?
小さな女の子が地面に敷かれた藁の上で横になっている。動く気配が無いため、寝ているのだと思われる。
「攫われた民間人かもね」
疑惑が顔に出ていたらしい。
アイレットが答えてくれた。
俺も同意見だ。
見た感じ五歳くらいか。
そんな娘が盗賊団の一員とは考えにくいしね。
敵勢力は五。
全員男で、短剣を腰に装備していた。
「俺が一人で突撃してくるから、逃げる奴がいたらその対処を頼む」
俺は視線は向けず、他の三人にそう言った。
盗賊団がアイレットのいた部隊レベルの練度を誇っているとは思えないし、なら俺一人でも何とかなる。
むしろ変に乱戦に持ち込んで取り逃がす方が厄介だ。
「わかりました」
とカイエンが言い
「もし傷を負われたらすぐ回復できるように魔法の準備はしておきます」
と、ユスラが持たせてある杖を力強く握る。
しかしアイレットだけは俺の案に否定的だった。
「私も行く……もし君の身に何かあったら困るから」
「え、心配してくれてんの……?」
何で?
俺ら敵同士だぜ?
「心配というか、なんというのか、とりあえず一人では駄目だろう。私も行く」
「……? まあ、いいけどよ」
一人で突撃するが最善だと思っただけで、別に拘ってるわけじゃない。
逃げようとする奴も、処理はカイエンに任せればいいだろうし。
ぶっちゃけどっちでもいいのである。
「よし。じゃあ私は左の三人を倒すから、君は右の二人をやってくれ」
「違う。アンタが右の二人で、俺が左の三人だ」
彼女の提案を蹴る。
だって俺の方が強いし。
「三人の方が二人より危険だろう? だから私がやる」
「いや、さっきからどうしたよマジで」
心配する母ちゃんみたいな表情を浮かべるアイレットに、思わず頬が引き攣ってしまう。
「べ、別に……何がどうこうという訳では……」
何か妙に歯切れ悪いし……。
まあいいか。
今は盗賊退治が先決だ。
「とにかく俺が左の三を殺る! いくぞ!!」
「あ、あぁ!!」
ワンテンポ遅れて返事をしてきたアイレットと共に駆け出し、剣構えた。
「――!!」
盗賊団員の顔が驚愕に染まるのとほぼ同時に俺の剣が彼らの首を跳ね飛ばす。
二閃。
鈍い落下音が二度続けて聞こえた。
一瞬だったな。
二人片付いた、後は一人か。
「な、なんだてめえら!!」
盗賊の男は、吹き出す血を浴び真っ赤に染まった俺を怯えた顔で見ていた。
アイレットの方見てみれば、向こうも片付いたようである。
……よく見てみたら殺さず生け捕りにしてるし……。
流石だな。
何はともあれ、こいつで最後な訳だ。
「じゃあな」
剣を振るおうとした時であった。
「やめろ!!」
小さな影が俺と男の間に割って入る。
それは小さな女の子。
先程藁で寝ていた少女だった。
「……あ?」
何で盗賊を庇う。
こいつ民間人じゃなかったのか。
俺の困惑を他所に目尻に涙を溜め、少女は声を荒げる。
「お兄ちゃんを……虐めるな……!!」
……お兄ちゃんって事はこいつも盗賊団関係者か。
「どけ、邪魔するなら殺すぞ」
関係者って言ってもまだ子供だし、邪魔しないなら殺す必要も無い。
「嫌だ!!!」
「――」
しかし、邪魔をするなら殺す。
必要なら容赦無く殺す。
かつて俺の決意の無さがアーランドを殺した。
けどもう違う。
殺すんだ。殺せるんだ俺は。
そう、殺せるのだ。
例え相手がどんなやつだろうと、責任能力の無い子供であろうと、殺せる。
「――」
固く握った剣を振り上げる。
必要なら何だって殺せる。
だから――こいつも殺さないと。
力を込めそれを振り下ろす。
――襲ってきたのは骨を断つ鈍い感覚では無く、
「――何をしてるんだ」
硬いものに弾かれる感覚だった。
アイレットが剣で俺の攻撃を防いだらしい。
「邪魔をするなよ、アイレット」
これ以上邪魔をするなら、お前も殺さないといけなくなる。
だから、――俺の決意の邪魔をしないでくれ。




